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えにし。壱





「……っていうワケでさァ」

「総悟、なんでそれをもっと早くに言ってくれないの」

「あれ?俺はとっくに名前は気付いてるもんかと…」

「私は今まで何処に行ってたの?」

「…ごめんなさい」


そもそもの発端は参謀の存在にキレた副長が刀鍛冶屋へ行った日。代わりの刀と彼が手に取ったモノを鍛冶屋の親父は止めたのに副長は鼻で笑って手に取ってしまった。私も何となく嫌な雰囲気がしたので親父と一緒に止めたのだが聞き入れて貰えず、彼が手に収めた瞬間、もっと強く言えば良かったと後悔した。何かカチッと嵌った様な音がしたのだ。しかしそれは人間に聞こえるものではなく死神として聞こえた音で。副長の魂魄を確認しようと目を凝らしていたのだが、不意にぞろぞろと浪士がたかって来た。抜ければ問題はない。直感的にそう思い自分も斬魄刀に手をかけて傍観していたが、彼はそこで想像以上のことをやってくれた。


『すいまっせーん!!命だけは!!命だけは勘弁して下さいィィイ!!草履の裏でも何でも舐めますんでェェエ!!』

『『『………は?』』』


いやいやちょっと待て。何の冗談だ。鬼の副長ともあろう者が何故土下座をしている。草履の裏舐めるって何だ。これは夢か。私は立って白昼夢でも見ているのか。襲って来た浪士もあまりの変わり様に呆然としている。だが、我に返って一頻り爆笑し、これはチャンスと全員が暴行へと走った。それよりツーテンポぐらい遅れて自分も我に返って、部様に踏みつけられている副長を見れなくなるのも残念だがいい加減適当にあしらうかと足を進めた時だった。


『……テメェ……』


戻った。不完全ではあるが、魂に干渉するものを気力で抑え込むとはやはり並の人間じゃない。浪士共も再び放たれた殺気に足が竦んでいる。やはり手助けはいらないかと緊張を解こうとした時だった。


『あの、これ位でホント勘弁してください』


戻った。別の意味で。しかもSuicaは取るな家に帰れなくなるとかほざいてらっしゃる。いや、むしろ帰るなとか思った私は悪くない。
流石に仏の顔も三度までは待てなかったらしく、浪士達は一斉に向かって行く。仕方なく溜息をつきながら此方も刀を抜き、全員を仕留めてから収めると、副長の後ろ襟を掴んで鍛冶屋の入り口へと放り投げた。


『いっ痛ェな!!何すんだよ、四楓い、』

『今すぐ、返して来なさい。その刀を』

『………何でだ』

『お認めになりたくないのはお察し致しますが、あまりにもリスクが高すぎる。早いウチに離さないと、魂魄が崩れる』


早く手放せ。私の目が真剣なのを読み取れないのか、もう取り込まれてしまったのか。
中々思う様に動いてくれない副長に苛立ち、あまりやりたくないが無理やり剥がすかと斬魄刀の柄に手を掛け、彼が驚いて私を見上げたと同時。不意に後方から声がした。


『おや。誰かと思えば、土方君と名前さんじゃないか』


見られた。何をって、私が副長に殺気を向けていたのよりもこの時危惧したのは彼の土下座だ。いくら出張が多く副長と馬が合わないとしても、真選組の法度は知っているし彼もそれに従っている。敵に対して命乞いという士道不覚悟も甚だしい行為に及んだ副長。このタイミングで口を挟んできた彼が、参謀が見ていなかった筈がない。


『護衛対象しかも真選組の副長へ殺気を向けるとは謀反ですか、四楓院護衛兼補佐官』

『浪士の中に飛び込んでおいて余裕をぶっこいて刀も抜かず、白打のみで倒そうと自殺行為を図った副長にキツイお説教をしていただけですよ、伊東参謀』


こんなことをしても無駄だろう。恐ろしく頭が回る参謀は私の言葉の裏にある事実を読み取っただろうし、何より私の性分を分かっている彼が謀反なんて言葉を持ち出す訳がない。お互いに全てを読んで、状況的にはこっちの分が悪い。にっこりと笑ってまぁ貴女に限ってそれはないかと言う伊東に腹が立った。


