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書類整理時々魂葬。







その日の夕方。死覇装に着替えた名前は道場にいた。


『名前。どんなに忙しくとも、せめて一週間に一回は斬魄刀との対話をしなさい』


百年程前に大切な人から言われた言葉だ。だから、その日から一度も欠かさずやってきた。が。尸魂界と違って頻繁に斬魄刀を使うことがない上ひここ最近、忙しくて完全に頭から抜け落ちてしまっていた。数えてみれば、前回対話をしてから一週間と2日経っている。これはまずいと思った名前は、こうして道場の真ん中で胡座をかいてその上に抜き身の斬魄刀を水平に置いて対話をしている最中だ。ちなみに、彼女の書類整理はとっくに終わったらしい。


『副長、私は終わりましたのでお先に失礼致します』

『早くねェ!?』

『こういう類のは得意なんです。道場にいますので、何か御座いましたらお呼び下さい』

『じゃあこの書類を…』

『駄目です。自分のものは自分でやりなさいっていつも言ってるでしょう?』

『お母さん?』


沖田の始末書はさておき、経費関連やら現状報告やら検挙報告やら尸魂界にいたころ似たようなものを何十年も頻繁に書いていたので、こういう仕事は早い。皮肉なことではあるが。

名前は元十三番隊第四席だ。病気がちな十三番隊の隊長は寝込むことが多かった。その度に海燕が浮竹の代わりを勤め、それを名前が補佐していたのだが、彼はデスクワークは苦手だったので殆ど名前が処理していた。それを見てよくリサに言われたものだ。


『なんや、名前は海燕の補佐官みたいやなぁ』


京楽も海燕と同じようにデスクワークを極力避けていたので似たようなものを感じたのだろう。そう言って浮竹や京楽と笑っていた。


「………元気かなぁ……隊長…」



尸魂界にいた頃を思い出し、思わず呟いた時だった。


「……後ろガラ空き隙だらけ」


その一言と共に竹刀が振り下ろされた。

対話中だったとは言え、人間の気配に気付かないとは何事か。気の緩み具合に若干顔をしかめながらも、胡座の姿勢からバク宙をして襲撃をしかけてきた人物の後ろに悠々と着地する。その着地点で再び竹刀が体の左側から飛んできたので、咄嗟に左手に持っていた鞘でそれを受け止め、右手の刀を振り下ろす。それをこちらから見て左に飛んで交わす少年。それでも刀が掠めたのか、栗色の髪が数本舞った。その髪に少年が僅かに目を走らせたのを見逃さなかった名前は、目にも止まらぬ速さで後ろに回ると刀の切っ先を首筋に当てた。それと同時に道場に響く舌打ち。


「…チェッ……それにしたってあの体勢からバク宙なんて、一体どんな神経してやがんでィ」


少年、沖田が、舌打ちをしながらも降参だというように竹刀から手を離し両手を上げたのを見て、刀を引くと鞘に戻して腰に差した名前。こちらを振り向きながら少し悔しそうに言う少年に、ちょっと待てという顔を返した。


「いやいや。ソレ、コッチの台詞。あの状況で後ろから気配消して全力で竹刀振り下ろすってどんな神経してんねん。しかも女の子に」

「ありがとうごぜェやす」

「誉めてへんわ、アホ」


丁寧に頭まで下げてお礼を述べる沖田に半分笑いながら呆たように溜め息を吐いた。


「で、何しに来たの。まさか悪戯しようと来たわけじゃないでしょう」


もう今日の仕事はないのだろう。隊服ではなく袴姿で立つ自分より背の高い少年を見上げると、無表情のまま見つめ返して来る沖田。
それにしても、相変わらず何を考えているのかさっぱり分かんないな。と、思った時だった。


「今日の深夜の見廻り、変わって下せェ」

「………ん?」


まるで自分の考えを読まれたかのような話の振り方。まさに“何を考えているのか分からない”彼の一言に思わず動きが止まる。


「……沖田隊長。もう一度言うてくれない?今日の深夜の…なんやて?」

「見廻り代わって下せェ、四楓院補佐官」


どうやら聞き間違いではなかったようだ。涼しい顔ではっきりと言い切る沖田の言葉には遠慮などない。あれだけの奇襲をしかけときながら見廻りを代われだなどと良くぞ言えたものだ。少し眉間に皺を寄せながら彼の顔を見つめ返し自分で行きなさいと言うと、えーと残念そうな声を漏らした。


「当然でしょ?それにあたし明日は非番なの。だから今日は早く寝て明日の昼まで寝る予定」

「早寝は美容の大敵ですぜィ?」

「聞いたことねェよ」


代わってよ〜ねェ、代わって〜代われや、名前。と、無表情で永遠と駄々をこねる沖田にそろそろ折れてしまいそうになった時、ふと頭をある一言が余儀った。


…『その話はまた今度にしましょ』


「……総悟。代わってあげる」

「代われやー名前ー……ん?今、なんて?」

「だから代わってあげる。どうせ夜に土方暗殺計画でも実行するんでしょ?」

「すげェや、名前。まさにその通りでィ」

 「はいはい。じゃ、そゆことで。当番表は書き換えとくから。…あ。そういえば総悟、夕飯は?」

「まだ」

「んじゃ、食べ行こ」


あの時は電話だった。また今度にしましょう、と言ったのは恐らく盗聴を危惧してのこと。確かにこの屋根の下で下手に高杉の名前は出せない。ただでさえ祭りの日のことを黙っているのだ。山崎ら辺に聞かれたら即行アウトだろう。喜助の判断は正しい。そして彼の言葉は裏を返してみれば、会って話せる時に話します、という意味になる。つまり、聞きたいなら時間作って一人で出て来いということ。市中見廻りは役職上必ず土方と二人。夜中も最近は書類整理に追われて抜け出す暇がなかった。そこで、漸く取れた明日の非番を使って浦原商店へ帰ろうかと思っていたのだ。でもまぁ、早ければ早い方がいい。総悟の見廻りを代わるのが最善策だろう。
食べたら電話しよ。
そんなことを思いつつ、今日の夕飯の献立を漂ってくる匂いで沖田と予想しながら食堂へと向かった。
















(そうっスねぇ…じゃあ深夜、十二時に)
(りょーかい)

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