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それは、突然だった。





その日、俺は新八と神楽と家具屋に来ていた。ソファが神楽の馬鹿力で壊れたワケでも、フライパンがダメガネのせいで壊れたわけでもない。朝、俺の茶碗が割れたのだ。いつも通り新八が用意した朝飯を食べ終わりかけた時だった。


『………あ』


多分、机に置こうとしたんだと思う。だけど、それに反して茶碗は俺の手から滑り落ち、床へとダイブした。茶碗だからそれ程大きくもない。大理石の床でもダイヤモンドの床でもないので衝撃が凄かったわけでも無い。なのに、陶器が割れた音がやたらと部屋に響いて。神楽も新八も軽口の一つなく、動きを止めて破片を見つめていた。俺も何故かそれをじっと見てしまって。カラスが一声鳴いたのをきっかけに漸く新八が動いた。


『…あ、じゃないですよ。なに朝から仕事増やしてくれてるんですか』

『銀ちゃんアル中アルか。酒が切れて手の震え止まらないアルか』

『バカ。アル中じゃねぇよ。糖中だ。ちなみに今もこれからも糖切れだ』

『ハイハイ。そんなの糖尿病予備軍の別称に過ぎません。神楽ちゃん、掃除機取ってきて。銀さんは動かないで下さい。破片が飛び散ってますからね』


今日はいつも通り仕事は入っていなかったので茶碗を買おうと朝食後に家を出た。
誰かが、縁起が悪いだの不吉だの言ったワケでもねぇ。ただ、何となく嫌な予感がしたので、一日前までは茶碗と呼ばれていた物をゴミ捨て場に捨て、歩き出した。定春も一緒で、普通にいつも通りの散歩的な感じだった。店で選んでる時もいつも通りバカをやった。帰り道もだ。いや、そうしたかったんだと思う。全員が全員、何かを感じとり、だけどそれをお互いに口にはしなかった。

そして、それは万事屋に到着する寸前に起こった。


「!!」

「銀ちゃん!!」


この時程自分の境遇に感謝したことはない。誰がこんなテレポーテーションみたいな登場の仕方で刀突き出されて反応出来るか。迷いなく出された刀の先は俺の目。あの元死神集団が俺らのリアクションを面白がって度々瞬歩を使って現れることでもされてなきゃ間違いなく驚きで体は固まり、死んでた。咄嗟に出した木刀に亀裂が入っている。


「銀さん!」

「新八!バカに連絡しろ!!神楽!」

「ハイヨ!!」


珍しく新八の腰に差さってた木刀を貰う為に、一旦神楽に攻撃をさせた。ついでに携帯も渡してアホにかけろと再び告げる。銀さん呼び方が酷いですと言われたが気にしない。あいつはそんぐらいで充分だ。


「オラァァアア!!」

「!?」


夜兎の馬鹿力で地面は抉れ、砂埃が舞う中、的確に狙えば相手は驚いたようだ。余裕に刀を出して防ぎながらも目をパチクリとさせている。なんか、腹立つわ。


「……アンタ、人間だよね?」

「そういうテメェは人間じゃねぇだろ」

「よく分かったねぇ。霊圧操作でも教わった?」

「ちげーよ。挨拶もなしに急に現れる常識外れは全員死神って相場は張ってんだ。なぁ、」


西園寺祥之助。
俺の言葉に初めてこいつの顔が大きく変わった。合わせた刀にまだ乾ききらない血が付いているのを見ながら、その感情の変化を読み取る。俺の後ろでは新八が焦った声で喋っているのが聞こえて、マヌケに繋がったのが分かったが、こいつは何故か分かったらしく胡散臭そうな笑みを浮かべて良かったねと言った。


「…何の話だ」

「だって、アレ。浦原部隊への連絡でしょ?何でしたかは知らないけど、僕の存在が分かった時点であの人が君らに教えないワケないよ。危険性についても同様に、ね!」


その言葉と同時に思いっきり刀を薙いできた。ここで反発しても木刀が使えなくなるだけなので、力に従って素直に後ろへ飛んだ。


「でもさ、やっぱり思った通りだ」

「…さっきから何一人で喋ってんの、お前」

「君ら、相当霊力高いよ」


だって、僕の前でも消えないもん。
その言葉を聞いたかどうかは分からない。え、まさか俺って幽霊見えんのとかくだらないことが一瞬頭を掠めたと思ったら急に俺らの間に誰かが入って。どこか見覚えのあるシルエットだなと思ったら、次の瞬間、視界に入って来たのはどこか見覚えのない天井で。同時に顔を叩かれた。


「って、オイィイイ!!なんで俺叩かれたの!?何で部屋に戻ってんの!?あ、茶碗は!?ていうかココ何処!?」

「うるさい」


そしてもう一度叩いた奴の顔を見て漸く何処だか分かった。俺らが放り出されたのは部屋。開け放たれた障子から見える庭の風景に見覚えがある。近くに立っている神楽と新八、既にその庭にいる定春も目をパチクリとさせて周りを見渡している。


「…名前」

「あんた、何で転送装置を使わなかったの」

「聞くだけ無駄だ、四楓院。自殺願望もここまで来ると警察が止めに入るのもバカらしくなって来る」

「旦那ァ、自殺幇助ならいつでも手伝いやすぜ。土方の」

「何で俺だ」


しゃがんで俺の顔を覗き込む名前の後ろに相変わらず瞳孔開きまくりの多串くんと総一郎くんがいて。真選組の屯所であると分かったと同時に、さっきまでのことが蘇って来て思わず名前の両肩を掴んだ。
で、離した。多串くんと総一郎くんの手が鯉口を切りかけたのは俺からは真っ正面だったので目の端に捉えたが、自分の後ろで起きたことの次第を名前はきっと気付いてる。