「名前。俺は野郎の肩を持つつもりはねぇし寧ろ今の状況を利用しようとしているが、明らかに分が悪い」

「それは誰だって分かる。今更、妖刀だなんて言ったって何人が信じるか」


案の定、副長の失態はあっと言う間に広がり、どうしても私の手が必要な虚化保持訓練の手伝いに数日有給を取っている間に彼の立場は最早崩れていた。数々の副長の奇怪な行動もあるのだが、最大のきっかけは昨日の定例会。遅れて来た上に、余りにもふざけた発言。副長はその場で無期限の謹慎、事実上の更迭となった。
全て、私が止むを得ず屯所を開けざるを得ない間に起こった。
完璧に仕組まれたと思って間違いない。一応、補佐を退に護衛を涼に任せてはいたが、彼らも自身の仕事がある。副長の奇行を全て止めるには至らなかった。申し訳ないと二人に言われてあんたらのせいじゃないと言ったのは今から半日前。総悟に話があると呼ばれて私の贔屓の甘味屋の個室に入ったのが一時間前、そして今に至る。
総悟も流石に変に思って定例会の前に副長と話したらしい。その時に妖刀かもしれないと聞いたようだが、やはりあの時強制的にでも剥がせば良かったと後悔の念がひたすら渦巻く。そんな私の表情を読み取ってはいるのだろうが、総悟はそれに追い打ちをかけるように口を開く。


「…既に、」

「隊は割れている。土方派と伊東派にね。そして総悟、あんたは」


伊東派だ。
暫く言葉を発しないと思ったのだろう。一気に喋ってしまおうと思ったのか結論から話す総悟の先を遮れば、餡蜜のスプーンが止まった。


「…なんでィ、留守にしてたってのにやたらと詳しいじゃねぇか」

「現世の通信手段は素晴らしいよね」

「山崎か。野郎がいなけりゃ最早お前の直属のようなもんだろうな。黙ってたって情報は入ってくる」

「仰る通りで。未読メール20件には流石に鳥肌が立ったわ」


ついにストーカーへの道第一歩か。誰の所為や。やや睨む様に言うと、スプーンをくわえたまま私を見た。その表情は初めて会った時から変わらない。よく人はそれを何を考えているか分からない表情だと言うが、今は単なる不器用な餓鬼の面にしか見えない。


「ウチの優秀な監察殿を虐めないで貰えるかな」

「名前が教えてやりゃいいじゃねぇか」

「私はあくまで予想の域だ。それにたとえ、あの子が私を信じていたとしても盲信はしていない。より確実な情報を求めるよ、監察は」

「…死神は揃って遠回しが好みか」

「悪いか」

「めんどくせぇ」


暴言を吐きながらも私の器にスプーンを伸ばし白玉を攫って行く総悟。元々手を付けていなかったクリーム白玉餡蜜の残りの白玉は二個。今しがた攫われた白玉の行方をスプーンで指しながらそれからと言った。


「'それ'は直属じゃないからね。責任持って手元に置きなさい。今みたいに」

「…他は」

「冗談言うな。自分で解決したやないか」

「一つは。残りの方は、」

「総悟。あんたいくつの餓鬼や」

「………ズルイ人だ」

「ま、お姉さんに一言も言わんと足どころか全身突っ込んだ罰や。ヒントは仰山あげた」


後は自分らで考えなさい。そう言ってお茶を飲み干し伝票を取って立ち上がろうとしたが、その手を唐突に掴まれた。当然犯人は目の前の少年なのだが、ここは一応上司の私が払うべきだろう。そんなことを言えばそうじゃねぇと怒ったように唸る総悟。まぁ分かってはいたがちょっと言ってみただけだ。冗談よ怒らんといてと半分腰を上げたまま彼に言えば、ふと視線を下に逸らして黙りこくること約五秒。


「………必要、なんだ」


漸く絞り出された言葉に思わず苦笑が漏れる。その顔は相も変わらず無表情で。だけど、掴まれた左腕は嫌に強くて。


「…私もだよ」


そう返して本当に分かり易い子になったなと微笑みながら総悟の頭をくしゃっとすると、瞬歩でそこから消えた。

伝票と可愛い弟との二人分のお代をそこに置いて。





















勿論、伊東の密偵にきっちりと記憶置換を掛けるのも忘れずに。

































(伊東の部下が外で見張ってるのに)
(気付かないとでも思ったか)

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