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拘る理由。




《ちょっと多分ややこしいことになるだろうから来てくれる?》

そうメールを受け取ってから名前ちゃんの部屋に向かって耳に入った言葉に俺は頭が痛くなった。


「なにやってやがんだ!?」


副長の焦った様な怒鳴り声が響いて、ガチャンと刀が落ちる音がした。斬魄刀は持ち主の意識がなくなると鞘へ勝手に戻るので今のは副長のかな、とか余計なことを思う。今まで明るい部屋にいたので目の暗順応を待ちながら庭へと飛び降りると、副長へと声を掛けた。


「副長」

「!山崎か!すぐに緒方先生を、」

「副長。少し落ち着いて下さい」


歩きながら段々と二人の様子が明らかになって来た。恐らく副長が体力の限界が近い名前ちゃんに畳み掛ける様に壁際まで追い詰めて、無理やり吐かせようとしたのだろう。今彼女は副長に凭れかかる様にして意識はない。
確かにここ一ヶ月の彼女の行動は不審だらけだった。
頻繁に携帯を見る。電話をする。夜な夜な出掛ける。咳をする。駄菓子を多めに買う。さほど長くもない髪の毛の筈なのに髪紐を何本か買う。何故か歩き方を盗まれる。偶に、白粉の匂いを纏って帰ってくる。
同僚のプライベートまで首を突っ込むなんてことはしないししたくないが、さすがに白粉の時は聞いてしまった。偶々俺が玄関付近を通り掛かった時に帰って来て、少しお酒の匂いを漂わせながら、男子が着そうな袴を纏って草履を脱いでいた。

『…名前、ちゃん?』
『?ああ、退か。悪いけど、部屋にお水くれる?』

大して酔ってはなさそうだったけど、顔は疲れ切っていて。持って行ったら案の定布団も敷かずに畳で寝ていた。

『名前ちゃん。風邪引くよ』
『…眠い』
『名前ちゃん。白粉の匂いするけど』
『…お風呂入らんとダメか』
『名前ちゃん。……何してるの』
『……終わったらね、言うから』

そう言って再び寝てしまいそうになる彼女を起こして風呂場へ連れて行くのは骨が折れた。副長は沖田隊長と局長と外へ呑みに出ていて助かった。こんな場面見られたら名前ちゃんが問い詰められるのは避けられない。でもまぁ彼女はそれも分かってこんな気の緩みを見せていたのだろうけど。


「こいつは!自分の心臓に何か突き立てやがったんだぞ!?」

「それが、今の彼女にとっての最善の治療法なんです。それに心臓に見えたでしょうが、針は実際そこまで届いていません。彼女達死神にとってのツボに当たる部分だと聞いてます」

「ツボ、?」

「はい。一気に体力を回復させるモノらしいです」


嘘だ。針は心臓にしっかり届いているし、大体狙う場所が洞房結節の右に5ミリである。見事に心臓だし、副長の言ってることは正しい。だが、彼女が刺したものは霊子で出来た針であり、物理的に心臓を傷付けるものではなく、霊圧を抑える為に霊力を流し込んだと思えばいい。と、説明を受けている。

『…本当に大丈夫なんだね?』
『うん。だけど、間に合わない時がきっと来ると思う。だから、事細かに説明してる』
『だと思ったよ。こんな綺麗に色付き図解のレジュメまで作ってきてさ…何してんの暇なの』

心臓を刺すと聞いて、驚かない訳がない。だが、死神関連の、と枕詞を付ければ何となく納得してしまうだろう。そう彼女が言ったことは当たった。現に副長はすっかり信じ込んで落ち着き始めている。


「聞いてたのか。四楓院から」

「はい。俺達にとっての栄養ドリンクだと言われました」

「こんな過激な飲み物はねぇ。アホか」


引き金は満月、つまり月齢15。その前後二三日は体力が急激に落ちる。夕方6時〜深夜12時が最も危険。だが、キチンと15日のあるタイミングに制御剤を打てば大丈夫。ちなみにあるタイミングはその月によってまちまち。
機序についての説明は十分すぎるぐらい分かり易かった。流石は喜助さんの教育を受けただけある。だけど。根本的な所が抜けていた。

