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三番隊。



真選組屯所には各隊一つ、中広間を持っていて、各隊毎のカンファレンスやその他お楽しみ会などはそこで行われたりしている。局長の提案らしいが、非常に危ないとは思う。その一つの隊が万一反乱でも起こそうと考えていたらどうするのか。一応、一番隊から十番隊まで並んで配置はされているが、監視カメラなど設置していないし、中で何が話されているかなんて、密告か盗聴しか方法がない。喜助に頼んで付けて貰おうと考えもしたのだが、局長が反対したのでそれは叶わなかった。だけど、使用していない時は基本的に襖は全開に、使用する日時と時間を一時間前までに大広間にある黒板への明記を義務付けた。これが私としての最大の譲歩だった。謀反を企てるなど思いたくもないし隊士は信じたいが、何かがあってからでは遅い。副長も流石にやり過ぎなんじゃないかという顔をしていたが、無視をした。
だが。今回の結果に、あの時もっと強く押し切れば良かったと後悔した。


「そしたら涼は総悟とそのまま護衛をお願い。もしかしたら新海稔の敵討ちとかで終が狙われる可能性も無きにしも非ずだから」

〔分かりました。では、このまま沖田隊長と待機しています〕

「徹夜になっちゃってごめんねって総悟にも言っといて。明日の朝、交代要員送るから」

〔はい、ありがとうございます。……名前さん〕

「なに?」

〔…いえ。何でもありません。お休みなさい〕

「お休みなさい」


寝ないけどね。切ってから何ともなしにそう呟く。携帯の画面を見ると充電が残り20%を切っていた。
時刻は夜中の二時過ぎ。終が'粛清'を行ってから十二時間以上経った今、その現場となった三番隊の中広間で電話をしていた。現場検証と死体処理を行い、畳と襖を全て取り払ったそこは異様に静かだ。もしいれば魂葬をするかなと思いながら来たので手には風車を持っている。縁側に背を向けるようにぼんやりと部屋眺める。その視界に映る無数の血痕に、早めに清掃業者に入って貰いたいと強く感じた。


「…ーそんなに、俺が信用出来なかったか」


あのタイミングで来た副長にどう説明するか悩んだが、退が簡潔に上手く伝えてくれたのと何より終の容態もあって、その場での詰問は免れていた。だけどそのうち落ち着いたらされるんだろうなと私も方々に指示を出しながら、動いていたがすっかり忘れていた。


「……いえ。そういう訳ではありませんでした」


霊圧で気付いていたので特に振り返りもせずに答えれば、同じ様に私の横に並んで部屋を見た。


「じゃあどういう訳だ?万年無職甘党適当天パの方が信用出来るってか?しかも変態不審者浦原よりも」

「副長。今のは私への非難と言うよりも銀時と喜助への悪口に聞こえます」


終は回道で止血と体組織の結合を促す段階まで処置して緒方先生へ引き継いだ。助かることは分かっていたのでそこからあまり気に留めていなかったのだが、手術が成功して容態も安定したというのを先程涼から電話で連絡を受けた。声帯に達していた傷は思った以上に悪く、声は二度と出せないだろうということも。


「終の声を取り戻す方法なんていくらでもあります。というか、簡単です。我々の力を以ってすれば」

「だろうな」

「だけど。終はきっとそれを望まないだろうと、思っています」

「…だろうな」


今回、喜助は頼りたくなかった。知らない間に人間に感化された自分を知られたくなかったからだ。虚化に苦しんで悩んで、制御することに日々奮闘しているあの人たちを裏切っている様な気がして。自分だけが現世での生活を謳歌している様な気がして。
だけど結局頼らざるを得なかった。しかも、終に関しても最悪の結果にしてしまった。まだ未熟な自分が一人でやり遂げようと思ったのは奢りだったか。ハナから喜助とやっていれば上手く進んだのだろうか。考えれば考えるほど後悔ばかり出てくる。


