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十三番隊舎。





「……起きてねぇじゃねぇか…」


昨夜。結局高杉は姿を見せなかったが、江戸一番と謳われていたからくり技師が代わりに派手にやってくれた。いつも相手にしている同じ大きさの人間を遥かに上回るからくりの兵隊。ろくに刀じゃ斬れないしどうしようかと途方に暮れていると、総悟がチャイナ娘と色々引き連れてやってきた。見慣れない顔ぶれだったがどうやら四楓院の知り合いらしい。戦力が多いに越したことはねェなと黙って見てたが、ソイツらが異様に強ェ。だから四楓院が強いのかと何となく頷けた。…しかし。
暫くしてその四楓院と連絡が全くつかなくなった。少し前に迷子の救出だとぬかして無理矢理無線を終了させてからだ。勿論携帯にも出ない。痺れを切らして、昨日指示した森に入って見れば、そこには腹から血を流し倒れている四楓院がいた。


『……四楓院!?』


…心臓が、止まるかと思った。
いつも憎まれ口を叩いて涼しい顔でつっかかてくる四楓院。ソイツが見たこともない真っ青な顔で横たわっている。死んでんじゃねぇかと思って駆け寄って抱き起こせば、僅かに聞こえた呼吸音。
すぐさま会場に連れてきていた真選組の救護班を呼んで、急いで屯所に運び医者を呼んで治療して貰った。


『まぁ、せめて一週間ぐらいは安静にしてるんだね』


幸い命に別状はないとのこと。思ったより傷は軽かったようで。取り敢えず、四楓院を斬った犯人を探すべく朝から証拠がないかと現場に来ていた。そして2時間ぐらい経ったかという所で、電話が掛かってきた。…昨日散々掛けたのに無視しやがったあのバカから。


{……副長。今どこにいらっしゃるんですか?}

『………は?』


何を言っても怒鳴りつけてやろう、と思っていたのだが何故か逆に責められて思わず間抜けな声が出てしまった。


{ちょっと聞いらっしゃいますか?まさか“一人”で外を歩かれてるんじゃないでしょうね?}

『一人だがなんか文句あんのか?』

{つい先日副長を敵対する浪士を検挙して、第三次土方暗殺ブームが到来したのを確認したばかりじゃないですか}

『オイ、何ベビーブーム的なノリにしてんの?何勝手に流行させてんの?てか、一次と二次は?』

{一次は総悟と出会ったその日から。二次は内緒です}

『内緒にする意味が分かんねェよ』

{そんなことも知らずに良く副長が務まりますね…そろそろ総悟に副長の座を返したら如何ですか?}

『お前は総悟の回しモンかァ!?つーか最初から副長は俺だァ!!』


これ以上続けても下らない会話にしか発展しないと判断し今から説教しに帰るから首洗って待っとけとだけ言って一方的に電話を終わらせ、山崎の運転するパトカーで屯所へ帰って来た所で冒頭の一言に戻る。


「……」


副長護衛兼補佐とだけあって俺と四楓院の部屋は隣だ。ちなみに、俺の方から開くことは滅多にないが、一応部屋は襖一枚で繋がっている。その襖ではなく廊下に面する正式な部屋の入り口を開くと、布団とその中で眠る四楓院が目に入った。つい先程、電話をしたばかりだと言うのに寝息まで立てて寝ている。…それにまだ少し顔色が悪い。
暫く起きそうにない彼女を見て、取り敢えず着流しに着替えようかと未だ一回も開けられたことのない自分の部屋へと繋がる襖を開けた。



…さっきのは、空元気ってか?

女中によって積まれていた洗濯物の山から着流しを適当に取ると、袖を通しながらそんなことを考える。ものの数十秒で着替え、脱いだ隊服をハンガーに掛けて、再び四楓院の部屋へと戻ると彼女の枕元に座った。




『十四郎さん』




ふと、煙草をくゆらせながら自分の補佐官の寝顔を見ているとある人物の顔が頭にチラついた。いつ死ぬか分からない自分じゃ幸せにしてやれねぇ、と自分の側から遠ざけたアイツの顔を。普通に嫁いで、普通にガキを作って、普通に所帯持って。女の幸せとはそういうモンだと思ってる。こんな常に死と隣合わせの職業に着く野郎なんかと普通が出来る筈がねぇ。

四楓院だってそうだ。

女なら一度や二度、そういう幸せを考えたことがあった筈だろう。だが、こんな危なっかしい職業に着いて普通でいられるワケがない。…辞めさせた方がコイツの幸せの為になるんじゃねぇのか?


「…って。なに考えてんだ、俺は」


隊服を脱いだ所為か頭が緩んでしまったようだ。他人の未来を心配をするなんてどうかしてる。しかもただの部下のだ。


『…ほんとにそんだけかぁ?』


「…うるせェよ」

「……、ちょう…?…」


少し前に言われたことが頭をよぎり思わず声に出して悪態をつくと、不意に布団の方から声が聞こえた。


「起きた…

「…たいちょー…今日は体の調子いいんですかー…?…」

……は?」


…何を言ってるんだ?

まだ眠そうな瞼を擦りながら起き上がる彼女にそう言われ、間抜けな返事をしてしまった。"隊長"や"体の調子"など身に覚えのないことを言っているので恐らく寝ぼけているのだろう。
つーか誰と間違えてんだ。


「聞いてる?じゅうしろ……

って、あれ…?ひじ…か、た、さん…?」


目を擦っていた腕を離し漸く目の前の人物を確認した四楓院。一瞬、何が何だか理解出来ないという顔をしたがその顔に僅かな別の感情が見てとれた。…焦燥、が。


「……ふ、副長…」

「何だ」


その僅かな焦燥を残したまま問う彼女の声は真剣さが漂う。そんな四楓院をしっかりと見返しながら次の言葉を待つ。

………と。


「夜這いでもしに来たんですか?」

「………は?」

「あ、動揺してる。…やっぱりそうなんだ…」

「違ェよ?ていうか俺なんも言ってないよね?俺の話聞く気ないよね?」

「でもこれだけは言わせて下さい。身体を奪ったからって、心までアナタに支配されると思ったら…大間違いよ!!」

「だから!!違うって言ってん…」

「イャァァアー!!ヤメテェエー!!」

「バッ…テメ、紛らわしい声上げてんじゃ……」

「死ねェェェエ!!エロ方ァァア!!」

「総悟ォオ!?テメ、なに登場早々にバズーカぶっ放してんのォ!!つーかエロ方じゃねぇ!!」

「「……チ、しくじったか。エロ方め。中々しぶとい奴…」」

「しくじったってなんだァァア!?つーか台本通りか、テメェら。死ぬか、コラ」

「「お前がな」」

「上等だァァア!!刀抜きやがれェェェェエ!!」

「名前ちゃん?なんかおっきい音がしたけど大丈…、ちょっ、何やってんですか副長ォォオ!!名前ちゃん病み上がりだからァァア!!って、沖田隊長も煽らないでェェェエ!!」























……な、なんとか誤魔化せた。
それにしてもいくら寝ぼけてるからって十三番隊舎と屯所を見間違えるなんてどうかしてる。


「……疲れてんのかな…」


未だ止むことのない喧噪を遠目に見ながらそう呟くと、再び布団に潜り込んだ。































(同じなのは名前だけじゃない)

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