×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

相容れないモノ。弍





『…え、…それ本当に名前ちゃん抜きでやるんですか?』


転海屋を闇討ちでしょっぴく話だ。本当は四楓院達を巻き込むつもりはなかった。だけど勘の良いあいつが俺と山崎で何かをしてて気付かないワケがない。だから、敢えて特別監察組で動いたように見せていた。作戦は正にその通りであるし、山崎の盗ってきた情報に嘘偽りはない。ただ、討ち入りの日だけ、偽った。あいつらが予定しているのは実際の翌日だ。それを寸分の疑いもなく信じて頷いた奴らに多少心は痛んだが、四楓院を置いて行くことを最優先とした。

死にかけのミツバの元に。

あの日、ミツバに会うことは全く予定していなかったが予想はしていた。俺らの追っている野郎の嫁があいつだ。その家近辺を警邏していて会わないワケがない。現に同乗していた山崎がちらちらと俺の顔色を伺っていたのがウザかったので一発殴っておいた。だが、まさか俺の顔を見て倒れるなど誰が想像出来るか。咳き込み、苦痛に顔を歪めながら倒れゆくのを呆然と見ながら口だけはミツバと動いたのは何故か覚えている。そして、直後に四楓院が斬魄刀を抜いてあいつの手を握って何かをし始めたのも。同時に鉄裁を呼べ、落ち着いたら頭首を呼んで掛かり付け医を呼ばせろ、と山崎と万事屋に怒鳴っていた。

そして朧げな記憶が多い中、鮮明に頭に残っていたのは、ミツバの顔色だ。
あの時、四楓院はただあいつの手を握っていただけなのに見る見るうちに生気が戻って行くのが分かった。斬魄刀まで抜いていたから奴ら死神の領域で何かをしたのは一目瞭然で。四楓院ならあいつを救ってくれると思った。しかし同時に過去に突き放した女の身を案じるなど、自分の未練の残り具合に自嘲が零れた。一体何をしてるんだ。こんなことをして誰が喜ぶってんだ。…だが、それでも。

『十四郎さん』

生きていて欲しいと思ってしまった。本当の幸せを掴んで欲しいと思ってしまった。自分の部下を、四楓院を便利道具の様に使ってまでも。恐らく事が終わった暁には俺の考えは全てバレるだろう。その時に四楓院はどんな失望の色を浮かべるのか。考えようとしてやめた。仕事へ完全に私情を挟んだ。考えるまでもねぇ。退職するか、最悪殺されるか。死んだら会えるかと一瞬でも考えた俺はどうしようもねぇバカだ。

そして、武器商人のアジトに単身乗り込めると思った数日前の俺も。


「…残念です。ミツバも悲しむでしょう。古い友人を亡くす事になるとは」


最初こそ奴らとは互角、よりやや優勢にあったがやはり数と飛び道具は偉大であって。こちらも幾つかの手榴弾とバズーカ砲で応じてはいたのだが、次第に追い詰められ、終いには足に弾を喰らった。そこから何とか逃げたが、とっくに追いつかれ囲まれた。何だか商人が胸糞悪いことを喋ってやがるが、偽りの幸せを誠だと信じたあいつらの顔が頭をチラつき、半分ぐらいは聞いてなかったと思う。何にでも商売に結び付ける野郎の喋り方はどうにも好きになれない。


「…同じ穴のムジナというやつですかな。鬼の副長とは良く言ったもの。貴方とは気が合いそうだ」

「………そんな、大層な話じゃねぇよ」


気が合うワケがねぇ。そもそも気が合うどうこうの話でもないだろう。自分で言うのもなんだが、今俺が考えていることはそんな大きい話でも複雑な思惑が入り混じっているものでもない。感情だけでは動かない死神にはとてもじゃないが理解出来ないモノだろう。いや、違うか。あいつらは感情も含めた上で迅速に一番に利益がもたらされる選択肢を弾き出す。だが俺にはそんなことは無理だ。今の俺の行動は確実に四楓院には迂闊過ぎると怒鳴られる、単純かつバカな考えのみで成り立っている。


「……俺ァ、ただ……惚れた女にゃ、幸せになって貰いてぇだけだ」


……いや、むしろ。


「…こんな所で刀振り回してる俺にゃ無理な話だが、どっかで普通の野郎と所帯持って普通にガキ産んで普通に生きてって欲しいだけだ。

……ただ、そんだけだ」


俺の自己満でしか成り立っていない。言ってしまえばミツバへの単なる押し付けだ。
現に野郎も俺の考えがわからないとほざいてやがる。そりゃそうだ。俺だって、こんな下らないことを考えている俺でさえ何故、こんなことをしているのか理解し切れてねぇ。動かない足引きずって、生身の人間一人で乗り込んで、今にも殺されそうで、自分のやってることが理解出来てねぇなんざ、なんてクソ野郎だ。


「撃てェェエエエ!!!」


だが、これで良かったのかもしれない。これがあいつに…あいつらに犯してしまった罪に対する罰なのかもしれない。


そう思って、刀を構えた。






…が。





「…風車、第三解放第二節【迷い風】」






降って来る筈の弾丸は音も無く、聞き慣れた声が一言耳に滑り込んで来たと思った時には、囲んでいた浪士達は全てひっくり返っていて。目を見開いた先に見えたのは既に解放された淡い翡翠色の薙刀を手に俺を睨みつけながら近付いて来る、四楓院の姿だった。


























(いつかの逆だ)
(何故か咄嗟にそう思った)

prev/next

85/129


▼list
▽main
▼Top