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にわかゆうれい。







「……アレ?…名前ちゃん?」

「おはよ」


副長達と別れてから数時間後。万一ということも考えてひとり一人魂魄を喰われたりしていないか診たのだが、やはり異常はなくただ悪夢にうなされてるだけで。こうなれば自分の出番はないなと見切りをつけて早々に傍観者となって 六人の様子を眺めていた。そしてとうとう赤い着物の女が彼らの前に現れて子供達はなんとか逃げ切り、馬鹿二人が庭の中で身を潜めているのを笑いながら見ていると、退が漸く目を覚ましたというところだ。


「お腹は大丈夫?」

「まぁ、大丈夫だよ。いつも副長にやられてるしね。…それよりさ、なんで屋根の上?」

「ん?」


傍観ということは一番良く見える位置に移動するのは当然で。同じ高さにいたのでは銀時辺りに絶対に手伝えと言われるのでそれを回避する為に、屋根に上ったのは必然だ。ちなみに退を連れてきたのは単なる気まぐれだ。


「馬鹿と猫は高い処が好きってね」

「え?なにソレ。どういう意味なのソレ。俺は馬鹿だってこと?それとも猫っぽいってこと?」

「どっちも」

「俺、君になんかしたっけ?」


寝起きでもしっかりとツッコむ退は偉い。それが何故か面白くなってしまって、思わず笑いながらあげると言って棒付き飴を差し出した。


「あ、ありがと。で…赤い着物の女ってなんだったの?」

「天人」

「天人?…え、どこの?」

「それは分かんないけどね、倒れた隊士達ひとり一人の体に必ず一個大きい赤い痕があるのを見つけてさ」

「赤い痕?」

「そ。それにね、彼らが倒れたのはショックもあったんだろうけど、医学的観点から言えば単なる貧血」


飴をくわえながら私の言ったことをぶつぶつと繰り返した退は、直ぐにあそっかと短く声を上げた。下の庭ではちょうど馬鹿二人が赤い着物の女を捕まえたところだった。


「…蚊の天人」

「そーゆーこと」


ほらアレ。
そう言って下を指差せば副長と銀時がその天人のそばに仁王立ちをしているのが見えた。一見すると人間のようにも見えるが、背中から羽が4枚生えているので天人だろう。子供三人が帰ってきたのを見て、口を揃えてロープ持って来い、糞ガキ共と要求しているのはなんだか笑える。あれだけ険悪な言い合いをしているが、仲は良さそうだ。


「…名前ちゃん」

「んー?」


副長と銀時の喧嘩するほど…の通説を眺めていたのだが、ふと退に呼ばれて顔を向けるとなんだか真剣そうな表情が見えた。あ、なんだか面倒臭そうな予感。昨日の魂葬事件のことを追求されるのかと思い、少し身構えていたら急に腕を掴まれた。しかも昨夜斬られた所を。


「…………何」

「どうしたの?この怪我」


何故分かる。私は何も言ってないし、顔も歪めてないし、呼吸も乱れていない。更に言えば万一他の隊士と接触した時にバレない様に傷口のガーゼプラス包帯は避け、ドレッシング材を貼って長袖のアンダーシャツを着るだけにとどめた。どうせ隊服は長袖のシャツジャケットだから暑さに変わりはない、と我慢した。
なのになんだコイツは。何処をどういう風にやって見れば分かるんだ。どーなってんの、コイツの目は。


「どうして分かったか知りたい?」


しかも、もう決定事項で進めている。何故そんなに自信を持てるんだ、と悔しさよりも好奇心が優った。


「…肯定しなくとも話すんでしょ、どうせ」


今日は元々隊服はではない。夏らしいやろとこないだ屯所に遊びに来たリサが置いてった紺色に下の方に一輪の大きな向日葵が咲いている浴衣を着ている。退の腕を退かせて裾を捲って傷を見せると、彼は思いっきり顔を歪めた。


「ちょっと待って。この傷でなんでそんな平然としてられるの」

「私我慢強い子って昔から言われるの」

「そういう問題じゃない。病院は行ったの?ていうかなんで血止まってんの」


再び私の腕を掴み、傷を良く見ようとする退の頭を叩くと彼は恨めしそうに私を見た。


「私の質問はどーなった」

「あ、ごめんごめん。朝食だよ」

「は?」

「今朝、ご飯食べてるとき名前ちゃんお箸落としたでしょ?いや、正確には食べようとした時かな。でその箸を拾ってもう一度食べようとした時に落ちる前とは逆の手で箸を持った。君は両利きだから全く不自然には見えなかったんだけど、落ちる瞬間の表情が気になってね」

「痛みで顔を歪めていた、と」

「そう。しかも箸なんて軽い物を持つという動作も出来ない程に、ね」


大した物だ。というか、見られていたとは知らなかった。食堂なんて人で溢れ返っていて、偶然見たり或いは一人の人を見ていようとでも思わない限り目に入らない。しかも私は人目を避けるために隅の方でうどんを啜っていた。それを追いかけるとはこいつ私のこと大好きだな。気持ち悪。


「ち、違うよ!偶々目に入ったから追いかけたんだよ。そう言えば今日非番だないいなって思って」

「へぇ…そう」

「名前ちゃん!」


きっと普通の隊士ならそれで済むだろうがコイツは監察だ。私の怪我に気付く程の。喜助の忠告を身を以て知るとは思わなかったが、兎に角話題は逸らしたい。ストーカー変態第二のゴリラなど悪口雑言をひたすら浴びせて退の気持ちをへし折る作戦に出た。しかし、それも一通り出尽くした所で不意に彼の表情が変わった。どうやら彼の気を逸らすのは失敗したらしい。


「なんで話してくれないの?」

「護衛は護るためにいるのであって、護られるためにいるのではない。護る対象に護られるなど言語道断だよ」


そう答えると、退は何処か悲しげな表情を浮かべた。


「名前ちゃん。もう来て1ヶ月半は経つから気付いてると思うけど…僕ら真選組には、役職云々よりまず全員が仲間という認識が先だ。その仲間の心配をするのに上司だ部下だっていう考えはないよ。勿論護衛とその対象も…」

「退」


退の言っていることは正しい。確かに真選組は縦よりも横の繋がりの方が強い。そりゃあ戦場では上下関係はしっかりしているが、普段の生活は見てて微笑ましいものがある。私だってそれは分かっているし、仲間として接している部分は多くある。それに見回り中に浪士やらに会ったら副長や総悟に話しぐらいはする。
が、今回の件に関してはそんな“仲間の法則”は適用されない。だって死神(うちら)に関する問題だから。幻族の件は地球でどれぐらい認識されているかを確認するという名目で多少退に話したって良いと思ったが、昨夜の件を丸々話すつもりはないしまず話せるわけがない。退のなんで話してくれないの?というセリフは、“本当のことを”という言葉が隠れている。流石に優秀な監察だけあって読みは鋭いが、話せば退自身も真選組にも危害が及ぶ。隠れた言葉には気付いていたが、ワザと気付かないふりをして話のベクトルを微妙にずらした。退には悪いが、残念ながらこれ以上は言えない。
だが、これ以上隠しておくのも恐らく無理だ。彼は、優秀すぎる。


「…ありがと」


だからその先の言葉を遮るように名前を呼んでそう言えば、退は目を見開いた。言葉が出て来ない辺り相当驚いているらしい。予想だにしなかったのだろう。

そんな彼に微笑むと、瞬歩を使ってその場から姿を消した。





















(カミングアウトも時間の問題)

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