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拘る理由。





「名前。お前腹は?」


尸魂界が関与しているのは地球上の事象だけなのだろうか。それとも銀河系全てを含めた事象なのだろうか。現世、という考えてみれば曖昧なくくりに、鳳仙の魂魄は何処へ行くのかと思案していると銀時に呼ばれた。
鳳仙を殺して春雨二人が去ってから、吉原は慌ただしくなった。今まで絶対的存在であった鳳仙の陥落に、一時大混乱となった中、声を上げたのが日輪だった。今まで客寄せパンダとしての役割しかなしていなかった彼女が月詠の手を借りて立ち上がり、指示を出す。未だ鳳仙側の遊女や百華も残る中、いくら殆どの遊女が日輪を崇拝していると言っても世の中そんなに甘くないだろうと思っていたのだが、驚くことに皆素直に従っている。
ちなみに穴あき死覇装で流石に帰れないなと困っていると、これにお着替え下さいと落ち着いた感じの着物と羽織を渡されたのでありがたく受け取った。それに着替えようと人気のない小屋を目指して歩いていると何故か銀時が追いかけてきたのだ。彼も大概重症だよなと至る所にある包帯とガーゼ、絆創膏を見ながら問題ないと応えた。


「問題ねェわけねェだろ。残念ながら見たからね?腹にがっつり突き刺さった手を」

「残念ながら修復済み」

「モノの様に言うな。お前意識ぶっ飛んでたじゃねぇか。…って、ちょ、何してんのお前!?」

「ほら」

「ほら、じゃねぇよ!!こんな所で脱ぐんじゃ……ホントだ」


納得してもらった所でめくった死覇装を下ろして小屋へと向かう。すぐに着替えるから裾を入れる必要はないだろう。包帯とガーゼも必要ないので突っ立っている銀時へ押し付けた。捨てといてと言えばああと分かってるんだかそうじゃないんだかよく分からない声を出す。
何を考えているか分からないが、私は早く着替えて早く帰りたい。今回ルーチェと一緒に来てしまっているので、屯所に身代わりはいないのだ。ちなみにルーチェが入っているのは私のもう一つの義骸。喜助の携帯用義骸の試作品と言ってその実用化に向けた試験的な意味も兼ねているのだが、その意味では成功だと思う。ルーチェから不具合の連絡は来ていないし、今も神楽と新八に付いて怪我人の手当てに向かっていると連絡は来たが、義骸とのリンクが鈍いとは報告を受けていない。


「…ちょっと銀時。アンタ何自然に一緒に入って来てんの」

「バレたか」

「バレるわ。何なら夜一の風呂を覗こうとした喜助の末路を教えてあげようか」

「外で見張ってます、名前様」


凄い勢いで襖を閉める銀時に笑いが漏れる。そんなに焦るなら最初から言わなければ良いのに。男は総じて馬鹿だと思う。人間も死神も、夜兎も。


『……バカな人…』


日輪の涙ぐんだ声がふと蘇り、帯を締める手が止まった。


『貴公に何が分かる!!現世と其方らの世界とでは時間の価値観が遥かに異なる!時間は無限になどない!!力を求める為必死で寝る間も惜しんで鍛錬をし、最盛期を迎えたとしてもそれは人生において僅か!後に待っているのは逆らいようのない力の衰退だ!!望みのモノを手に入れられずに死に向かうこともあろう!!そんな我々現世のモノの寿命の窮屈さを理解しようとしたことがあるか!!死神ィイイ!!』


そして同時に鳳仙の叫び声も思い出した。
あの時は何も反応しなかったが、結構心外だった。そもそも交わるはずのない世界同士。比較しようとすること自体が間違いなのだ。価値観は当然違う。しかもこの件に関しては以前ミツバと話した時、私なりに人間の人生についてかなり熟考した。なのにまるで我々死神が現世の事象全てに対して見下しているかの様な言い方に腹が立った。現世に降りてきてその感覚の違いに苦しんでいることなど鳳仙は微塵も思わなかったのだろう。いや。


「もし分かっていたとしても、言わなかった、か…」

「?なんか言ったか?」


羽織りに腕を通して呟けば銀時に聞こえていたらしい。襖を開けて何でもないと言いながら出ると、やや不思議そうな顔をしている銀時の横を抜けて外へと出た。





















ー 拘る理由。 ー


























「…四楓院、いるか」

「…副長?」


吉原で銀時達と別れ、ルーチェを義魂丸に戻し、携帯用義骸を萎ませながら屋根伝いに屯所の自室へと戻って、直ぐ。まるで見計らったかの様な呼び掛けに思わず時計を見た。現在夕方の6時。副長は夜勤もないので、一般的には夕飯か風呂へ行く時間帯だ。一体何の用事があると言うのか。また極秘にでも動きたいことがあるのだろうか。それとも書類業務が終わらないか。
そう思って襖を開けて彼を招き入れ、顔を見た次の瞬間には身体が宙を舞っていた。


