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太陽。陸



祈ったは良いが、死神が祈る神などいないんじゃないのかそもそも自分らの総称に神と付いているではないかと気付いた時に銀時の動きが止まった。
まぁ元より明らかな霊圧の差からあまり期待はしていなかった。いくら伝説の攘夷志士に名を連ねていたとしても、とんでもない戦闘の経験があったとしても。霊圧の差を覆すことは出来ない。初めから分かっていたことであるし、自分がやると言う手段もあった。だが、これは銀時の闘いであったし、人間の闘いであったから率先して手出しはしない方が良いだろうという判断の元でやめた。
そして今それを半分程後悔している。自分の1.3倍ぐらいはあろうかという傘を軽く振り回し、その斬撃を一体何発身体に受けたのか。見ていて何度も間に入りたいと思ったが、晴太の手を握ることで耐えた。彼の邪魔をしてはいけない。この闘いで人間が勝利することにより吉原が得られる利益は大きい。銀時は下手をすれば同時に恐ろしい不利益も生じるのだが、負けるよりは小さい。負けは死を意味する。だが。


「銀さんンンン!!!」


今、彼は死の淵に立たされた。顔がちょうどある場所をあの夜兎の脚力で蹴られたのだ。子供でもヤバイと分かる。晴太の叫び声は殆ど悲鳴に近かった。
そして気付いた時には、夜兎の脳天に踵落としを叩き込んでいた。


「名前姉!!!ダメだ!!死んじゃうよ!!」

「…いや。寧ろ逆だよ」

「ど、どういうことだよ!?」

「彼女がヤった方が勝てる確率は断然上がる」

「…は、?」


そんな会話が上の方で聞こえる。当然殺気剥き出しで降りたのだから防がれてはいるが、小さな擦り傷しか入らないことに夜兎の頑丈さが本格的に恨めしくなって来た。
加減が分からないからだ。
人間相手は散々やってきているので大体の上限は分かっているつもりだが、この種族には一体どこまで本気を出して良いのか。そもそも上限なんて設定して良いのか。でも取り敢えずは斬魄刀よりは白打で様子見で良いだろうと、右足で着地するのと同時に左足を頚椎へと叩き込んだ。
私の踵落としの何に驚いたのか分からないが、呑気に受け止めた自分の腕に目線を落としたのでそこを狙った。だが綺麗に横へ吹っ飛んだのを見ると、上手く力を逃したと思われる。これはいよいよ本気を出さなければならないのかと、早く霊圧の低い人間をこの場から遠ざけたくて、手摺にしがみついて泣いている晴太へ声をかけた。


「晴太。早くお母さん連れて行きなさい」

「え!?で、でも…」

「名前の言う通りだよ。君がここに残っていたって邪魔でしかない。というか、男が己の命を賭した最後の頼み。聞いてやった方がいいんじゃないのかな」


…ー『さっさと行かねーか。母ちゃん連れて吉原から早く逃げんだよ』
…ー『…行ってくれ。俺をまた敗者にさせないでくれよ』



やはりよく出来た子供だ。駄々をこねることもなく涙を拭うと、日輪の居る部屋へと走って行った。それを立ち上がりながら見ていた鳳仙が無駄なことだと嘲笑う。


「足のことか」

「なんだ、ご存知だったか」

「アンタならやると思った」

「…どういう意味だ」


所々私に対して敬語っぽいものが向けられるのは現世の存在よりは上のものと無意識に認識しているからなのだろうか。晴太が日輪のアキレス腱が斬られているのを見て号泣しているのを聞きながら、目の前の夜兎に薄く笑いを浮かべた。


「どうも貴方は不器用そうだ」

「…何を、」





「たかが人間の女一人に一体何年手こずっている。夜王が聞いて呆れる」






瞬間、時が止まったかの様に辺りが静まり返った。そして案の定というか鳳仙は雄叫びの様な声を上げた。


「っ黙れェエエエエ!!!!」


激昂した鳳仙は力の限り傘を思い切り叩き込んで来た。流石にそれを受け止める程私も丈夫ではないので、軽く飛んで避けるとその上に降り立った。同時に横から飛んで来た蹴りは受け止めてこちらも一つ頭目掛けて蹴りを返す。そのままお互いの態勢が止まったところで、彼を見ると本当に怒ってらっしゃるのがよく分かる。やはり図星だったか。


