旦那様。
「いいか。祭りの当日は真選組総出で将軍の護衛につくことになる」
それから3日後。
その日の朝の会議の話題は明後日開かれるお祭の警護に関するものであった。
「…とにかくだ。キナくせー野郎を見つけたら迷わずブった斬れ。俺が責任を取る」
「マジですかィ。俺ァ、どーにも鼻が利かねーんで、侍見つけたら片っ端から叩き斬りまさァ。……頼みますぜ」
「オーイ、みんな。さっき言ったのはナシの方向で」
あー言えば、こー言う。毎朝毎朝行われるこのやり取りに、逆にどうしてそこまで揚げ足が取れるのかと感心してしまう。土方の少し後ろに座って聞いていた名前はそう思いながら思わず笑う。
「…オイ。なに笑ってんだ」
「いえ、別に。それより、副長。もう一つお伝えしなくて宜しいんですか?江戸にとんでもない奴が来てるって」
「とんでもねー奴?一体誰でェ?」
未だに少し笑っている名前に不満げな顔をしながらも、再び隊士達の方を向くと話し始めた。
…高杉晋助が江戸に来ている、ということを。
「…そういえば、お前が万事屋と捕まえたあの浪士共だがな。高杉とは繋がってなかったぞ」
「そうですか…それなら生け捕りより皆殺しの方が良かったですかね。刑務所とは言え、定員はあるでしょう」
「……いや。情報も欲しいし、生け捕りで充分だ」
朝礼が終わり、土方の部屋でデスクワーク中の土方と名前。基本的に捕らえた者達は一旦屯所内に留置。そこで散々尋問を行った後、刑務所内の牢獄へと入れられる。勿論、一昨日捕まえた浪士達も同じような道を辿った。どうやら二人はその尋問の最中に得た情報について話しているらしい。
「でも解決したこともあった」
「あら、良かったですね。何ですか?八百屋の強盗ですか?」
「いや、お前が初めて俺と見回りに出た時に起きた通り魔があったろ。ほら、山崎から電話を貰った」
「ああ…あれですか」
「あの主犯がな。浪士の中にいたんだよ」
なんでも、金に困った末の犯行らしい。倒幕だなんだとぬかす前に生活費ぐらい稼げ、と一喝したくなる。
「まぁ、ある意味棚ぼたですね」
「そうだな」
…ていうか最近棚ぼた現象多くない?
料亭惨殺事件もある意味棚ぼただった。あの時集まっていた幕吏の真の目的は分からなかったにしても、一応いかがわしいことを話そうとしていたという事実は掴めたし、高杉が江戸に来ているということも判明した。
「…それとな。明後日のことなんだが、お前は将軍の護衛じゃなくて会場の周囲にある森の方を見張っててくんねぇか」
「森、ですか」
「ああ。当日は相当な人混みになるだろうからな。普段人目を避けてる高杉も、そん時に限ってはそん中に紛れ込む可能性が高けェ」
「なら、何故私を其方ではなく人気のない方に?」
今の土方の話からすれば当然会場内で見回りをしろ、と言われそうである。なのに何故か全く逆の方へ行けとの指示。
…ワケがわからない。
「お前に捕らえて欲しいのは高杉ではなく、その部下だ」
「…なる程。確かに部下の一人や二人は連れてそうですね」
「しかも会場の周囲に待機させてる可能性が高い」
それなら納得がいく。土方の説明に軽く頷きながらそうですねと呟く。
「その森で待機し、見つけ次第捕らえろ。…場合によっちゃァ、殺しても構わねェ。お前一人でいけるか?」
「勿論です。捕らえ次第副長の前に引き摺り出して差し上げますよ」
「…頼んだぞ」
「はい」
確か、鬼兵隊の主だった幹部の名前と顔写真は喜助が持ってる筈だよな。そんなことを頭の片隅で考えながら、厳しい顔をする土方に名前はそう返事をして笑顔で頷いた。
(喜助の予想は予知に近い)
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