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君の名は。



三番隊は、伊東参謀による動乱が起きた時に副隊長が殉職している。隊長である終が内情を把握する為に伊東のお誘いに乗ったこともあって伊東派に傾く三番隊士が多かった中、最後まで彼は土方派だった。不安じゃないのと聞いたら、

『僕は、斎藤隊長を信じていますから』

と笑っていた。きっと事情があって潜り込んだと確信していたのだと思う。よく隊をまとめてくれていた。そんな彼の遺体を見つけた時に、間接的な罪悪感を覚えて足を止めてしまったのを未だに思い出すことがある。副長が使えなかったので特別監察組は私が動かした。終に行けと言ったのも私だ。終本人にも、涼や退からも気にするなと言われたが、無理だった。どうしても負い目は感じる。暫く終にまともに話しかけられなかった。

そして未だに三番隊の副隊長は欠番である。
何人か候補は挙がっているし、副長や局長もこいつでいいんじゃないかと提案してはいるのだが、終が首を縦に振らないのである。その頑なな様子に段々疑問を覚えていたので、ついこの間、風呂帰りに廊下で会った時に聞いてみると、少し悩んだ末にポツリと呟いた。

『……まだ時期ではない』
『…そう。仕事、大変じゃない?副隊長業務は上手く他に割り振ってるみたいだけど』
『問題ない』
『終がそう言うなら良いけど…』
『それより三番隊に引き抜きたい者がいるんだが、検討してくれないか?』

動乱騒ぎで半数以上を失っている三番隊は一定数に達するまで無制限の隊士引き抜きを許可している。構わないと頷けば明日資料を渡すと言って終は浴場へ行った。
実はその隊士の引き抜きにも私は若干の疑問を持っている。終が行っているのは引き抜きだけではなく、自分の隊から他所へ出している場合もあるのだ。まぁそりが合わなかったり、隊長や副隊長と馬が合わなかったりすると行われるので、おかしくもないが、人が足りない現状下でやるには不自然さがある。ただ、副長は全く気にしていない様だし、私のある仮説も推測の域を出ないので副長には話していないが、どうも何か引っ掛かる。

『刑事の勘』
『それ本気で言ってるならびょーいん行け死神』

銀時に話した時にそう返されて殴ったのは三日前だ。トッシー成仏作戦の為に予め新八サイドである銀時と打ち合わせをしていた時についでに話した。ついでってレベルじゃないと殴り返されたが、どっかの都知事の様に第三者の目線から精査して貰えば何か分かるかもしれないと思った故だ。

そんな状況下でのトッシーからの情報だった。
偶然にもどうやら新海という隊士は今私の中でだいぶしこりがある三番隊にいるらしいが、如何せん顔が分からない。フルネームは新海稔。どこぞの映画監督だと思わず顔をしかめたが、トッシーは分かってくれなかった。隊士名簿は顔写真入りなので資料室へと行けばすぐに分かる。私と三番隊は今日、昨日のご褒美として特別休暇を貰っているので、つい三十分前から資料室にいるのだが何故か名簿がない。もしかしたら終が隊士編成の為に持って行ってしまったのかもしれない。いい加減重要データは電子化する必要があるなと思って入隊試験者名簿を開いた時だった。


「…あの、四楓院補佐官。斎藤隊長がお探しですが、お忙しいでしょうか」


ふとそう声を掛けられて目を上げると、一人の隊士がそこにいた。私服を着ているので今日は休みか。


「いえ。むしろ私も用があったのでちょうど良かったです。君は何番隊ですか?」

「自分は三番隊です」


だから私服か。なんともなしにそう思って立ち上がると、彼は私が開きかけていた入隊試験者名簿を片付けておきますと言って持ってくれた。
…所で、ふと気になったので呼び止めた。





































ー 君の名は。 ー



























「ふざけてんじゃねぇぞオイ」

「いやいや、だってさ。そうなるじゃん」

「今のでシリアスぶち壊しだ。しかもアレは新海誠だ。ちなみにそれまでの仮説も全部吹っ飛んだ。もう一回最初からやり直し」

「いや、それはアンタの理解力と記憶力のせい」


その時呼びに来た隊士は問題の'新海稔'だった。真選組結成後、割りとすぐに入隊した隊士で剣術は上の下。後輩に対する面倒見は悪くなく、上司からの命は忠実に守る。席官制度があればそれなりの数字は貰っても良さそうな子だ。だが自主性は殆どなく、副隊長には向かない。局長も副長もそれを分かって推さなかったのだろう。おかげで私も全く気にかけていなかった。よく言えば輪を乱さず、悪く言えば目立たない。
それが、彼が作っているキャラクターとも知らずに。
トッシーの話が間違っていなければ輪を乱すどころの騒ぎじゃない。完全に内通者だ。しかも彼がいつから敵側と繋がったかは分からない。ちなみに私が入隊してからは、入隊試験の時に攘夷側からのスパイがないかを秘密裏に調べているのだが、それを潜り抜けることはまず無理だ。何と言っても浦原喜助が調べているから。ヤツの目を誤魔化すことは到底不可能。加えて桂小太郎からも情報を得ているのでこのダブルチェックから逃れられることは蛆虫の巣から脱獄するより困難である。
だが、入隊後の思想までは流石に把握できない。何か不穏な動きを察知したら調べるが、一応江戸を守る仲間として一挙手一投足を疑うなど人間不信になりそうなことが出来るはずもなく。こちらが何となく見つけるか、各隊長に聞くか、密告かに頼るかしかないのが現状である。


