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存じ上げております。




恐らく長い人生で二度と見る事がないであろう数のオタクを見てきた。もういい。お腹いっぱい。ちなみに私は参加していない。大事な事だからもう一度言うけど、私は参加していません。最後のカードバトルの所だけ大会の上空から黒猫夜一を抱えて眺めてました。だってトッシーの服装無理。名前氏の為にミニスカバージョンを用意したでござると言われて廃炎で塵にした。
ちなみに言うとちゃんと協力はした。
真選組の隊員をそれっぽい言葉で奮い立たせて寺門通の公式ファンクラブ決定戦に行かせた。いや、私の協力した部分はそこではない。出鱈目並べれば寝てたって良い演説は出来る。尽力したのは仕事の面だ。くじ引きで幸運なことに屯所に残れることになった三番隊と共に、仕事を裁いた。元々日曜ということもあって平日の様な通常業務はなかったが、喧嘩やらひったくりやらの通報に私たちは頑張った。

『…四楓院補佐官。明日は三番隊に特別休暇を貰えないだろうか』
『当然だよ斎藤隊長。そして私も休む』

夕方前、疲れ切った終の声にチョコレートを渡しながら激しく同意した。休日の割に仕事が多かったのだ。ひっきりなしに隊員が出入りする様子に偶々食材の補充に来ていた食堂係のおばちゃん二人が、お腹空いてるだろうとご飯を作ってくれたぐらいだ。


「……で。ご満悦なワケね」

「とても。十四郎には感謝しても仕切れない」


で、その夜。ぞろぞろと帰ってきたトッシー組の面々に一言嫌味でも言ってやろうかと、終と共に玄関へお出迎えに行けば、何やら彼らも疲れ切っていて。お互いにそれを一瞬で悟って、休日返上でおばちゃん達が夕飯を作って下さいましたと伝えるだけにとどめた。
そしてみんなが寝静まった頃。今日の仕事の報告書を読み返していた時に、ふと気配を覚えて部屋の屋根へと登れば、トッシーの格好をした'彼'がいて。その隣へと腰を下ろしたら、そう言って頭を下げた。


「私にやってもしょうがないでしょう。十四郎には言ったの?」

「申し上げたでござる」


最後に。
その最後は私も見ていた。中々決着が付かずそろそろ新八の方が心配になってきた頃に、相打ちで終わった。


「名前氏にも新八氏との戦いを見守って貰って、もう未練はないでござる。だからこうして霊体ではあるが出て来ることが出来た」

「…知ってたんだ、見てたの」

「それは一応、自分も霊的存在でござるから、死神の気配は」

「思ってた以上に鈍くない、と」


なるほどねぇと呟きつつ斬魄刀を持ち上げる。そして彼の目を捉えた。


「…じゃあ、私が今から何をするかはわかるね」

「……はい」


と彼が言ったのとほぼ同時に刀を抜いて、鋒を首筋にぴたりと当てた。
今までの私の雰囲気からは想像も出来なかったようで、身体を堅くさせ目を見開いて凝視している。なんでと声にならない声が口から溢れるのを見て、笑った。


「一つ、質問に答えて貰おうか」

「…な、な、ななんでござるかッ!?」

「土方十四郎の魂魄に傷は付けたか」

「つ、付けてない!それ、そそんな力僕にはないでござる!!」

「……私はそれなりに力のある死神だと分かった上でか」

「本当にッ、なにもしてない!!それに貴女が、



"尸魂界の隊長候補"であったのは、存じ上げております!!」



「……は、…?」


ちょっと待て。今こいつなんて言った。

こいつの魂魄は尸魂界には行ってない筈だ。護廷十三隊なんて組織を知りもしないはずなのに何故分かる。百歩譲って、十四郎に乗り潜り込んでからの私達の会話でその世界観推察することは出来ただろう。それなりに十四郎と話はしている。だとしても、隊長候補であった話はしていない。し、第一私ですらその話は現世でしかも高杉から聞いたのだ。

…いや待て。現世で、か。
もしかして、あの時私と高杉が相見えた場所はこいつが置いてあった鍛冶屋と近かったのだろうか。アレだけ霊圧をダダ漏れにしたのだ。霊体であるこいつが察知できないわけがない。その仮説を言えば無言で首を横に振った。自分でも動揺していたみたいで、いつの間にか斬魄刀を下ろして胸倉を掴み上げていた。屋根から僅かに身体が浮いている。


「ち、違う。そう、じゃない」

「…ならば、どうやって」


は、話すから下ろしてくれるでござるかと躊躇いがちに言われて手を離す。途端に尻餅をついて首をさする'彼'を見るが、どうもこいつが敵と内通していたとは思えない。しかも尸魂界絡みともなると、西園寺のお陰で春雨が必ず一枚噛んでくる。そんな悪の大将とサシで話せる程気は強くないだろうし、何よりこいつに利益がなにもない。
斬魄刀は抜いたまま、'彼'と目を合わせるように私もしゃがんだ。その目には不安で揺れるどころか強い意志が見えて。一つ息を吐くと悪かったと謝った。


「…いえ。ただ、僕はそもそもこの話を名前氏にする為にまだ現世に留まっていたんだ」

「取り乱した。このことは副長も知らん」

「そうだったのでござるか…」

「話せるか。お前には時間がない」

「はい。僕が十四郎の手に渡る、多分二ヶ月ほど前のことでござる。鍛冶屋に来た一人の侍が携帯で話していた内容が余りにも不穏で…

『…はい。新海…はい。守備は上々です。あと半年のウチには実行出来るかと。………何をご冗談を。太陽党党首の貴方らしくもない。………え?貴方から先日伺いましたが、尸魂界の護廷十三隊とやらがどれ程強いかなんて……まぁ、補佐官の戦闘技術は日頃からとんでもないモノを見てますが、隊長候補だと言われてもしっくり来ないと言いますか……えぇ。………お任せ下さい。必ずや、この手で』

…よくある話でござる。廃刀令も出ているこのご時世、鍛冶屋へ来るのは幕府の役人か浪士か、或いは」

「真選組、見廻組の隊士」

「そうでござる」


嫌な予感しかしない。
太陽党とは頭脳派タイプのあまり敵に回したくない一派の一つだ。しかも大変覚えがある。どこでって今日の大量の報告書の中だ。なんか浪士が色々とやらかして、の案件が多かったなと思っていたのだ。他の党もいたが、それを全てしょっ引いて来た。今、屯所の拘置所には太陽党の浪士が6人はいらっしゃる。
更に言えば、新海と言う名にも覚えがある。


「その新海の服装は」


自分から言い出したのに言ってもいいのかという表情をする'彼'。考えてみれば葬る前にとんでもないことさせているなと、内心で労わりながらも早く言えと目で急かした。




「…………真選組の黒い隊服だったでござる」



































(黙りこくった私に)
(申し訳なさそうな目を向けて)
(彼は逝った)

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