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君の名は。



『簡単に言えば終の護衛を頼みたい』

前々から少しは聞いていたが、それがこんな大事になるとは思ってなかった。寺門通のオフィシャルファンクラブの座をかけて騒ぎに騒ぎまくったあの日、会場で姿は見なかった名前は屯所でとんでもない激務に追われていたらしい。それに関してはお疲れ様と労うことしか出来ないが、そもそも俺らはトッシーを成仏させる為に手伝ってくれと頼まれた側で、むしろ労って欲しいぐらいだ。まぁそれは今度文句を言うとして、褒美として特別休暇となったその翌日、つまり今日の昼に呼び出しという名のデートに誘われたワケだが、これまたヘビーな内容で。知世姫のお店で一頻り話して名前が急な呼び出しで消えた後、お夕飯になるでしょと俺らが頼まなかった方のBランチのメインを10人分包んで貰うのを待ちながら頭を抱える。名前が予め知世姫に頼んでくれていたらしく、鶏の蜂蜜味噌照り焼きと聞いて思わず涎が出かけた。
二十分少々お時間を頂きますと言われてから五分。名前の話を頭の中で反芻していたのだが、いい加減気になっていたモノを片付けることにした。


「……盗み聞きとはいい趣味してんな、喜助」


今回、意外だなと思ったのが喜助や夜一の名前が一回も出なかったことだ。
名前がどうやって全貌を掴んだのかは知らないが、いくら頻繁に喜助を頼っていてもあいつも護廷十三隊ではそれなりの地位にいた。隠密機動にも居たし、夜一もそこのトップだった。対人間の隠密行動などお手の物だろう。ましてや真選組内部なんて身内も甚だしい所での情報収集など寝ていたって出来そうだ。名前だってなんでもかんでも頼るワケではない。だから疑問に思ってもすぐに納得できそうなのだが、どうもしっくり来ない。
いっそのこと聞いてやろうかと思っていたのだが、途中から急に現れた気配に止めた。しかもそれはよく言えば俺にだけ気付く様に、悪く言えば殺気に近いモノで。これは何かあるなと謎の優越感に浸りながら、名前を見送った。
別に最後まで無視をしても良かったのだ。三番隊長の護衛任務依頼はさっきから時間場所無制限に発動されたし、知世姫から今夜の御菜を受け取り次第何食わぬ顔で帰ったって何ら問題はなかった。
だけど今、押入れから出てきた喜助を見て、自分の行動が正解だったと直感的に悟った。


「いやー銀時さんに気付かれるとは僕も腕が落ちたんスかねぇ」


いつも通り飄々とした様子で扇子を広げながら機嫌良さそうに近付いてくる。帽子も被っているが、そこから覗くはずの目が今日は見えない。


「いくつになってもムスメが心配ですかおとーさん」

「そりゃあアナタだって神楽さんと新八さんの事は心配でしょう」


確かにと思わされてしまう所がなんだか気にくわない。今まで名前が座っていた椅子に座ると、扇子を閉じてコトンと机へ置いた。


「銀時さん、単刀直入に言います。この件から手を引いて下さい」

「これまた随分すっ飛ばしたな。名前に相談されてたのは俺だけど?」

「貴方の手に負える範疇を超えています」


そう来るか。


「ていうかお前さ、名前がどうしたいとか何を目的にとかそもそも現状分かってんの?」

「全ては動乱騒ぎの時に斎藤さんが潜入の為に伊東派へと傾いたことから始まりました。副隊長はそれを何となく察してはいたが、終わってみればその副隊長は死亡。後に斎藤さんは潜入の為の離反だったと土方さんが伝えるが、割と副隊長も慕っていた半数以上の三番隊士の反感を買ってしまった。この状況が使えると思った新海稔は元々攘夷へと引き込もうとしていたメンバーと共に一気に人数を増やした。斎藤さんはそれに気付かないわけがなく、他の隊にも飛び火し始めているのを見た彼は今現在自分の隊に与えられている権利を最大限活用し、三番隊へと全て揃えた。それは謀反者軍団も気付いているが、お互いに気付いていないフリをしながら江戸の警察をしているという恐ろしい状況が出来上がっている。そして昨日、やたらと捕まえた党派の浪士は全て新海稔と繋がっていて、今真選組内でテロが起こってもおかしくない状態。だけど、彼らの目的はそこにはない。斎藤さんの暗殺だと気付いた名前さんは本来の自分の職務もある中、一人ではとても手が届かないので一番暇そうな銀時さんにまぁまぁ高い値段で依頼した。ちなみに土方さんや他の真選組上層部に言わないのは、監視の目が出ることによる斎藤さんと謀反者軍団双方の動きに不確定要素を加えたくないから。
それと、トッシーさんが聞いたという新海稔の電話の相手は恐らく西園寺祥之助の部下か何かでしょう。僕が銀時さんの能力外だと言ったのはコレっス」