「……だから。俺に言ってどうすんだよ」

「そうなんだよね。銀時如きに言ったってどうしようもないんだよね」

「如きって言ったか今。泣いていい?」


資料室から終の部屋へ行くと案の定、隊員名簿があった。彼が私を呼び出したのは隊員の引き抜きの件だった。それで規定の人数を超えたが、副隊長不在のこともあるのであと五人は融通を利かせようと思ったのだが、

『これでもういい。俺の我儘に付き合ってくれた各隊の隊長達には後々お礼を伝えに行く』

こう言われてしまっては無理強いも出来ず、首を捻りながら資料室へと再び戻り、ひとしきり調べてまとめて隠密した後にあることに気付いて、お昼ついでに銀時を呼び出したのが今の状況である。
ちなみに場所は知世のお店だ。甘味屋だが最近ランチも始めたのでありがたく通わせて貰っている。話し終えたところでそのランチの豚カツにソースをかけた。からしは付けない派である。


「ていうか何でふくちょーさんに言わないワケ?」

「確固たる証拠がない。言ったでしょ」

「あるじゃねぇかトッシーの話が。三番隊長の不審な行動はさておき、それに関しては謀反確定だろ。言っとけよ」

「いや。ほぼ9割以上、新海稔と終の不審行動は繋がりがある」

「…お前さ。なんか話噛み合ってないの分かってる?」

「分かってる」

「俺を巻き込みたいならもう少し分かりやすく喋ってくんねェか」


そう言って顔を顰めながらも、最後の一切れとなった豚カツをひょいっと口に入れると一気にそれが緩んだ。確かにこの豚カツは甘味屋を主としてるとは思えない程に美味しくて、思わず顔が緩むのも納得できる。からしを付けるとより美味しく召し上がれますと微笑んだ知世を思い出して、箸を黄色い塊へと伸ばした。


「終ってさ、普段殆ど無表情なんだけど洞察力に関してはとんでもなくいいんだよね。偶に私ですら気付かないことがある。例えば、一人ひとりの人間の…思想、とか」


タイミングよくちょうど嚥下を終えた銀時は皿から目を上げてそのまま私を見つめた。何が言いたいのか伝わったのだろうが、ちょっと現実味がなかったか。まさかと言う表情をしながら箸を私に向けたので、その手を叩き落とした。


「箸を向けるな行儀が悪い」

「ごめんなさい…じゃねぇよ。まさか斎藤のやってることって、」

「そう。謀反者集め」

「……集めてどーすんだよ」

「終は恐ろしい程真選組に対して忠実だわ」

「忠信もそこまでくると盲信と紙一重だな」

「それに終はとても責任感が強い。自分の隊から謀反者を出してしまったら恐らくそれを強く悔やむだろうし責任を感じる。よもや辞めるなんて中途半端なことは絶対にしない。それは逆に真選組を危険に晒すことになるから。辞めるとしてもきっちり片付けてから出るでしょう。だけどそれは全て、一人で」


もう銀時の意識は豚カツから離れている。箸を置いて頬杖を付いてはいるが、聞いて考える体勢はばっちりだ。


「そして、終は恐らくこの謀反者集めを誰にも悟られることなくやりたかった」

「理由は」

「全員一人で秘密裏に殺すつもりだからよ」

「…責任感か」

「きっとね。それから謀反者側だけど、彼らもまた'バレずにいたい'」

「何言ってんのお前。謀反者達がお互い公言してるワケでもあるまいし」


分かりやすいほどに潜められる銀時の眉。それに対して微笑むと、デザートの小皿を引き寄せた。今日は椿の練り切りである。


「謀反者達はお互いを分かってるよ。何かしら感じ取る部分があるんでしょう。タチの悪いことに恐らく結託もしてる。だけど、それを表には出さず、職務を全うしてる」

「何の…為に」

「機会を伺ってるのよ」

「真選組を瓦解させる機会か」

「違う。あわよくばとは思ってるかもしれないけど、真の目的はそこにはない」

「……隊長」


そう言って目を見開いた銀時に頷くと、練り切り用のフォークを置いた。


「銀時、本題はここからだ」




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