×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

太陽。壱



花魁は美しい。溢れんばかりの色気を一切仕舞おうとせず、だだ漏れ状態なのに決して下品とは見えない。それどころか貴族とはまた異なった、艶めかしい危険な香りのする上品さが漂う。花街へと行けばその美しい者達が寄ってたかって誘ってくるものだから、男としては堪らなく良い気分になるのだろう。
晴太がスナックお登勢で働き始めてから一週間。彼が自分の母親だと主張する女性は世の中の目を掻い潜るように作られた地下にある花街、吉原の最高位の花魁であると分かった。だけどこれはあくまで噂を掻き集めた結果。場所が場所なのでホイホイ入り込む訳にも行かず、街の中で情報を集めた推測の域を出ない。それに、花魁が子を産んでその地位を守り続けることなど到底は出来ないだろう。喜助が情報収集をしているということと、その御法度が共存していたが故にどうにも色々と納得がいかなかったので遂に最終手段へと出ることにした。


「なぁ、名前」

「なんだ」

「お前、なんでそんな上手く型にハマってるんや。まさか経験ありか?」

「ない。だが、躊躇いもなく花魁が声をかけるということは上々の出来なんだろうな」


男装は。そう言って微笑めば、真子は泣きそうな顔をした。


「お前…ダメや」

「なにが」

「イケメン過ぎて辛い。なんやオトコやめたなってきた」

「……向こうに陰間茶屋も、」

「やめェ!!」


店の格子に向かって泣いている真子はそこから手を伸ばす遊女に慰めて貰っている。あら可哀想な旦那様、アタシらが慰めてあげましょうか。ホンマか?なぁ聞いてーな。身もない会話を始めた真子に思わず苦笑する。泣き崩れた先が格子窓とはまた計算したもんだ。彼女達も人間の男を毎晩飽きる程相手取っているだけあって、懐にするりと入り込むコミュニケーションスキルは目を見張る。そして男はそれに気を許し、いらぬことまで喋り倒す。遊女達も守秘義務なるものを掲げてはいるがそれがどこまで通用するか。その男より高いチップを貰えば恐らく簡単に口を割るのだろう。
そこを狙おうと提案したら、最初大反対された。
花街はガキの行く所、ましてや女が行く所じゃねぇ。むしろ遊女は地上の女には少なからず対抗心の様なものがあるから、警戒されて絶対に口は開かないだろう。それに警察だなんて知れたらもっとだ。というかあそこは地上の法は通用しねぇ。やめておけ。口を揃えてそう言った真子達に、ひよ里やリサ、白を始めとした女性陣は冷ややかな目線を送った。

『なる程。つまりあんたらは通い詰めている、と』
『え、い、いや…そういう訳じゃ…』
『なんでアタシらを誘ってくれへんかったんや!!』
『いや。リサ、なんか違う』

まぁ男なのだからしょうがないと分かっているのだけど、見るからに慌てふためく様子がおかしい。でも、その花魁と晴太の正しい関係ははっきりさせたいということで、出た案の一つが私の男装だった。

『行けますよォ〜名前さん、カッコいいですし』
『…マジで言ってるのかい喜助?』
『ハイ。大マジっス』

というか最早それしか方法がない。男物の袴を調達し、髪は喜助特製の育毛剤で長髪にしてポニーテールにして。夜、仕事が終わってから屯所を抜け出して、真子と吉原に繰り出したのだ。ちなみに相手はクジ引きで決めた。
最初は物珍しさに首が痛くなるほど周りを眺めていたが、段々とその光景にも慣れてきて今は何処の店に入るか品定めをしている段階だ。どうせ入るなら可愛い人がいる場所がいい。真子が今絡んでいる店は失礼ながらあまり上玉が揃っていなさそうなので、彼の後ろ襟を引っ掴んで立ち去ろうとしている時だった。


「軽々しく汚い手で触るな。俺らは幕府の上役だぞ」


また随分な物言いだ。どうせあんたらだって汚い手で方々に触れ回りその地位へとのし上がって来たに決まっている。思わず足を止めて睨む様に見ていると、何かを言い返した花魁の胸倉をそいつは格子越しに掴み上げた。それを見て足を向けた私を後ろから真子が制止する。


「やめ。そないなことせんと、ココはココの'警察'が動く」


そう真子が言うか言わないかぐらいで、突如血飛沫が上がった。同時に役人の手がボトリと地面に落ちる。一瞬、何が何だか理解出来ていない様であったが、遅れて来た痛みと衝撃に色気の無い悲鳴が響き渡った。すぐにそのお仲間が逃げる様に当事者を連れ去らなければ彼はどうなっていたのだろうか。勇敢にも腕を落としたそいつへと立ち向かった三人の命はない。いくらおいたが過ぎると言っても店の前が死体だらけじゃ客は寄り付かないだろうに。と余計な心配をしていれば、煙管を蒸した女がそれに近付いて来た。偉く露出の高い着物を着ているが、手に持つクナイから滴る血液が主犯だと物語っている。表情一つ崩さず死体を確認し、部下らしき人へと片付けを命じている様子に真子達が言うここの法を守る番人なのだろうと当たりをつけた。


「これさ。殺人の現行犯、は無理かな」

「地上まで追い立てればやれんこともないで。やるか?」

「やめとく。なんかお姉さんの目、めっちゃ怖いし」


見た感じとても綺麗なお方である。漆黒に橙の蝶が舞う着物を独特に着こなし、チャイナドレスのように入れられたスリットから覗く脚は網タイツなるもので覆われている。しかも黒のブーツときた。銀時以上に着物を崩す奴がいるかと思っていたがここにいた。というか戦闘に長けているので自分の動き易い格好を探した末のものなのだろう。


「ぬしら、ちと待ちなんし」


彼女達は恐らく百華と呼ばれる吉原の番人。探している花魁について話を聞きたいのもあるが、さすがに目をつけられるのは避けたいので立ち去ろうと踵を返して二三歩で声を掛けられた。綺麗な廓言葉に整った顔立ちと姿。何故こんな人が遊女ではなく番人などやっているのだろうか。


「なんや姉ちゃん、いい店でも紹介してくれるんか」


振り返れば彼女一人。思ったより早い事後処理に些か感心してしまう。そんなことを思っているか分からないが、真子が愛想よく慣れた様子で話し掛けると、彼女の纏う空気がふと変わった。


「…エラく過激な誘い方するんやな」

「私は結構好みだが」

「え、マジで?明日から後ろ気ィ付けやァ」

「倍返しを期待しとけよ」


唐突に投げられたクナイの向かう先は私達の脳天だった。それをあっさりと指で掴んで防ぎ、クルクルと回しながら会話をする様子にお姉さんが若干焦ったのが分かる。見られたから殺す。という類ならさっき後ろを向いた時に殺られたはずである。ヤケに回りくどいことをするがイマイチ言わんとしてることが分からない。二人で黙って彼女を見ていれば、一度唇を噛んでから声を出した。


「…死神太夫、月詠でありんす」


私らの前で死神を名乗るとはなんと滑稽な。思わず二人で同じように笑ったのを彼女は怪訝な目で見ている。


「このクナイは次会った時に返すよ」

「またな、月詠ちゃん」


クナイを止めたのを見て実力を見切ったのだろう。それ以上無駄な攻撃をして来なかったのは賢い。こちらとしても美人を殺すのは忍びなかったので、殺気を収めるとそう言って手を振ってその場を後にした。



































(あ、陰間茶屋なら向こうに…)
(なんでや!!)

prev/next

99/129


▼list
▽main
▼Top