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月。



「新海稔の戦闘面に関してはどうでした?」

「普通。斬魄刀解放と鬼道には驚いたけど、鬼道は初級止まりで戦い方もまるでなってなかった。人間の名残がありすぎる」

「…なるほど」

「それより、解剖結果は?何かわかった?」

「ハイ。すぐに転送して頂いて助かりました。お陰でより詳しい情報が採れました」


そう言って渡された紙束に目を通し始めた。三番隊粛清騒ぎから一週間経ったある日の夜。屯所内の私の部屋に喜助がやってきた。
余談ではあるが、喜助と屯所で会う際に最早定番となりつつあった屯所の屋根という場所は以前、退からまるでイケナイ関係同士の逢瀬みたいだねと言われて、

『…私とそういう関係になりたいの?』

と割と距離を詰めた壁ドンをしてからかっていたら、ちょうどタイミングよく右之助が通りかかって、誤解を解くのに一週間ほどかかった。アレは面倒だった。それが原因と言えなくもないが、それ以来普通に私の部屋で会っている。考えてみれば副長に隠す理由もなく、聞かれたくなければ防音結界を張ればいいのだ。


「…幻族ではなかったんだ」

「ええ。普通の人間でした」

「霊圧も高くなくてよく死神の力の譲渡をやろうと思ったね、西園寺は」

「そこっス」


資料に目を落としたまま話していたのだが、声のトーンが変わった喜助に目を上げた。わざわざそうさせたということは。


「分かってないんだ」

「彼も科学者っスからねぇ」

「研究テーマでも知らない限り、分からないか」

「イエ。そうは言ってません」


急に扇子を向けて強気な発言をしてきたので思わず笑う。


「そこで意地はってもしょうがないでしょ」

「でもまぁ、確り掴みますよ。何にせよ普通の人間を死神にするのはタダ事じゃあない」


そう言って私の後ろにある壁を見る目に映るのはあの日の夜だろうか。どちらにせよ人体実験は現世でも尸魂界でも決して許される事ではない。私も出来る限り協力するからと言えば、頼みますと頭をくしゃっとされながら返された。
そのまま立ち上がって襖に手を掛けた喜助だったが、ふとそれを止めて険しい顔をしたのでどうしたのと尋ねると、唐突に振り返って私を頭から爪先まで見た。


「え、なに」

「隊服着てないっスけど、お仕事は」

「今日はもう終わりだけど」

「じゃあ行けますね。風車持って下さい」

「え?」

「ピンチです」


銀時さんと月詠さんが。
どういうことだよ。そう叫ぶ暇もなく。風車を押し付けられながらその言葉を最後に私はどこかに飛ばされた。
































ー 月。 ー




























「お兄さんフリーの忍者だったんだね。しかもブス専の」

「お前さんも真選組だとはなぁ。しかも副長専の」

「なんかその言い方誤解招くからやめてくんない」


喜助に問答無用に飛ばされた先はなんと海の上。ふざけんなと踏み止まったのとほぼ同時に懐に飛び込んで来たのは銀時で。咄嗟に受け止めて見下ろせば、完全に意識はなく血だらけも甚だしく、誰が見ても重症であると分かる程だった。こいつをこんなにするとはどんな手練だと目を上げて、暗闇の先に人影を認識したその瞬間、目が合った。
やばいと思った時には既にクナイを投げられ、自分の1.5倍はある重さの銀時を抱えて避け切れる筈もなく、それを殆ど受けて海へと落ちた。

…ー【隠密歩法四楓の参 空蝉】

様に見せかけた。
姿を隠して銀時が助かったかもしれないと思わせるよりは、確実に討ち取ったと思わせる方がいい。海に落ちた後は紙切れでも布切れでもバレはしまい。近くのコンテナの上へ曲光で姿を覆って降り立つと、銀時を肩に担いだまま敵さんの様子を伺う。だが、既にヤツも月詠もおらず。いくら銀時を抱えているとは言え、私の瞬歩を掻い潜る程とはいつかの忍を思い出させ、思わず眉を顰めた。でもまぁ思い出に浸るより何より銀時の応急手当が先だ。とコンテナに彼を置いた瞬間、気付いた。