「今回の一件。お前の判断は間違っていなかった」

「……ご冗談を。今し方、私に非難めいた言葉を掛けたのはどなたですか」

「うるせぇな。黙って聞け」


煙草の香りがふんわりと漂ってくる。風呂上がりなのかボディソープの匂いも混ざり、以前はあまり好きではなかったそれも、今では何となく心が落ち着く香りに変わっていた。


「お前の考える通り、もし終と三番隊士に不穏な動きがあれば迷いなく俺は監察を命じただろう」

「それは。上に立つ者として当然の振る舞いです。私は今回それをさせない為に敢えて貴方に報告を申し上げませんでした。ですが、お伝えしていれば終は怪我をせずに済んだと分かっています。私は、処罰をされて当然のことをしました」

「その通りだ」

「ですから。早く処分を言い渡し、」

「だがな、四楓院。お前は1人の人間の'あるモノ'を守った」


何を守ったというのか。
私は、確かに終の意思を尊重したくて見守りに徹したが、もう半分は自分の変化に戸惑って隠したかっただけなのである。副長の言う通り何かを守ったとしたら、それは自分だけだ。
最早そこら辺にいる人間と変わりない餓鬼だ。
堪らず副長の方を見上げて無言の抗議をすれば、いつも通りの目が私を見下ろしていた。そう言えば副長の目を見たのは久しぶりの様な気がする。ここ一週間は後ろめたさもあって中々まともに正面から見ることが出来なかった。


「守ったのは自分自身だとでも言いたげな目だが」

「流石です」

「アホか。お前はもっと大層なモンを守ってんだよ」


呆れた様にそう言われて大げさにため息を吐かれて。何だか自分がお父さんに叱られている子どもの様に思えてきた。そのお父さんは私を見下ろしたまま、言葉を続ける。


「終の'隊長としての矜持'だよ」


隊長としての矜持。思わず呟く様に繰り返せば、そうだと言われた。


「終は恐らく、今回の謀反は自分が引き起こした顛末で全責任は自分にあるから、元は仲間であった者を斬るという不始末を他の隊士にやらせたくなかった。手を汚させたくなかった。何より隊長としての責任はそこにあると終は強く考えた。
だが、もしお前がそれぞれの不穏な動きを俺に報告していたら、過程はどうあれ三番隊士は間違いなく他の真選組隊士も処分していただろう。局中法度違反だ。当然そうなる。
真選組としての組織は守られるが、終の思いはどうなる。終の隊長としての矜持はどうなる。結果オーライと簡単に言えるモンではないだろ。特に、後からそれに気付いたとなったら間違いなく俺らは後悔する。下手すれば、終は黙って真選組を辞めたかもしれねぇ」


そうだ。それが怖かった。終が不完全燃焼で謀反者達の始末を終えた場合、無言で消えてしまうのではないか。それが一番怖かった。


「俺は、真選組の副長として隊の規律には最大限の注意を払っているつもりだ」

「存じております」

「だがな。規律云々の前に、一人ひとり侍として隊士を見てやりたいとも思っている。侍であるからには各々何かしら信念を持ってるだろう。それは、階級が上がるにつれて責任感も伴って更に強くなる。矜持として持つそれを、俺は出来る限り尊重してやりたい」


言葉の最後に煙草を咥えて夜空を見上げた副長。深く吸って吐き出された紫煙は闇夜に吸い込まれてゆく。それを目で追いながら、ああそうかと納得する。


「…それが、貴方の'真選組副長としての矜持'ですか」

「そうだ。だから、今回のお前の行動は結果として色んなモンを守ってんだよ」


処罰なんかするワケねぇだろ。
そう言って再び私に戻された目に揺るぎない信念が見えて。この土方十四郎という人間を、自分の全てを掛けて護ろうと改めて強く感じた。



















































(…で。'いる'のかココ)
(?何がですか?)
(え、いや、だから、その……霊的存在、みたいな?)
(…ああ。風車持ってたの気付いてたんですね)
(……いるのか?)
(いると思って来なければ斬魄刀は持って来ません)
(………え)
(取り敢えず、今此処にはいません)
('今'、'此処'には)
(お察しの通り、何処かにはいるかもしれませんねぇ)
(……え)
(では。おやすみなさいませ、副長)
(いるのか!?え、ちょ、待て、…って瞬歩で逃げるとか汚ェぞ死神!!ていうか連れてって下さいィイイ!お願いだから!!)

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