×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

相容れないモノ。参





『名前さん!!』

『ハイハイ、なんでしょうか』

『なんでしょうか、って……そんな怪我で何でそんな平気な顔をしてるんですか!?』

『そんな酷くないからですよー』

『名前さん!ふざけてる場合ですか!』


普段気性が荒くない人が怒鳴るとちょっと面食らう。いやそもそも普段って言ったって彼女とは三日程しか一緒にいないのだからよく知らないのだが。
虚を始末しようと一人で外に出た筈なのに何故かミツバが着いてきていたことに驚いたのも束の間。私の代わりに虚の標的となったミツバを助ける為に解放しながら飛び込んだのは良いが、如何せん距離が遠かった。虚からの攻撃を防ぎ切るのは不可能だと判断して、それを掠める程度に回避してミツバを抱えると、すれ違い様に一撃を入れて更に鬼道で止めを刺すと離れた場所に降り立った。そこで怒鳴られたのが冒頭だ。確かに斬られたし、それを圧してミツバを抱え飛び跳ねて着地したから、痛い。だけど、死に直結するような怪我ではないしどっかの腱が切れたワケでもないからそんなに騒ぎ立てる程でもない。そう思って軽く受け答えしていたので、驚いてしまった。
そしてそんな私の口から零れたのは何とも情けない声で。


『…ご、ごめんなさい』

『貴女が謝ることではありません。さ、肩に掴まって。早く手当てをしますよ』


彼女の細腕の何処にそんな力があったのか。私の腕を自分の肩に回すと腰を確りと支えて家へと誘導してくれた。その道のりは割りと歩き易かったと思う。だけど私はミツバに今のことをどう説明しようかと悩みに悩んでいたのでそこら辺の記憶は曖昧だ。
それにしても彼女の手際が嫌に良い。日常的に見たこともないだろう大量の血液を見ても臆せず、適切に止血し、包帯を巻く様子は感心してしまった。まさか、衛生軍として攘夷戦争に…は考え過ぎか。


『はい。終わりましたよ』

『…ありがとう』


怪我の部位は左脹脛と大腿部。どちらも虚の長い爪の様なモノに引っかかれてやられた。きっと、白哉には馬鹿にされるんだろうなと頭に掠めたのはなんか悔しいからなかったことにする。
それより問題はミツバだ。
何もバレなければこのまま去ろうと思ったが虚どころか斬魄刀も鬼道も瞬歩も恐らく義骸もバッチリ見られてしまった。早く記換神機を起爆させないと道場の誰かを呼んで来ると言い兼ねない。懐にあるそれを探り、出そうとした時だった。


『お礼を言うのは私の方です。今度こそはダメかと思っていました』


今度こそ?
鋏やら包帯を救急箱に入れながら何気無くそう語る様子に私は思わず固まった。


『……どういうことだ』

『私があの化け物を見たのは今日が初めてではありません。いつも家まで逃げて凌いでいるんですが、やはり回数を重ねても見慣れないものですね』


ミツバは死神が裕に見え触れられるぐらいに霊圧が高い。だけど虚の撃退方法は知らないというか出来ない筈だ。さっきの様子を見たってそうだ。全く対処出来ていなかった。なのに度々襲われその対処があるかのように話している。どうやら家に入ることがポイントらしいが全く分からない。彼女に結界の類を張る能力はないはずだ。だとすると。


『…ええ。貴女のお考えの通り、以前にも黒い着物を来て"白い刀"を携えた"死神"と呼ばれる方にお会いしたことがあります』

『……その人に結界を張って貰い、得体の知れない化け物に会ったら家に逃げ込めと教わった』

『はい。お優しい方でした。貴女のように』

『だから、さっきの私を見ても何も聞かなかったのか』

『その人には知らない振りをしなさいと言われたのですが、貴女は何処かあの人と似た様な空気を感じましたので思わず』


きっと、その時も"その人"は私と同程度の怪我をしたのだろう。手慣れていたのはそのせいだ。だがもしかしたらそれとは敵対する者だと思いはしなかったのだろうか。刀を振り回して巨大な化け物を簡単に倒す力に対して何も思わないのだろうか。誰にも優しいというまるで母親の様な包容力には感心するが、危機管理能力が皆無だというのはどうも頂けない。にっこりとうっかりオトされそうな微笑みを向けても私は譲らないぞ。


『ミツバ。もう少し疑うということを覚えて』

『?どういうことでしょう』

『私がその人と同じ側とは限らない』

『まぁ、怖い』


言葉とは裏腹にずっとニコニコしているミツバを見ていたら真剣に叱ろうとしている自分が滑稽に思えて来た。額に手をやり大きく溜息を吐いたが、困ったような笑いが零れただけで。天然なんだか実は全てを見据えた上でなのか。どちらにせよこの沖田ミツバという人にどうやら"私達"は揃って絆されてしまったらしい。


