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太陽。伍



「待てェエ!!」

「ついに見付けたぞ!!早くあちらに回り込め!!」


神威と阿伏兎をやり過ごしてから行く先を迷っていたが、取り敢えずは一番小さい子供だろうと晴太を探していた。それにしても人間は霊圧が薄くて困る。建物内が殺気立っていたのもあるのだろうが結構苦労した。そして見付けたと思ったらまさかのブッキング。ていうかこいつはなんでこんなに追っかけられる状況が多いんだと呆れながら百華と晴太の間にするりと入り込んだ。


「あと少、し…!?」


髪の毛一本ぐらいは触れたか、その腕を掴んで彼女の勢いを利用して投げ飛ばすと、さすがに戦闘訓練を積んでいるだけあって異変に直ぐさま反応した後ろの百華達が足を止めた。その数ざっと十ぐらいか。


「き、貴様何者だ!?」
「名前姉!!」


百華と晴太の声がほぼ同時に上がったが、きっと私の名前は聞こえたはずだ。名乗らなくていいだろうと彼女達に背を向けると、晴太の前にしゃがんで頭を撫でた。


「え、普通に後ろ…ていうか名前姉!怪我!?」

「晴太」

「せ、背中に血が、」

「晴太」

「……なに、?」

「よく頑張った」

「…っ名前、姉…」


必死に堪えようとしているが、目に涙が浮かんで今にも溢れ落ちそうだ。それを袂の端で拭ってやろうと挙げた手はしかし、意図したものには使われず、代わりに一本のクナイを受け止めた。その感動の再会に水を差されたクナイを見て小さく溜め息を吐くと、立ち上がって百華を見遣った。


「っ、何者かは知らぬが邪魔立てをするなら容赦はしないぞ!!」

「たった十人でよく言えたものだ」

「何だと!?」

「ワザと隙を見せていたのに仕留められないお前らの技術に何を期待しろと」

「貴様っ、…」


怒りに任せた戦闘時程相手をし易いものはない。動きは単調になるし、柔軟性もなくなる。小さくほくそ笑むと、弄んでいたクナイを一番後ろにいた百華の大腿部を狙って投げた。
急に上がった呻き声に近くにいた仲間が振り返り驚きの表情を浮かべる。そんなに隙だらけでいいのかと何度目か分からない溜め息を吐いて、一歩踏み出した。
晴太にとっては恐らく、私の姿が消えたと認識した時には全ての百華が倒れていてしかもまた私が自分に向き直っているという奇妙な体験みたいになったのだろう。目をぱちくりとさせて私を見上げる少年に笑ってさぁ行こうかと手を差し出したのだが、それを握ろうとした晴太の手がふと止まった。


「…俺。会いに行っていいのかな」

「と言うと?」

「だって俺会ったの小さい頃だし、それっきり会ってなくて…姿も変わっちまって、しかも本当に母ちゃんかも分からないし、迷惑じゃ、っイテ!」


話しながら段々と俯いて行く晴太の頭をコツンと叩くと、途端に泣きそうだった顔が不思議そうな顔になった。お母さんに会おうと宇宙最強一族が支配する地下組織を敵に回そうとしても、そうやってすぐに表情が変わる所はまだ子供か。
私には生まれてから氷雨に拾われるまで親という存在が居なかった。しかし潤林安というとても幸運な場所にいたお陰で私は盗人をする必要もなく、住んでいた空き家に何故か近所の人達がよく食べ物を持ってきてくれていてそれなりに暮らせていた。氷雨と暮らし始めてから知ったのだが、霊力を持たない人は腹が減らないらしく、じゃああの人達は何故野菜を作ったり料理をしていたのだろうかと首を傾げたのを覚えている。だけど。

『名前が可愛かったんじゃないですかね』

珍しくとても嬉しそうに氷雨がそう言ったので何だかどうでも良くなってしまって、一緒に笑顔になりながら夕飯を作ったのも覚えている。なので未だに正確な理由は分からない。大体何故幼い私が一人でいたのかも不明だ。いつか尸魂界に行けた時には尋ねてみたいと思ってはいる。実現不可能な未来だろうが。
血の繋がりをなしに育ててくれた大人を親と言うのなら氷雨であり夜一や喜助達を指すのだろう。今回日輪と晴太のDNA鑑定をしたが親子関係はなかった。第一、遊郭にあたって遊女が身籠り子を産むなど余程のことがない限りなし得ないことで。今晴太の抱える不安は悪く言えばあたっているかもしれない。自分の子供でもなかったのに晴太を地上へと逃がし、その際の咎で日輪は二度と自分の脚で立ち上がることが出来なくなった。自分の命を賭してとも言えるが、その行為のせいでとも言える。でもまぁ実際に聞いたワケでもないが、月詠に私達を逃がす手伝いをさせたりまるで異端分子である我々の到来を待っていたかのような態度に、若しかしなくても前者で正解だろう。晴太は遊女達の希望の"太陽"だったし、今もそうだ。


「私に血が繋がる親はいない」

「…え、?」

「でも親代わりは沢山いる。あんたぐらいの歳の時に拾われてずっと一緒に暮らしてきた。だから、育ての親である爺さまを亡くしてどれだけ苦労して来たのかは想像でしか理解してあげられない。納得出来て満足出来るような言葉はかけてあげられない。
私があなたにしてあげられる最大限のことは、手を引いて日輪の元へ連れてってあげる事だけ」


後は自分で決めなさい。
目を合わせる様にしゃがんでそう言うと、一瞬間を置いてしっかりと頷いた晴太。その少年の頭を再びぐしゃぐしゃと撫でると、立ち上がって手を差し出した。




































(行くよ)
(オウ!)

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