「……理解、出来ねぇと言いたげな顔だな」


固い地面にしこたま打った腰を摩り、しかめ面になりながら顔を上げると、そう言いながら副長が庭へ降りてきた。右手には抜き身の刀。
完全に失念していた。
私の部屋へ来る場合、外出の用事でもなければ帯刀をする訳がない。なんて考えをつい数ヶ月前に払拭される出来事があったのを忘れていた。でもあの時は私が人間じゃありえないモノを見た副長が混乱していた中で起こした行動だと思っていた。まさか、もう一度やられるとは思っていなかった。しかも今は腹に穴が空いた直後の大戦闘帰り。大変疲れている。咄嗟に受身も取ることが出来なかったのがいい証拠だ。腰に斬魄刀が差さったままなのがせめてもの救いか。
今、正に突きを繰り出した副長の刀を片膝を付いて態勢を整えながら風車を抜いて止める。舌打ちの様な音が聞こえたのは気のせいじゃない。また余裕で止めやがってと思っているのだろうが少々辛い。なので刀身を支えている左手の人差し指を向けると言葉を紡いだ。


「【破道の一 衝】」

「!っ、」


確か、鬼道を副長に放ったのは初めての筈だ。どの程度人間が耐えられるか分からないが、これは以前銀時に試したことがあるので大丈夫だろうと判断した。衝でよろめいた隙に刀を薙ぎ払うとその勢いで立ち上がり、間髪入れず上段から振り下ろした。


「っ、ホントに女かお前」

「お褒めの言葉と受け取りますが」


庭いっぱいに響いた甲高い音に反応した隊士が何人かいるのではないかと少し心配になる。お互い真剣を交えて稽古ですとはちょっと言えない。どう説明しようかと思案しつつ、副長の表情を伺う。私の今できる限りの目一杯の振りを受け止めてはいるが、少し辛そうではある。ここから反撃されることはまぁないだろうと力は緩めず、彼の目的を聞くことにした。


「で、お話したいこととは何でしょうか。まさか私に奇襲を仕掛けたかったなんて、巫山戯たことを、」

「…名前」


ここでそう来るか。だったら初めから苗字ではなく名前で呼べばいいものをと思う。でもここで敢えて関係を変えたのは何か意図でもあるのだろう。首を傾げて先を促すと大して表情を変えないまま話し出した。


「今回お前が屯所を空けてまで手を出したのは、幕府絡みか。それとも'お前ら'絡みか」

「真選組には関係のないことだ」

「それは副長の俺が判断する。言え」

「今この関係性で命令出来る立場にあると思うなよ'十四郎'」


振り下ろした刀の下にある十四郎の顔を無表情に見つめると、不意に彼の目に力が篭ったのが分かった。瞬間手に力を入れたが、それより強く薙ぎ払われ両手が挙がり、マズイと思った時には遅く、腹に蹴りが入った。というか出来るなら早く言ってくれ。一人で余裕を噛み締めてて恥ずかしかったし無駄に体力消耗したしお腹痛いし。
踏み止まらずに衝撃を逃がそうと逆らわず後ろへ飛んだのだが、病み上がりには辛かった。着地してよろめいて、堪らず後ろの壁にもたれかかった。息つく間もなく攻め込んでくる十四郎にもう縛道で黙らせてしまおうかという考えが頭をよぎる。
右手を半分挙げたところで刀が顔の左横に突き刺さった。少し前に流行った壁ドンの様な甘いシチュエーションは一切ないが、こんな感じなのだろうかと何故か思う。


「お前、ここ一ヶ月偉く忙しそうだったな」

「子守がねぇ。大変だった」

「テメェに餓鬼がいるとは今更驚かねぇが、男が子を産めるなんて初めて聞いたな」

「?あんた何言って、」

「上手く誤魔化せたと思ってた様だが、俺の目は誤魔化せねぇよ…ーなぁ、


……ー浮竹剣心。」


そう自信たっぶりに言い切って左手で胸倉を掴んだ副長。まさかと思って目を見開いて顔を見つめれば、彼は更に言葉を続けた。


「'そんな'になるまでどこで何してやがった」


どうやら最初からかどうかは定かではないが、だいぶ早い段階から色々辛いことに気付いていたらしい。だったらさっさと追い詰めて欲しいものである。もう攻撃は来ないかと斬魄刀を収めると、胸倉を掴む副長の手を掴んだ。


「ねぇ、副長」

「答えろ」


頑としてお前の意見は聞くつもりはないという態度がいつも思うが清々しい。そんな彼にふと笑うと、反対の手で羽織のポケットを探った。
尋問する気満々のところ悪いがそろそろ'時間'である。
こんな場面でバラす気は無かったが、やむを得ない。手に握った虚化制御剤のキャップを外すと、副長が目をいっぱいに見開く直前に自分の心臓へ勢い良く突き立てた。

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