『あのさ。聞いてもいい?』
『質問は受け付けません』
『…え』
『受け付けません』

そして驚く程に隠された。そもそも何を制御するのかがすっぽりと抜けていたのだ。あんまりにも他の説明が見事過ぎて見落とされそうだが、ギリギリで気付いた。だけど、清々しい程にそれは教えないとはっきり言われた。

『命かかってるから』
『うん、だから必死に聞いて理解したんだけど。君を死なせない為に』
『違う』
『?なにが?』
『死ぬのは私以外』

しかもそれを教えないと俺は協力しない、と言えない状況も作られてしまった。'それ'を制御出来なければ死ぬのは俺らだ、と脅されたからだ。狡い言い方をすれば。


「彼女は何をしていたんですか」

「さぁな。それを聞き出そうとしたんだが、コレだ」


名前ちゃんを受け取ると、副長はそう言って刀を鞘に閉まった。というかどこに部下の行動を問いただす為に全力で真剣を向ける上司がいるんだ。不満気に言いつつ煙草に火を付けた彼に、思わず苦笑が漏れる。


「ところで、男装にはお気付きに?」

「ああ。こいつはバレてねぇと思ってたらしいけどな。どんだけ一緒にいると思ってんだ」

「でも結構男前でしたよね」

「そこがまた腹立つんだよ」


ため息を吐きながら名前ちゃん見る副長は俺の説明に疑問を持っている様には見えなかった。しかし本当にアレで納得してしまうとは、死神という生態の不可思議さと人知を超えたモノであるという無意識の理解がもたらす利点であろう。が、反面同時に危険性も伴う。今後、何か危険なことが生じた時に容易に隠す事が出来るからだ。
そうなった時、彼女が果たして全てを俺らに話してくれるのだろうか。

『疑問を持つことは許されない。私の言ったことを、ただ理解し、記憶するだけでいい。納得することは求めていない。深入りすれば、

…ー死を招く』

そう言われたのは彼女が死神だと分かった翌日の時だ。あの時から比べたら多少は俺も頼りにされてると思うが、やはりまだ壁は高い。

…ー『…副長が貴方の仰る様な方ではない、と判断した場合、遠慮なく抜かせて頂きます。私も命をかける身。それを捨てられるかどうかは此方で見極めさせて貰う』

「……でも、越えてみるか」

「?なんか言ったか?」

「いえ、別に」


就任当初に言っていた言葉をふと思い出して苦笑いをする。彼女は果たしてそれを覚えているのだろうか。
それにしてもあの時は本気で警戒した。ずば抜けた実力を持つ女の子が一体何を思って男だらけの所帯へ身を投じる気になったのか。不審にも程があるその行動に、目的をずっと探っていた。真選組の害となるのではないかと。
残念ながら未だに彼女の目的は明確に分かっていない。だけど俺の心配は杞憂に終わりそうだ。以前にあった伊東さんの一件で、名前ちゃんが'副長のいる'真選組を裏切ることは絶対にないと判明したからだ。あの時の彼女の言葉には正直驚いた。

『副長のいない真選組に拘る理由がない』

恐らく彼女が死神として本気になれば一人で事足りてしまうのだろう。それでも俺らと同じ様に剣を振って足を揃えて戦ってくれている。最初の方こそ見下した様な目線が多かったが、今はそんな様子は微塵もない。きっと彼女の周りの人間が良い働きをしたのだろうと思う。それに自分も入ってることを望みながら、名前ちゃんの顔を見下ろした。



































(あ、おはよう名前ちゃん)
(……退)
(なに?)
(…何でもない。ご飯食べ行こう)
(うん)

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