「なげーよ」


しかも完璧だ。
だが、それはあくまで事実のみ。名前の思いの部分に喜助は気付いていない。普段なら言われなくとも気付いていそうなのにやはり秘密にされたことに動揺したか焦ったか。見せかけはそうでもないが、いつもの余裕さがなくなっている死神にやはり謎の優越感が湧き上がる。長い演説を噛みもせずに言い切った後、微動だにせずこちらを向いている喜助の目はやはり見えない。


「確かにそうだよ。名前との二回のデートを経て言われたのはそれだ。だけど、なぁ喜助。俺がさっき聞いたのは'名前がどう思っているのか'だ。お前のさっきの要約にソレは入っちゃいねぇ」

「終さんの護衛っスよ」

「違うよ」


そこで初めて目が見えた。訝しげに眉が潜められてはいるが、決して自分からは聞いてこない。俺の方が何となく優位に立っていることに気付かないバカではない。その状況が気に食わないのだろう。だからプライド高い奴らは面倒なんだ。


「単に護衛ならワザワザこんな長く事細かに説明しねーだろ、アイツは。『終の護衛、これだけ払うからよろしく』で終了だ」

「…まるで名前さんをよくご存知かの様な言い方っスね」

「お陰さまでな」


そう言えばヒヤリと寒気がして思わず腕を摩った。隙間風かと一瞬でも頭をよぎらせた自分が恥ずかしい。明らかに喜助が霊圧を流したのだ。その手が紅姫の柄を握っていないことを幸と言えばいいのか。親バカもここまでくると滑稽だが、ここでチャンバラやるワケにもいかないのでいい加減手を差し伸べることにした。


「斎藤が伊東派に潜り込んだあと三番隊をまとめてたのは誰だ。そいつはどうなった。そいつは最後まで何を信じてた。

その斎藤に潜入の指示を出したのは誰だ」


その瞬間、喜助の目が大きく見開かれた。ここまで言わないと悟らないのはこいつにしちゃ珍しかったが、'死神にとっては'あまりない考え方だ。今回名前が喜助に話さなかったのはやっぱりここにあったか。


「まさか副隊長さんの殉職に…」

「責任感じてんだよ。だけど、実力主義の真選組において隊長副隊長はそれなりの力を持ってる。護廷十三隊と同じようにな。名前がそれこそ文字通り育ってきた環境は実力第一。戦場で死んだとしてもそれは己の実力がなかっただけで、むしろ恥ずべきこと。その死に他人の責任があるなどまずない考えだ。だが、人間界となるとまたそれは少し違ェ。人間は人の死を悼み、それに責任やら理由付けやら始める。その感覚を名前は持ってしまった」

「……ミツバさんの時から、僕らが何となく感じてた違和感はそれだったんスね」

「アイツは人間に感化されつつある自分をお前ら'死神'に見せるのを躊躇ってんだよ」


だから、偶に思い出した様に敢えて距離を取ってくる。圧倒的な戦闘力を見せるのがいい例だが、振る舞いや醸し出す空気で示される時もある。寂しいような気もするが、まぁいずれ俺らは先に老いて死ぬ。絶対的に訪れる別れを考えれば、それはあって然るべき行動だと十分に理解納得出来る。


「だから、頼られた時は全力であいつにのめり込むことに決めてんだよ、俺は」


なんか最初と主旨が違ってねぇかと思いながらも、今日二度目の喜助の瞠目の後に言われた言葉にまぁいっかと思った。

















































("貴方の様な人間があの子の側にいてくれて良かった")
(そう彼に伝えれば)
(わかりやすい程に緊張が)
(解けた)

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