『今日は熱が出るかもしれませんから私も名前さんのお部屋で寝ますよ』


そう言って再びにっこりと笑った彼女に逆らうことはもう考えなかった。




















でもね、ミツバ。
悲しいことに、貴女は人間で私は死神。
現世と尸魂界、という理が全く異なる世界で生きてきたお互いが本当に理解するのなんてあり得ない。年齢だって十倍あって有り余る。そもそも、我々死神は人間を尸魂界内の魂魄との均衡を保つ魂の入れ物としか考えていない。過不足あれば容赦なく消したり増やす。神とは何とも皮肉な言葉が着いているが、有る意味私達は貴女達人間の命なんて生かすも殺すも自由なのだ。今だって、ほんの少し手を出せばあっさりと死ぬだろう。
人間の寿命は極端に短い。八十年弱なんて一体何をして過ごせば良いのだろうか。卍解も習得出来ずに死ぬだなんて、何が楽しくて生きているのか分からない。そんな短期間を人間は常に走り続けて老いに、死に向かおうとする。脆弱な魂を抱えて。私らから見たらただ滑稽でしかない。何度も言うが、生かすも殺すもこちらの自由なのに。でも人間は忙しなく動く。最期の瞬間まで。

私達はそれを理解出来ない。

どうやったって、相容れない生き物なんだよ。
























「…………何をしてるんですか」


葬式は真選組の屯所内で行われた。幼い頃に両親を亡くした沖田家は親族とは疎遠で、連絡先も知らないと言うことで隊士のみの葬儀にしようと局長の計らいの下だ。それに総悟は黙って頭を下げてお礼を言って、副長は何も言わずに総悟が手に余る葬儀の手伝いをしていた。いつもはいがみ合ってる二人だがこういう所を見ると、お互いのことは一番に分かっているらしいことが良く伺える。ほんの二三日前に大喧嘩をしたらしいが、それも本気でぶつかりあえる二人だからこそだろう。まぁ、その分一件の処理の皺寄せが私と涼に降りかかって来ているのだが。
そんな感じで真選組トップ3が無表情のまま葬儀も終わり、総悟が外部で唯一呼ばれた銀時にお礼を言っているのを遠目に見ながら風呂へと入り、自室前の縁側で一人晩酌をしていた。激動の数日間を過ごして来たので、少し呑みたくなったのだ。ちなみに副長は葬式中ずっと無表情でミツバの遺影を見つめ、葬儀が終わっても仏壇のある大広間から出ようとしない。総悟はそれをじっと見てから大広間を後にした。そのまま屯所の外へ出たようだったが、心配だったので霊圧を追ったところ、何故か真子の霊圧が近くにあったのでその瞬間探索を切った。何かあっても真子がどうにかしてくれるだろう。総悟のことは可愛がってるようだし。

…じゃなくて。
今はこの問題を早めに回避すべきだ。斬魄刀を手元に持って来ていて良かった。態々部屋へ戻る手間が省ける。


「何って、お酌よ。一人で呑むのは寂しいでしょう」

「…いや、そういうことじゃなくって」


にっこりと微笑むその姿はあの時から何も変わらない。加えて、反論しようという意思も削がれるという厄介な所も。
恐らく予想は立っただろうが、私の隣に盆を挟んで何の違和感もなく座り、徳利を傾けているのは沖田ミツバだ。成仏の為と長々と詠まれていたお経は何も役に立たなかったらしい。因果の鎖はまだ余裕がありそうだが、人間でなく整であり現世を彷徨っているのなら死神が魂葬すべき対象である。ていうか彼女は何故私が幽霊見える前提で話し掛けたんだ。いや、きっと天然な彼女はそんなことは考えていない。ただ酌をしたいと思ったからその本能に従ったまでだろう。一つ溜息を吐くと、持っていたお猪口を盆へと置き、斬魄刀へと手を伸ばした。


「弟さんがご心配ですか」

「いいえ」

「古き友人らがご心配ですか」

「いいえ」

「…ならば、昔の想い人がご心配ですか」

「……いいえ」


これは困った。通常、葬式の際に詠まれるお経で未練が余程強くない限りはきちんと成仏に至る。至らなかった魂魄は、現世に未練が強くあるものが殆どで、同時に虚になるのも殆どだ。私の予想ではミツバは上の三つのうちのどれかに未練が該当すると思っていたので直ぐに魂葬が出来るかと思っていたのだが、どれも違うらしい。このままずるずると屯所に居座ってしまっては虚へのきっかけとなる親族もいるしとても困る、と思い眉を潜めた。