先客がいることに。

寝転んで読んでいたジャンプをまず吹き飛ばし、短剣をそいつの首元狙って振り下ろす。すると響く甲高い金属音と腕に来た衝撃に少し驚いた。殺すつもりはなかったが防がれるとも思ってなかった。寸止めのつもりだったので力はあまり入れておらず、振り払うようにされると簡単に短剣は飛んで行き、思わずその行先を目で追ってしまった。それも一瞬のことだったのだが、その僅かな隙に私の足元から抜け出していて、その身のこなしに妙に感心する。だが今にもコンテナから飛び降りそうだったので、その背中に右手を向けた。

『【嘴突三閃】』

直後、ぐわっという何とも情けない声と共にコンテナ上にへばりついたそいつの顔を拝もうと首元に斬魄刀を当てながら髪を引っ張って、驚いた。

『あれ、いつかの忍お兄さん』
『…気付いてなかったのか?』

以前幽閉されていた退を救助に向かった時に、護衛として雇われていた忍だった。
名前は服部全蔵。
異様にデキる忍だ。さっきも視覚的に認識するまで気付かなかったし、この前だって結構本気で瞬歩をしてしまった覚えがある。
が、よもやこんなところにジャンプを読みに来た訳もあるまい。銀時が首を突っ込んでいることに繋がっていないはずがない、と強制連行した。場所は吉原。ちょうど全蔵の髪から手を離した所で喜助から電話が掛かって来て、そこに行けと言われたのだ。文句は散々あったが全蔵に銀時を背負わせて向かえば、日輪の店で鉄裁が待っていた。

『最低でも一週間は目を覚まさないでしょうと申し上げたい所ですが、きっと銀時殿なら5日もかからないでしょう』

ですが、ダメージは確実に残っていますからそれをお忘れなく。その通りに3日経った今日も眠りこけている。昨日一緒に来た時にもしかしたら明日には、と言っていたので帰ったら起きてるかもしれない。ていうかそろそろ起きて欲しい。連日、仕事をしながら銀時の様子を伺うのは正直面倒だ。副長への理由を捏造するのが特に。
そんなここ最近の状況にため息を吐きつつ携帯をいじりながら、今日も今日とてブサイクBARに通い詰める全蔵を見に来たのだが。
もう既になんか辛い。
いや、別にブスだ美人だと女の顔を評価するのは好きではないし、一人一人生まれ持ったモノなのでそれも立派な個性であろう。それを自分独自の基準で優劣を付けるのは甚だおかしいことだ。だが、その悪口をまるで褒め言葉の様に並べ立てて口説き落としているこの忍にそろそろ頭が追い付かなくなってきた。


「…全蔵さん」

「全蔵でいいぜ、副長補佐官殿。ちなみに敬語もいらねぇ」

「ならこちらも呼び捨てで結構。それといい加減女性の顎を取っ替え引っ換え掴むのをやめろ全蔵」


そう言えば、今まさに自分の方に寄せようとしていたのをぴたりと止めて私の方を見る忍者。やられた女性は皆一様に頬を染めて騒いでいるので放っておいても良いのだが、その頬に指の跡が若干見える。確かに強引な誘いは好まれる傾向にあると聞いたことがあるが、そこまで強くしなくても良いだろう。それを指摘しながら立ち上がれば、全蔵にやられた女達が一瞬息を止めて、一斉に騒ぎ出した。本当は男なんでしょと口々に言われたが、何故だ。いや、そう言えばこの吉原には男装して通った前科があるのを思い出した。


