書類整理時々魂葬。








「……退。切腹と殉職。好きな方を選びな」

「死ぬしか選択肢ないのォォオ!?」


山崎を見て動揺はしたが、副長の飲み物を思い出してひとまず山崎を給湯室まで強制連行。着くなり、グラスを3個出してそれぞれに氷をいくつか入れ、そして冷蔵庫から麦茶のポットを出してグラスに注ぎながら無言を貫いていたのだが、漸く発した言葉が上の一言だったのは刺激が強かったか。ずっと無言の威圧的オーラ浴びていた山崎は異様に縮み上がった。面白い。


「大丈夫。殉職って言っても私と仕事をした時に後ろからぐさりと殺してあげるから。仲間の命は浪士如きにとらせないから」

「何が大丈夫?てかあんたのその考えが既に浪士並だよ。格好良く言ってるけどただのあぶねー人になってるよ」


そんな会話をしながら2つのコップに麦茶を注ぎ、残りの1つに緑茶を注ごうと冷蔵庫を再び開ける。その冷蔵庫の側に立っている退は汗ばむぐらいの陽気に関わらず、真っ青な顔をしている。面倒だけど記憶消去をするしかないなぁ、と思っていると恐る恐ると言った感じで山崎が口を開いた。


「……名前ちゃんさ…その、“見える”の?」


幽霊が。そう言う山崎を見て名前は緑茶を持つ手を止めた。
……ああ。そっか。
退に見られた瞬間、私は咄嗟に“魂葬”を見られたと思ったから焦った。


「…えっ、と…それで…他の人にバレるのが嫌、なんだよね…?…俺は別にいいと思うんだけ…ご、ごめん!……だったら俺黙ってるけど……あ、ほら一応監察だし。口堅いし…ね?…名前ちゃん…?…」


でも普通の人には見える筈もなく。退はただ、何も誰もいない所で一人で喋っている私を見て不審に思ったんだ。その証拠に、必死に弁解してる中に幽霊が見えるか否かの話しか出て来ない。


「あー見えるよー。で、よく人間との見分けがつかないんだよねー困った困ったー」

「ぇえ!?軽ッ!!」


冷静になって考えてみれば大した問題もなかったじゃないか。これこそ早とちりっていうんだろうな。なんだか一気に気分が軽くなったぞ。今までの緊張状態はどこへやら、やる気のない緩い返事をしたので、思わず山崎は叫んでいた。


「何だったの!?今までの俺の恐怖は何だったの!?」

「アレ?そんなに死にたいの?仕方ないなぁ〜…ほら、切腹でもしなさい。私犯罪者にはなりたくないし。あ、でも介錯ぐらいなら…」

「あんたさっきまでの自分の発言覚えてる?」


そう言って少し怒っている山崎にそんなに怒んないでよと笑いながら麦茶の入ったグラスを渡す。それをむくれながらもありがとうと言いながら受け取る彼は本当に優しいのだと思う。


「ごめんって。今度ミントン付き合うから」

「よし。許す」

「……山崎の分際で生意気な」

「ちょ、酷くない!?」


そうやってミントン如きで機嫌が直った山崎にふと笑みを零すと、給湯室の扉に手を伸ばす。も、途中で手を止めて彼の方を振り返った。


「…でも、幽霊っぽいかな、みたいな噂とかあったら教えて」

「え?なんで?」

「私、霊媒師だから」


ニヤリと笑ってそう言うと今度こそ扉を開けた。


…背後に、鋭い監察の目線を感じながら。

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