「…ミツバさん。貴女には然るべき場所へと行って貰わなければなりません」

「然るべき、場所?」

「ええ。この特殊な刀の柄、正確にはこの下の楕円の部分を貴女の額に当てて、尸魂界という今後の生活場所へと送ります」

「ソウル、ソサエティ…」

「別に不安になる必要も怖がる必要もありません。今迄と同じ様な生活が送れますから」


耳慣れない単語の連続で流石の彼女も表情が変わった。そう呟いたまま目をパチクリさせて、私の手元の斬魄刀に視線を動かしている。説明が悪かっただろうか。彼女をこれで刺すつもりはないのだが勘違いしていそうなので、一先ずそれから手を離して弁明をしようと口を開こうとした。
しかし、それより先にミツバは顔を上げ、再びその顔に笑みを浮かべた。そして、とんでもないことを喋り出した。


「あら、嫌だわ。その説明は前にもしてくれたじゃない」

「…………え、?」

「それに私、怖くないわ。だって、今から名前ちゃんの育った所に行くんだもの」


一体、唐突に何を言い出すのか。
思わず開け放したままになっていた口を慌てて閉じて、何とか言葉を繋げる。


「……何を言ってるんですか、ミツバさん。私は京の生まれで…」

「さん、だなんてよしてちょうだいな。それに敬語も。“前みたいに”呼び捨てでいいのよ」

「…………」

「あら。だんまりしてたってダメよ。もう全部知ってるんだから」


確かに、ミツバの言う通り過去に短期の現世駐在任務を行った際に彼女と接触した。場の流れ上、数日間ミツバの家でお世話にもなった。だが、彼女の家を出る直前に記換神機で記憶を飛ばした。人間が死ぬ前から尸魂界のことを知っていては都合が悪いから。つまり彼女が私のことを覚えている筈はない。


「……どうして分かった。私が“あの時”の死神だって」


なのにミツバはまるでその時のことを全て思い出したかの様に話す。まさか、死ぬと記換神機の記憶は元に戻るのだろうか。そう思って聞いてみたのだが、彼女の答えは予想に反していた。


「昨日ね、親切な方に会ったのよ。しがない駄菓子屋の御店主さんって人に」


ミツバの危篤を知らせてきたのは喜助だ。ともなれば当然彼は病院にいたことになる。私が異様に気を向けるミツバに興味を惹かれて見に行っただけかと思っていたのだが、甘かった。喜助が私の行動を知らないワケがなく。それは死神の時からのことも含まれていて、当然の様にミツバとの接触のことは知っていたのだ。最早熟練ストーカーの域に達している浦原喜助を本気で逮捕しようかと一瞬頭をよぎるが、同時に記憶を戻すしかも"前のモノ"も戻してしまう技術に相変わらずだと呆れと笑いを半分ずつ零した。


「…喜助、か。…記憶戻すって、アホかあいつは…」

「うふふ……ねぇ、名前ちゃん……いえ。名前さん。そーちゃんと、十四郎さんを…真選組のみんなを…よろしくお願いしますね…」

「…それは死神としての私に頼んでるの?それとも副長…十四郎の護衛としての私に?」

「いいえ。私の友達としての貴女に、よ。“名前ちゃん”」

「死神と人間は相容れないと前に教えた筈だけど?」

「それは嘘とも教わったわ」


私は記換神機を起爆させる前にミツバに死神の概念を伝えた。だが、どうやら違ったらしい。"あの人"はそれを伝えた上で更に自論を展開していた。


「………分かったよ、約束する」

「ありがとう、名前ちゃん」


そう言ってふわりと微笑んだミツバに私も微笑むと、斬魄刀を再び手に取った。







































(名前。今日は以前私が現世に行った時のことをお話ししましょう)
(?…虚討伐、しただけじゃないの?)
(いいえ。とても良い人に出会いましてね。少しヘマをしてしまい、治療に手間取っていた私に迷わず声を掛けてきました)
(…ってことは、その人霊圧めっちゃ高かったんだね)
(そうです。そのまま何故か数日間彼女の家でお世話になることになってしまいましてね)
(何故か、って…やたら曖昧な…)
(いえ、どうも彼女は人の話を聞かない習性がありましてね。困っている間にあれよあれよと決まっていました)
(…珍し。氷雨がペースを狂わされるって)
(まぁ、でも可愛いお人でしたよ。名前もいずれ、会えると良いですね)
(……仮に私が死神になるとしても、相当確率低いよ。ソレ)
(そうですねぇ…でも何だか会う様な気がします)
(………まぁ、覚えておくよ)

prev/next

87/129


▼list
▽main
▼Top