接触。
「…そういや、お登勢から聞いたが、てめーも戦出たんだってな」
「あん?戦っつっても俺のはそんな大層なモンじゃねーよ……まァ、それでも仲間達はたくさん死んじまったがな」
祭り当日。その3日前に江戸一番のからくり技師となんやかんやあった銀時達は、祭り開催時間の直前までその技師を嫌々ながら手伝っていた。それでも何とか無事終わって、新八と神楽は平賀に貰ったお小遣いで嬉しそうに遊んでいた。
「…敵をとろうとは思わんのか?」
「あ?」
一方、銀時達おじさん二人は焼き鳥屋で呑んでいた。最初こそ他愛もない話をしていたのだが、ふとした拍子に何だか会話は変な方へと反れ始め、不穏な空気が漂い出した。
「死んでいった中にかけがえのない者もいただろう…そいつらの為に幕府や天人を討とうと思ったことはねーのか?」
「…じーさん、アンタ…」
そう言って銀時が何かを尋ねようとするも、喋り過ぎたと思ったらしい。最後の調整だなんだと言って、江戸一番のからくり技師は席を立ってしまった。
「…なんや、アイツ。危ないなァ」
言ってしまった平賀の背中を何とも言えない表情で眺めていると、不意に後ろから聞こえた声。少し驚いたような顔を其方に向けるとそこにいたのは、どっかで見たことのある金髪のおかっぱだった。
― 接触 ―
「平子…」
「奇遇やなァ、銀時。こないなウルサい祭りにわざわざ来るってことは、お前も祭り好きなん?」
そう、平子真子である。確か最後に会ったのは…一緒に呑みに行った日。この間は名前に道連れにされたので、二週間前のことだ。
「“も”、って…てめーと一緒にすんな。餓鬼が二人どうしてもって言ったから仕方なく来たんだよ」
「ガキ二人、っちゅうことは神楽ちゃんと新八も来とるんか。…白ォ!!」
銀時は座っていたので平子はかがみ込むように話していたのだが、不意に後ろの方を向くと声を張り上げた。どうやら今日は大所帯らしい。一緒になって銀時もそっちの方を向くと、金魚すくいの屋台に群がっていた浴衣の団体が此方を見ていた。
「なぁに〜?シンジ〜」
このうるさい中よくぞ聞こえたなと思うぐらい反応の良かった白。隣にいた比較的幼さの残るおさげの少女も一緒にやって来た。
「なんかなぁ、神楽ちゃんと新八も来とるらしいで。射的の方や」
…あん?
俺、アイツらの居場所なんか言ったか?
「ほんと!?行こ!!ひよりん!!」
「あ、ちょお待ちや!!白!!……てかシンジ!お前、何考えとんねん!!名前の……」
「アホ。お前らは、“そっち”っちゅうことや」
「……勝手に変えよって後で喜助にど突かれても知らんからな、ボケシンジ。つーかほんまにど突かれて死ね、ボケ」
「ボケっちゅう奴が一番ボケや、ボケぇ」
「なんやてェ!?お前なんかハゲとるやないかァ!!ハゲシンジ!!」
「なァ!?一体このさらっさらヘアーのドコがハゲとんねん!!お前の頭ん中の方がハゲや!!」
「アホ!!ウチの頭ん中はふさふさ…って、頭の中て元から毛なんかないやんけ!!つーかお前なんか頭以外全部毛ェないんやろ!!ウチ知っとるでェ!?ハゲシンジ!!」
「あるわァ!!ボケぇ!!なかったら恥ずかしゅうて銭湯行けへんわ!!ボケぇ!!ちゅうか、どこでそないな噂聞いたねん!?ボケぇ!!」
「ボケボケ言うなァ!!ハゲぇ!!」
……スゲェ…口挟む暇もねェ…
何だか知らないがいつの間にか現在進行形で進んでいた壮大なる口喧嘩。あまりの凄さに最早周りの人達が感心して見ている程だ。
「悪ィな。うるさい奴らで」
エンドレス状態となっている平子とおさげの少女を呆れたように見ながら銀時の側に来たのは、面識がない人物だった。
「えー…っと…」
「お、悪ィ。自己紹介がまだだったな。俺は六車拳西だ。真子、は知ってんだよな……あのおさげが猿柿ひよ里。さっきお面頭に付けてブドウ飴くわえてすっ飛んでったのが…」
「久南白、だろ?あと、あっちでリンゴ飴買ってる姉ちゃんが矢胴丸リサ。あの二人はよく万事屋来るんだよ。んで、俺は坂田銀時だ」
「オゥ、宜しくな。銀時」
そう言って握手をしてみたが銀時は今の自分の発言に内心訂正していた。
いや、よくなんてもんじゃない。ほぼ毎日来る。神楽も同い年ぐらいの女友達が出来て嬉しいらしく、最近食欲がありすぎて困っているぐらいだ。
「あと四人いんだけど、ちょっと別の場所にいてな……また今度紹介するわ」
「んーよろしくー……てかお前ら、何しに来たの?」
「なにって、祭りに来ただけだが?」
「違ェよ。お前ら、会場全体を見…」
…刹那。銀時が言い切る前に急に消えた元死神集団。あまりの早さに体が思わず止まったが、次の瞬間には目を見開いて叫んでいた。
「都合が悪くなったら姿くらますのやめろよなァァ!?俺なんか一人で恥ずかしいじゃん!?みんな笑っ、」
「銀時」
「…て…
…は?…平子?お前何で…」
人目も憚らず怒鳴っていると、一緒にいなくなったと思っていた真子に呼ばれた。しかも何故か自分の隣に座って。
「何でって…お前、ひよ里と俺の会話聞いとらんかった?」
「あれは聞いてない方が難しいぞ」
「ほな、分かるやろ。
…俺は“ココ”や」
「!」
…お前は“ソッチ”や。
確か真子はそう言っていた。それから踏まえると、この集団はどうやら何かを見張る為に各々の担当場所があるらしいことが分かる。
いや、しかし。それで全てが理解出来るわけがない。もう少し踏み入った言葉を貰おうと銀時が口を開こうとすると、先に開いた真子の口からとんでもない言葉が飛び出して来た。
「白夜叉」
「………は?」
「ひよ里と白は出店一帯。リサと拳西は境内。ラヴとローズは祭り会場の出入り口。ハッチと鉄裁は将軍様の社の真上。夜一は催しモンやってる会場。喜助は狂乱の貴公子、桂小太郎の後ろ。で俺の担当場所は、元攘夷志士の英雄、白夜叉の隣や」
「!……まさか…お前ら、わざわざ野郎と会う為に…」
「せや。幼馴染みなんやろ?久々に来て世間話でもって展開狙てるんやけど」
「んな生ぬるい奴じゃねェぞ」
「分かっとるって。ほんの冗談や。…にしても、ウチら揃って来てただけで何か目的あるなんてよう分かったな」
流石、名前が信頼してる人間だけあるわ。
そう付け足して笑った真子の顔には人間らしい笑みなんてのは浮かんでいなかった。
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