「貴公に何が分かる!!現世と其方らの世界とでは時間の価値観が遥かに異なる!時間は無限になどない!!力を求める為必死で寝る間も惜しんで鍛錬をし、最盛期を迎えたとしてもそれは人生において僅か!後に待っているのは逆らいようのない力の衰退だ!!望みのモノを手に入れられずに死に向かうこともあろう!!そんな我々現世のモノの寿命の窮屈さを理解しようとしたことがあるか!!死神ィイイ!!」


何がそこまで彼に劣等感を与えると言うのか。鳳仙に全力を出させる為とは言えたかがと言ってしまったのは後で日輪に謝る。当然だ。だが、考えてもみろ。確かに日輪は他の人間にない芯の強い心を持っているが、本当に"たかが"人間だ。思い通りにならなければ誰か他の何かを探せばいい。力付くでもやらせればいい。憤るぐらいなら殺せばいい。なのに、鳳仙は日輪に拘り、更に泣き喚き助けを請い屈服させることを望んでいると私と取っ組み合いながら現在進行形で宣っている。吐き気も催すレベルだが、最早それが常軌を逸しているのを分かっていない。まるで自分の言うことが全てであり、絶対的にそうならなければならないと思い込んでいる様だ。
まぁ彼の精神的根底にある敵と日輪の共通点を考えれば精神状態を何となく理解出来る。何があろうとも常にこの世を照らし続ける太陽。それと常世の闇へ身を置いていても常に周りを照らし続ける日輪。普遍であると無理やりに括ることは出来る。
彼が屈服させるまで執着する理由も段々と分かって来たが、今ひとつしっくり来ない。とは言えこんな狂気をいつまでも日輪の耳に入れるのは毒でしかないので、そろそろ黙って貰おうかと、霊圧を掌に集めた。それにいい加減うんざりして来た。


「日輪!!我が下に沈むがいい!!お前はわしの、」

「【破道の三十一 赤火砲】」

「!?」


彼は腹に拳を叩き込まれると思ったのだろう。普通に片手で防御の構えを取って、もう片方はカウンターを狙おうと後ろに引かれていた。鬼道まで素手でいなされたらどうしようかと思ったが無理な様だ。片膝をつく程度で済ませたのは流石だが精一杯顔を顰めてこちらを睨んでいる。


「沈める前に自分が沈んでちゃ世話ないな」

「貴様…」

「鳳仙。アンタ如きが日輪(たいよう)を沈めるのは無理だ。それにあの子どもが全て掬い取ると言っている」

「フン。あんな女一人も碌に持ち上げられない童の戯言を間に受けるとは。死神も落ちたものだ」

「戯言なんかじゃない!!母ちゃんの一人や二人いくらでも背負ってやる!!それが息子として当然だ!!…今まで何も背負ってこなかった。これぐらいが、これぐらいでちょうどいいんだ」


この重さが嬉しくてたまんねーんだ。
そう言って本当に嬉しそうな顔をする晴太。私が氷雨の体重を一身に受けたのは、あの時だけだ。

『…生きて…立派な、死に…が、…み…』

本当に彼の最期だった。たたでさえ重いなと思ったのに死を過ぎた瞬間更に重くなったと記憶している。そして呆然と迫り来る虚を見つめていた時に突如夜一が現れて、それを蹴り飛ばすと氷雨を抱き抱える私を抱き締めてくれた。あの日から彼女は文句なしに私の"おかあさん"である。
血なんか繋がらなくたってその子の支えとなり一緒に過ごしていればそれは母親だ。そしてどうやら晴太にはそれが49人もいるらしい。いつの間にか大集合していた。


「太陽ならいっぱい上がってるじゃねぇか…そこかしこに、たっくさん」


そんな母親のうちの一人、月詠がへたり込んでいる銀時を見てクナイを投げると、見事指先キャッチをしてそんなセリフを吐いた銀時。立ち上がって再び剣を構えると、総勢50人で鳳仙へと向かって行った。

人間の反撃開始である。






































(なんだか無性に夜一に会いたくなってきた)

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