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ちょっとした疑惑。





「副長。山崎です」

「入れ」


その日の夕方。
事前に携帯で呼び出されていた山崎は任務から帰って来るなり自室にも行かず、土方の部屋に直行していた。


「一応任務の方は報告書を纏めておきました」

「ああ、ご苦労だった」


任務中に報告書を書けるとは流石は山崎、というところだろう。書くのに夢中になって背後からブスリなどやられては元も子もない。普段地味だのなんなの言われてはいても仕事はかなり優秀だ。そんな山崎が仕上げた報告書に目を通しながら土方は徐に口を開いた。


「…あん時、既に江戸にいたのか…」

「はい。間違いないと思います」

「だとすると…マジで危ねェな、こりゃあ…」


そう言う顔は非常に険しく、無意識に口に運んだ麦茶の味が分かっているかどうかさえも不審だ。その土方を見る山崎の顔もまた険しい。…まぁ、彼としては珍しいことだ。監察という役柄上、そう簡単に表情を面には出さない。特に上官との一対一の真面目な話の際は感情はあまり出さないようにしている。それだけに、今回彼が調べていたことは厳しいものであったのがわかる。


「…奴が祭に来る確率は?」

「かなり高いかと。…いえ、ほぼ100%と言っても過言ではないと思います」


それを聞いた土方は何かを決めたように報告書をバサリと置くと、今度は煙草に火を点けた。ちなみに窓は名前が部屋を出てから暫くは開いていたのだが、山崎が来る前に全て閉めてしまった。…この煙は直ぐに充満しそうだ。


「当日は総出で護衛、か…」

「必然的にそうなるでしょうね」


その山崎の言葉を聞いて僅かに顔をしかめる土方。恐らく彼の頭には真選組一の問題児の顔がよぎっているのだろう。普段まともに仕事をしない奴が祭の中に仕事などする筈もない、と。そんな土方の顔を見て苦笑いする山崎 。案外長い付き合いだ。彼の考えていることが分かったのだろう。


「まぁ、祭は5日後だ。それまでに隊士の配置は考えておく」

「分かりました」


そう言って土方の部屋から出ようと襖に手をかけた山崎。しかし、それを遮るように土方が呼び止めた。


「どうかしました?」

「ちょっとお前に頼みたいことがあるんだが…」

「はぁ、なんでしょうか?」


監察の仕事は暫く入ってない筈だし、マヨネーズは昨日補充したし…なんだろう。
と、思い怪訝な顔をしながら再び座り直すも土方の口から次に出て来た言葉に山崎は驚かされることとなる。


「四楓院を…この2.3日見張ってくれねぇか?」

「……と、言いますと」


ついに来たか。予想が当たったことに嬉しさ半分、悲しさ半分で表情を引き締める。つい最近は思いも寄らぬ和菓子の話で意気投合し、随分と親しくなったが、あの時あんな発言をした人物の警戒を怠ることはしなかった。


「やっぱりお前も気付いてたか」

「副長も…」

「ああ。あいつの“夜遊び”。そろそろキツく言っとかねぇといつか大変なことになる」

「へ…?」


ここ最近、眠そうな顔をしていることが多い名前。加えて夜中、襖が開くような音も聞こえていたので、夜中に何度も屯所から抜け出し市中をうろついている。と、土方は本人に確認もせず決め付けていたらしい。
だが山崎が言いたいのはそんな事ではない。そんなお母さんの様なことに何故警戒しなければならない。俺が危惧していたのはアンタの暗殺の危機だ。考えていた規模とレベルの余りの落差に山崎は思わず眉を潜めてしまった。


「んだよ」

「あの…副長。お言葉ですが……名前ちゃんは夜中に抜け出したことないですよ?というか、他の隊士もですけど」

「………は?」

「副長、お忘れですか?最近物騒だから屯所の周りを赤外線センサーかなんかを張り巡らせて、夜中だけでもそれで不審者除けをしとけ、ってご自分でおっしゃってたじゃないですか」

「あ……」


すっかり忘れていた。
名前を護衛として迎え入れたことの元凶とも言える巨大な化け物騒ぎ。そんな化け物が入ってきたんだったら確実に誰かが気付くだろうし、そんな必要もないと言い切ったのだが…そこは、またもやとっつぁんに逆らえず。

『てめぇらが死んだらオジさんの所為になるんだよ』

との一言で赤外線センサーが取り付けられることとなった。

この赤外線センサー。
虫などのほんの小さな生物には反応しないが、それ以外の生物なら絶対的に反応する。いつだったか、夜中にジャンプを立ち読みに行こうとした不届き者がひっかかって大騒ぎになったのが記憶に新しい。


「ほらね。名前ちゃんが眠そうにしてたのは夜更かししてたとかそんな理由ですよ」

「いや、でもなぁ…」

「それにちゃんと本人に確認しました?」

「いや…眠そうな顔と夜中の物音しか…」

「溜まった仕事とか、片付けてるんですよ。きっと」

「…そう、なのか?」


じゃあ、今朝のアイツの台詞はなんだったんだ?
という疑問を口にするより先に山崎が口を開いた。


「そんなに気になさるようでしたら張りますが。どうしますか?」


そう言葉では言っていても山崎の顔は殆ど馬鹿げていると言っていて、たたっ斬りたくなっ……こっちがアホらしくなって来た。


「いや、いい。俺の思い過ごしだ」


それに山崎は「はい、わかりました」と微かに笑って言うと、今度こそ部屋から出るべく襖に手をかけた。






























(…つーか山崎。テメーいつから四楓院を名前で呼んでんだ?)
(ぇえ!?い、いや…その…)
(まぁいい。…切腹で許してやる)
(許されてないからそれェエ!!)

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