限界。



"あの夜"、虚化していた彼等に共通していたことは、刀傷があったことだった。名前さんも含めて。

あの時、何故彼女は隊首会を覗き見したのか。
何故享楽さんは大鬼道長の代わりを副隊長などに任せたのか。
何故、ひよ里さんを行かせてしまったのか。

いや。そもそも何故、もっと早くに藍染を追求しなかったのか。

隊首会が解散となるや否や、霊圧遮断服を着て命令に反して向かった現場を見た時、全てに激しく後悔した。

『き、喜助…』
『っ、治療は後で、』
『だいじょーぶ』

背中をばっさりと斬られ何故か氷雨さんの斬魄刀を握って後退っていた彼女に藍染は手を伸ばしていた。刀ではなく。しかも藍染の目は殺そうというモノではなく、興味を持ったというモノで。それに言い知れぬ危機感を覚えた僕は迷わず藍染の腕に刀を振り下ろした。
僕の腕の中で弱々しく笑う名前さんだが、彼女よりも実力のある彼等全員が見事倒れているのを見ればどれだけ精神的にも肉体的にもキているのかが分かった。しかも全員虚の仮面を被っているという彼女にとっては理解不能の状況だ。発狂していなかったのが不思議なぐらいで、無意識に強く引き寄せていた。

『藍染……副隊長』
『はい』
『ここで何を?』

予想通り言い訳というか当然素直には返って来なかったが、彼の振る舞いからこの状況を隠す気はないのだと読み取れた。そしてその瞬間に過る最悪のシナリオに唇を噛むしかなく。

『お避け下され浦原殿ォオ!!』

大鬼道長の鬼道をまるで赤子をあしらうかの如く防いだ藍染は、去り際にこう言った。

『一つ、助言をしようか浦原喜助。僕だったら四楓院名前から離さないね。目も、手も』

一瞬、理解出来なくて思わず刀を握り直した記憶がある。別に藍染の言ったことが理解出来なかったのではない。彼がそれ程までに名前へ興味を示していることに、恐ろしくなったのだ。今見た彼の実力の片鱗に片腕に名前を抱えたまま、鉄裁さんの援護を受けながらでも勝てる気がしなかった。
ここで今全力で奪われたら、守りきれる自信がない。
だけど藍染御一行は予想に反してあっさりと消えてしまい、その後は平子さん達を助けることでドタバタとして結局もう一度熟考し始めたのは現世に降りて暫くしてからだった。

だけど。


〔オイ!浦原!!今お前どこにいんだ!!〕

「わっ、ちょっ、どうしたんスか土方サン」

〔どうもこうも、名前の"古傷"から血が止まらねぇんだよ!!〕


古傷と彼の口から出たが、その言い方からしてきっと細かい経緯なんて何も話していないのだろう。そして彼女から直接の電話でないことからして、とても話せる状況にはないということか。
そう適当な推測をして、どこにいるのかと問えば余りにも予想外の会話が聞こえてきた。


〔オイマヨラー!!んな実況中継してる場合か!!さっさと場所伝えろ!!〕

〔んなこたぁ分かってんだよ糖分バカ!!っ、オイ万事屋!!〕

〔っ、クソっ……神楽!!一旦引け!!〕


一瞬で悟った。
そして悟った時には既に”印”へと飛んでいた。


「ぅ、浦原!?おま、!んだよ万事屋!」

「バカ近付くな下がれ土方巻き込まれる」

「は?」


場所は屯所から少し離れた河原だった。
だがそこにいつもの長閑さはなく、恐らくメノスだと思われる巨大な虚と幻族であろう俄死神が一人いて。本来だったら名前さん一人で難なくこなしていたであろうこの状況は、彼女が背中をバッサリと斬られたことによって確実に暗雲立ち込めていた。傘を構える神楽さんは息が上がり、鬼の副長と白夜叉も既にあちこちボロボロだ。新八さんが名前さんの応急処置をしてくれているらしいことを確認して感謝しつつ、紅姫を解放する。唐突な僕の登場に俄死神は大きく目を見開いて何やら喋り出そうとしたが、そんなの聞く義理は一切ない。
僕の機嫌が過去一悪いことを悟った銀時さんは流石だが、それを褒めるのは。


「…ー【啼け 紅姫】」


こいつらを消してからでも十分だろう。























(……オイ、万事屋)
(なんだよ)
(アレは…誰だ)
(…ただの限界超えた親バカだ)
(…そうか。なら心配いらねぇな)

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