「俺が落とした女共を取るんじゃねぇよイケメン」

「呼び捨てでいいとは言ったが、そんな名を名乗った覚えはない」

「そうか、悪かったな……"剣心"」


瞬間、全蔵の右腕を掴み、壁に思い切り押し付けて彼の顔の真横に腕を突いた。所謂壁ドンだ。しかも情熱的な。店内が悲鳴にも似た黄色い声で埋め尽くされてうるさいが、ちょうどいい。不用意に部外者らに聞かれたくはなかった。


「……今直ぐに地雷亜について吐いて殺されるか、真選組への不法侵入で首を落とされるか。好きな方を選べ」

「オイオイ、どっにしろ死んでんじゃねぇか俺」


相変わらず長い前髪でその目は見えないが私から漏れる殺気が分からないわけがあるまい。浮竹剣心は取り調べを受けた時に偽造した名前だ。それを知るのは取り調べた副長と、その後庭で一悶着あった時にいた退ぐらいしかいない。ていうか地雷亜に関しては置いといて、あの時期の真選組に潜入して一体何が目的だった。忙しかったとは言えそれに気付けなかったのは大失態だ。
思わず腕に力が入るが、反対に全蔵は小さく笑う。


「お前さん、何で俺をあそこで引っ張った」


あそことは恐らく埠頭での場面を指すのだろう。場合によっては殺しても差し支えがない状況だった。


「不自然すぎるだろ」

「どの辺が?」

「…ジャンプをまずあそこで読んでるのは誰が見たっておかしいが、そのオカシイことを敢えてやっていたところ。加えてアンタの気配が現れたのが地雷亜がいなくなったのとほぼ同時だった。見ていた訳でもなかったのに何故そんなことが出来たのか」

「……ナルホド。不自然だな」

「だがそれも、アンタが地雷亜をよく知っていれば成立する話。更に言えば、」

「その情報を的確に提供してくれる協力者がいる、ってか?」

「…いるんだな。提供者が」

「浦原喜助って名に覚えはねぇか」

「………やっぱり一度死ねお前」


その名前を聞いた瞬間に全てを悟って、盛大に舌打ちをして全蔵を突き飛ばした。あぶねぇなと言って襟元を正しているが私が掴んでいたのはお前の腕だ。ていうか喜助は一体何をしたいんだ。どの程度この一件に首を突っ込んでどの程度私を使いたいのか。銀時の治療の為に吉原へ来る鉄裁に何度か聞いているのだが彼も知らないらしく、メールで聞いても上手くはぐらかされて教えてくれない。本当なら全て放り投げたいのだが、銀時ががっつり食い込んでてがっつりやられているのでそういう訳にもいかない。


「俺に話しかけてくるか。それがヤツの出した基準だった」

「どんな条件だ」

「だってお前、俺のこと避けてただろ」

「…吉原で女がホイホイと店に入るもんじゃないだろ」

「イケメンだねぇ。だが、そいつァ言い訳だ」


一体こいつに何がわかるってんだ。会ったのはたったの一度。しかも退救助の時だけで、あの時は全力で逃げた。なので恐らくこいつの知識は喜助に色々聞いた故だ。あいつが人を動かす時は必ずその人に納得させ多少なりとも利益を与える。
途轍もなく不愉快だがその通りに動いている自分に一番腹が立つ。思い切り顔を顰めていると、顎をふと掴まれた。


「浦原喜助は食えねぇ男だ。だが、アイツの為にはそれも呑み込もうってとこか?」

「流石だな。ご名答だ」

「なら交渉成立だ。その顔、ヤメろ」

「アンタ好みだろうが」

「美人は美人でいろ」

「あら。ありがとう」


そう言って挑発する様な笑みを浮かべてみたが、突如全蔵の顔が消えた。いや、顔だけではない。体全てが横っ飛びに吹っ飛んで行った。そしてその跡地に立っていた銀髪が全蔵へ叫ぶより先に、私はそいつに蹴りを入れた。

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