「……あんたが何を言いたいかは分かってる。こんな巫山戯た行動をしたのかもね。あいつが何なのか、は前に話した通りだけど、手を出すなとも言ったはず。だけど、それは咎めない」


あんたには私の目が見えてるでしょ。
音はなく口だけを動かした言葉を全て読み取れた俺は凄いと思う。だけど、それより名前の目の動揺が凄かった。きっとこれは自惚れじゃなくて、俺が殺されることが心底怖かったんだと思う。これだけ心配させておいたんだから反省は充分出来ただろ。こいつはきっとそう言っている。































結局その日、俺らは屯所に泊まった。神楽は名前の部屋で、新八は一番隊の副隊長の部屋。俺は、空き部屋だ。多串くんはめっさ嫌そうな顔をしていたが、銀時はともかく一般市民を死なせたいですかという名前の貶し言葉に渋々頷いていた。
今は真夜中。厠から帰って来ると、部屋の前で座って夜空を見上げる名前がいた。


「……お前、満月は苦手なんじゃなかったのか」


何だかやたらと小さく見えて変に不安になる。その横に胡座をかいて、着ていた半纏を掛けるとありがとうと言って微笑んだ。


「氷雨は、好きだった」

「……だからか」

「そう」


だから、許せない。
こいつがどういう過程で先生の先祖と会ったかは知らねぇ。ただ、拾って貰って死神のイロハを教わったとだけ聞いた。そして、こいつが死神になることを反対していたことも。だが、満月の夜にご先祖が死んで、その仇を討つ為に夜一の養子になり、死神になった。名前がご先祖の言葉で唯一逆らったことだそうだ。結果、こいつは冤罪をかけられ、現世に来た。氷雨の言葉に逆らうからこうなったのかなと言ってたが、これを喜助達に言ったことはないらしい。何故かって。喜助達と会ったことを否定する言葉だからだ。ご先祖は元死神の副隊長。故に面識があって、社交的な性格が伴ったのか、職を退いてからも度々彼らが会いに来ていたらしい。そして、自分の後継人も頼んでいた。ご先祖に予知能力なんてエスパーらしき力があったかなんて分からないし、分かりたくもないだろう。だけど、ご先祖は名前の幸せを一番に考え、色々な繋がりを遺していた。まさか斬魄刀まで遺したことに暫くショックを受けていたのはつい最近の話だ。


「今、氷雨のこと考えてたでしょ」

「エスパーか」

「多分、氷雨もね」


プライバシーって知ってっか?私、警察だよ?
眉を潜めて頭を小突けば笑ってそう返す名前にため息が漏れる。ご先祖様、貴方はとんでもないものを産み出しましたね。


「氷雨は男だよ」

「だからなお前。プライ、」

「声に出てましたよ、坂田さん」

「ご要望は何なりと、お嬢様」


頭を下げてふざければ、そうねぇと再び空を見上げる。思い出すのは幸か絶望か。その表情からは難しい。死神独特の表情だ。俺らには一生理解出来ないし、真似出来ない。


「氷雨は沢山のモノを遺してくれたよ。夜一や喜助達との繋がり、死神としての誇り、生きる上での考え方…斬魄刀、雪月も。喜助達に着いて来たことも、死神になったことも後悔なんて、してない。だって、氷雨の最後の遺したモノに会えたから」

「最後の、…モノ?」

「吉田氷雨の子孫である吉田松陽の弟子達」


坂田銀時、貴方よ。
いつの間にか俺を真っ直ぐと見つめる目はとても綺麗で。透き通ったビー玉みてぇだなと場違いに思いながらも目を見開く。いや、こいつの言ってる意味が理解出来なかったワケじゃねぇ。思わぬ言い方に驚いた。そして、名前の大切な中に自分が入っていたことも。


「何をしても私に止める権利はない。拘束する権利もない。だけど、死にに行くようなことはしないで。もし行ってしまっても、生きて帰ってきて」


そのビー玉から水が零れ落ちてもまだ両目は真っ直ぐに見つめている。普段、絶大な力を振るい敵なんていないんじゃないかと思わせるような戦闘力を持つ名前。一度、崩れかけたのは見たがこんなにも脆い部分を見たのは初めてで。
思わず、腕を掴んでしまった。


「お前、俺らを何だと思ってんだ」

「……ただの馬鹿」

「オイ、そこ今ふざけるとこ違くない?数秒前の可愛い名前ちゃん帰っておいで」

「死ね。尸魂界行って二度と帰って来んな」

「さっきと真逆のこと言ってますけど!?」


口ではふざけているが、顔は至って真面目だ。それが余計に俺を焦らせる。ダメだ。こういう時に自分の感情を完全に隠し切れないから、こいつらは本音を中々言わない。俺の表情でどこまで言っていいかの線引きを勝手にしやがる。


「銀時、何があっても私は貴方達を死なせない」


そう言いながら、自分を掴む俺の腕を握る名前の腕を俺は更に握り返した。


「名前。お前の言ったことは絶対に守ってやる」

「……案外物分りが良くなったね」

「だがな、約束ってのは対等な立場において成立するもんだ」

「偉そうに持論を展開するようにもなったね」

「だからお前も約束しろ。俺に、」


護られろ。
一瞬、俺の言ってることを理解し切れなかったらしい。目を大きく見開いて俺を見つめている。だがすぐにその表情は崩れ、ありがとうと微笑んだ。

本気で俺の言葉を受け取ったのかは分からない。だけど、その時の名前の笑顔に偽りはなかったと、人間の俺でも読み取れた。































(いや、そう思いたかっただけかもしれない)

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