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にわかしにがみ。





斬られても喜助がなんとかしてくれるだろう。そう思っていたのだが、痛みが走ったのは左腕だけで、予想していたのより遥かに軽い痛みに驚いたのとほぼ同時に体が浮いた。


「き、喜助…」

「遅くなっちゃってスイマセン」


今名前がいるのは喜助の腕の中。どうやら彼女の体へ刀が入る前に、咄嗟に相手に鬼道をかけて剣先をずらし、なんとか引っ張り出したらしい。近くの屋根の上に喜助は降り立つと、軽く謝りつつ名前を左腕に抱えたままま紅姫を構える。意外にも彼の刀は解放済みだった。
直後。先程突然襲ってきた奴が斬りかかって来た。それを鈍い金属音を響かせながら受け留めると、一気に薙払う。敵さんは結構な大男であったのにも関わらず5メートルぐらい吹っ飛び、右腕一本でやってしまった喜助に思わず目を見張る。


「…名前さん、腕は?」

「大丈夫。だから降ろして」


ハイハイ、お嬢サン。と言われながら降ろして貰うと、名前も斬魄刀を解放した。


「……さてと。行けますか?」

「はい」


と、返事をした時には既に二人の姿は消えていて。瞬きよりも早く、飛ばされた敵の背後と目前に現れた。後ろが名前、前が喜助。喜助が紅姫を振り下ろし、それを大男が辛うじて受け留める。その後ろから鎖結に狙いを定めて名前が刀を突き出した。その間、僅か1秒。人間はおろか、並大抵の死神はまずついて来ることの出来ない速さだ。


「…っ…ぐぉ…」


立て続けに魄睡も刺し、男が呻きながら地面に倒れ込んだ時には既に名前は刀を鞘へと収めていた。


「いやァ〜お見事っス」


地面に付している大男の顔を見ようと足で蹴ってひっくり返していると、間延びした声が聞こえた。だが、そんな声の主を顰めっ面をしながら名前は見る。


「何がお見事、だ。ご丁寧に曲光で覆った六杖光牢をかけたクセに。殆どお前が仕留めたようなもんじゃないか」

「…い、いやー…お見事っス…」


自分の小細工が意図も簡単にバレたことに広げた扇子の後ろへ顔を隠しながらぼそぼそと呟く喜助を名前は鋭い目で見た。


「…それに、喜助が鬼道かけてなかったら鎖結なんて突かなかった。人間にそんなことをしても意味はないからね」

「…流石っス。アタシらの教育の賜物っスかねェ」

「さりげなく自分を誉めないで。それより、何なの?コイツは」

「まぁ…簡単に言ってしまえば、俄死神っス」

「…“にわか”死神?」


聞いたこともない単語を即答され何だソレは、と眉を潜める。


「幻族(まぼろしぞく)、というのをご存知ですか?」

「知らない。地球外の星?」

「はい。地球に割りと近い所にある星で、ここ二三年になって漸く地球に来るようになった一族っス」


そう言いながら喜助は名前に上着を脱ぐように促す。彼女がそれに従うと左腕の斬られた部分のシャツが鮮血に染まっているのが目についた。それを見た喜助は、何の躊躇いもなしに赤く染まった部分のシャツを切り落として治療を始める。


「……結構深いっスね」

「喜助がゲームをしてた分、ね」


それにギクリと身を引く喜助にニヤリと笑うと、それで?と先を促した。


「そ、その一族はちょっと変わった性質を持ってましてね」

「性質?」

「ハイ」


ホラ、夜兎…まぁ神楽さんみたいに自己治癒能力が高いとか、大食いだとか、怪力だとか。そういうのです。幻族にもそれがあって、大別すれば二種類。
一つは“目”。
彼らと目が合うと、金縛りにかかったように身動きがとれなくなるんスよ。ハイ。名前さんが身動きがとれなくなったのはコレっスね。あ、でも普段は眼鏡かコンタクトで隠してるらしいっス。
二つ目は“高い霊力”。
霊力という呼び方は我々しかしませんし、そもそも彼らは霊力が高いのが普通なので、あくまで我々からの視点になります。が、本当に高いんス。死神は裕に見えますし、彼ら同士の気配の把握は我々死神と同じく、霊圧で行ってるとみて間違いありません。


「…だから、兄ちゃん達は幻族のことを俄死神と呼んでるの?」


少し長めの説明を一つも漏らさず頭に入れ、軽く整理してからそう問いかけると喜助は首を振った。


「違います。俄、とついてはいますが死神なんス。我々と同じ」

「…どういうこと?」

「人間への死神能力の譲渡、ってご存知っスよね?」

「…そりゃ、知ってるけど……」


ていうか知ってるもなにも、第一級重過罪だ。現世駐在任務の際、絶対何があってもやるなと浮竹にキツく言われたこともある。そうでなくとも、やろうと思ったことのある死神などまずいない。
だが、いたのだろう。
幻族の高い霊力に目をつけソレをやった死神が。


「…藍染か?」

「ご名答」

「何の為に」


それはまだ調査中っス、と言って両手を上げる喜助。どうやら珍しく難航しているようだ。ちなみに祭の翌日に厳しい表情で『高杉と何かあったか』と聞いてきたのは、この『幻族について何か話さなかったか』ということだったらしい。


「近藤さんが急に走ってくるもんスから、あれ以上詳しく聞けなかったんスよ」

「そういうことね…」


藍染と直接繋がりがあり、死神に興味を持っている高杉なら何か情報を持っているのでは、という喜助のの思惑は外れたわけだ。いつの間にか治療を終え、包帯が巻いてある腕をじっと見ながら名前は口を開いた。


「喜助兄ちゃん達もその、俄死神と接触してるんだ?」

「はい。二度程。一回目はリサさんと愛川さんが本屋へ行った帰り、二回目はひよ里さんと白さんが万事屋へ行く途中に。一応、藍染のことを聞き出そうとしてるんですが記憶を消されていて、何も知らないの一点張りなんスよ。覚えてるのは僕らのこと、と何か…」

「…でも、野放しにするワケにもいかない」

「だから。仕留めることにした」

「…いずれも鎖結と魄睡を砕いて?」


それに頷く喜助の表情は無表情だ。


「……まぁ、目を直接見なければいいんだし。それに充分対処の仕様があるんだから、なんとかなるよ」


脱いだ隊服の上を着てスカーフを直しながら軽く言う若葉を見て、喜助は困ったような顔をして呼び掛けた。


「名前さん…」

「ん?」


どうしたの?というように首を傾げれば頭にぽんと手を置かれた。


「油断は禁物です。奴らの狙いがハッキリしない上に、未だ調べ途中ですが幕府との繋がりの可能性を捨て切れない。それに我々だけを狙っているとも断言出来ないっスからね」


喜助の言いたいことは分かる。自分らではなく自分達の周りの人間…名前で言えば、真選組の人間にも危害が及ぶかもしれないと言っているのだ。


「……呉々も、気を付けて下さい」
































(そういえば名前さん、呼び方戻したんスか?)
(へ?何が?)
(“喜助兄ちゃん”、って…)
(げ。考えすぎてて気づかなかった)
(アタシはそのままでもいいんスけどねェ…)
(こういうロリコンがいるからやめたの)

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