にわかゆうれい。








「あー…気持ち悪ィー…」


拝み屋と称し真選組へ来たのはやはり万事屋の3人だった。最後まで上手くやって大人しくお金を貰って帰ればいいものを、やはりこの3人はそう上手くやれない性質らしい。詐欺だとバレて暫く逆さまに吊されていたのだが、流石に屯所内で死人を出すわけにもいかず、漸く開放されたところだ。比較的大丈夫そうな新八に二人分の氷水と濡れたタオルを渡して神楽を頼み、自分は銀時の方へと向かう。


「……なにアホなことやってんの」

「言ったろ?お金も悪気もなかったって」


手渡された濡れタオルを額に乗せながら気持ち悪ィーと言う銀時に、自業自得やと一喝する名前。


「ひっでェなァー……つーかさ、霊っつったらお前の守備範囲じゃねェの?しかもゴリラの話だと、この屋敷に取り憑いてるーとか言ってたじゃねェか」


少し声を顰めて言う彼に氷水を渡しながら、んーと唸ると名前も声のトーンを少し落として答えた。


「銀時。基本的に整は、人間の健康状態を悪転させる程強い霊力を持ってないのよ」

「ん?…ってことは…」

「それにね、局長が言ったような屋敷に取り憑いてる霊、まぁ所謂地縛霊は生前土地に未練がある人がなるものなんだよ。それはもう物凄い執念深さでね。縄張りに入っちゃうと何をされるか分からない」


話しているうちに銀時の顔が先程から訴える気持ち悪さとは違った意味で青くなっていく。聞いた話を自分の中で想像して怖くなったんだろうが、馬鹿としか言いようがない。


「そ、そそそそそれでェ?い、いたりしちゃってるのかなァ?…その、地縛霊は」

「見た限りではいないよ」


その瞬間、あからさまに安堵する銀時。なぁんだ、と言って氷水を飲んでいる。そんな彼を少しからかいたくて、立ち上がりながらでもと付け加えた。


「普通の霊はふらふらと屯所に入ってくるんだからね?」

「…え?」

「言ったでしょ?私此処に来てから結構な人数魂葬してるって」

「……え゛…」

「ほな。幽霊退治頑張りや〜“拝み屋”さん」

「ま、…待て待て待て待てェェエ!!」


再び固まった銀時に後ろ手に手を振りながらその場を後にしようとすると、悲鳴のような叫び声がが聞こえた。まるで情けないそれはとても男の出す声とは思えず、思わず眉を顰めてしまった。そら見たことか。その声に土方を始め、全員が何事かと此方を見ている。それを見て一瞬まずいという顔をした銀時は、叫んだ勢いで立ち上がった足をそのまま数歩進ませ私の右腕を掴んで少し引き寄せると再び声を顰めて言う。その若干焦った様子が面白い。


「ぶ、物騒なこと言い残してくんじゃねェよ!!つーか、なに!?お前は何処行くんだよ!?」

「退んとこ。あんたがさっき除霊しようって一発入れたやろ。取り敢えず医務室連れてくの。医療班全滅だし」

「俺じゃねェェ!!アレは神楽だァ!!つーか治療なら喜助辺り呼んで任せろ!!アイツならきっと出来る!!やれば出来る!!出来ないことはない筈だ!!そしてお前は安心してここに残れェ!」

「……あんたは喜助をなんだと思ってるのよ」

「喜助様は神様です。雑用から戦闘まで何でもこなす、便利な神様です」

「そんなんもう神様て言わへんわ。寧ろ何でも屋…あんたらの本業やないか」


八割笑い二割呆れでそう言うと、銀時の腕から自分の腕をするりと抜いて縁側に座る土方と近藤の元へと足を進める。だがそれでも諦めないのが銀時。オイ待てよと言いながら再び手を伸ばして来たので、振り返りながら軽く笑って小さく一言呟いた。


「…【破道の一 衝】」

「ぅお!?」


前を行く人の手を掴もうと前屈みになっていたのは一転、銀時は見事に後ろへと尻餅を突いた。


「てめっ、汚…」

「先手必勝ってヤツっスよ〜銀時サン」

「腹立つッ!!どっかの神様に言い方そっくりなとこが余計腹立つッ!!」


そうやってギャーギャー騒ぐ銀時の無視を決め込み、縁側へと辿り着くと土方と近藤に向かって口を開いた。


「局長、副長。私は倒れた隊士と退を看てきます。何かあればお呼び下さい」

「オウ!よろしくな!」

「はい、任せて下さい」

「…非番だってのに悪いな」

「いいえ。吉田屋の葛餅で構いませんから」

「………考えといてやる」


副長にしてみれば良い返事だ。それを聞いて得をしたとにっこり笑うと、土方が万事屋トリオに叩き斬るだなんだと言い始めたのを後ろに聞きながら屋敷の中へと入って行った。

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