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約束。参





『あ、後はやるんで』


ゲームの最中、姿の欠片も見せなかった四楓院が浦原と突然現れるとそんなことを言って刀を押し付けて来た。一瞬固まってしまったが、四楓院の方を振り返ってふざけんなと怒鳴ろうとした時にはとんでもない光景が広がっていて。

『いくつ?』

『えっ、と…四十七っス』

『よし。五十二』

瞬き程の間にそこら辺にいた門弟は全て倒れていた。しかも数を数えている余裕があるときた。加えて奴らの手元には木刀がなく、全て素手で倒したのが分かる。
改めて奴らの桁外れの強さに背筋が寒くなった。
その後なんてのは大して興味はなかったが、万事屋の大いなる協力でメガネが大将の皿を割って勝利を収めた。まぁ、危なくなったら四楓院か浦原が手を出していたのだろう。どっちにしろ勝つ戦いだ。だから勝敗には最初から興味はなかった。色恋沙汰になんぞもっと興味はない。誰が夫婦になるだ、実は女だなんだと一家総出で騒ぎ立てる奴らが滑稽に見えるだけだった。


「…の割りにはあの子が銀時さんと会話してる時の貴方の目、恐ろしかったっスよ?」

「何の話だ。というか、お前は一体いつになったら普通に玄関から入って来るんだ」


浦原。
名前を呼びながら、いつの間に隣に座っていたのか男を睨みつければ、困ったようにへらりと笑って扇子の後ろへと顔を埋めた。
深夜も近くなった今、俺は屯所の自室前の縁側に腰掛け、酒を煽っていた。珍しいと恐らく四楓院は目を丸くするのだろうが、あいつは昼間のゴリラと偽ゴリラの結婚式をぶち壊して屯所に帰って来た後、急に疲れたと言って倒れ込む様に寝た。風邪でも引いたのかと四楓院を布団へ押し込みながら額を触ったが、熱くもなく、単に疲れただけかと特に気にはしなかった。ちなみに寝る直前、うわ言の様に屯所を出るなら声を掛けろと言ってはいたが、残念ながら俺も今日はそんな体力はない。なんだかくだらない遊びに付き合わされて疲れた。きっと四楓院も同じなのだろう。
そして問題はこの男だ。何故このタイミングで来る。こんな胡散臭い男に酌をしろと頼んだ覚えはない。


「我々にとって玄関はあってない様なモノですからねぇ」

「残念だな。ここは現世だ。尸魂界じゃねぇ。順応しろ」

「…そうやって名前さんにも考えを押し付けてるんスか?」

「……は?」


一体、急に何を言い出すのか。
再び不法侵入をして来た男に腹は立ったが、酒が入っている所為か大して苛立ちは持続せずに満月をのんびりと眺めていた俺は思わず浦原を見た。その顔は真剣で、単なるヤツの言葉遊びで無いことが分かる。
が。直後、ヤツの口から出て来た言葉に思わず怒鳴ってしまった。


「…は、冗談として」

「お前ら本当に親子じゃねぇのかよ!?」


以前、浦原が突然現れた時は俺が知りたかった、知り得なかったことを伝えに来た。まるで俺の心を読んだかの様な浦原に正直気味が悪いと思ったが、得た情報の大きさの方が強く、案外好印象で終わった一件だったと記憶している。あの時は四楓院の動きが謎過ぎてその釈明に現れた形だったが、今回は特に何もなかった筈だ。なのに、急に責められる様な口調になり若干焦っていた所でまさかの冗談発言。つい二日前にも同じことをやられたのが見事に蘇り、手まで出てしまった。目が痛いだ鼻はどこだとほざいているが知ったこっちゃねぇ。俺の緊張を返せってんだ。


「…親父にも殴られたことないのに…」

「嘘つけ、ボケ」

「土方さん、暴言が凄いっス」


心が痛い、と言って泣く真似をする奴を鼻で笑い徳利に手を伸ばす。だが、その手を急に掴まれた。ふざけるな放せ。野郎と手を繋ぐ趣味はねぇとばかりに浦原を睨もうとしたが、僅かに眉根を寄せるだけに留まった。
ヤツの顔が俺を見ていなかったからだ。
その視線の先を追って首を捻って益々眉根が寄った。浦原の目線の先は四楓院の部屋で。だが、次の瞬間に起きたことが理解が出来ずにワンテンポ遅れてしまった。


「【縛道の六十二 百歩欄干】」


急に手が離れたと思ったらヤツの口からそんな言葉が聞こえた。そして同時に左右の手を合わせ、それを横に目一杯に開いた所に現れた光る槍の様なモノを投げ様とした時、思わず刀の柄へ手が伸びていた。浦原の視線は変わらず名前の部屋。そこを見据えて構えて他に何処へ投げると言うのか。こいつらが鬼道と呼ぶモノの種類やら攻撃の具合等まだ殆ど分からないが、数字が上がるにつれて威力が上がるということは分かっている。今浦原の口から出て来たのは聞き間違いでなければ62。99まであるらしいそれは上位ではないにしても半分は超えている。結構な威力ではないか。
だが案の定と言って良いのか、刀を半分程抜いた所でそれは止められ、その時には名前の部屋へ光る棒の様な鬼道がいくつも突き刺さった後で。堪らず俺は叫んでいた。


「オイ浦原!!テメェ、何してんだ!」

「…今日、何故名前さんが倒れ込む様に眠ったか、ご存知ですか?」

「知るかよ!そもそもテメェはその対処かなんかをしに来たんじゃねぇのか!?」

「御名答。流石っス」

「…ふざけてんのか!?お前、あいつに何して…!」

「無理にあの子に踏み込もうとしないのも流石だ」


その言葉を聞いた時には俺の視界から浦原が消えていた。一体何がどうなっているのか。一瞬さっぱり理解が出来なかったが、次の瞬間に広がった視界と浮遊感に無意識に後ろを振り向くと、珍しい顔が見えた。


「よ、夜一…?」

「他に誰に見える」

「い、いや…悪い」


同じ四楓院という苗字であるから親族であることに違いはない。風貌から姉かと思ったが、俺が四楓院を死神だと知る前に夜一を"おかあさん"と呼んでいたのを聞いて驚いたことは未だに覚えている。その昔、養子に取ったらしいがどうりで最初に苗字で呼んだ時に反応が薄かったワケだと納得したのはつい一ヶ月前。そして俺は浦原に比べて夜一との接触は殆どない。だから、こうして会った時にどう反応して良いか分からない。今だって、いつからいたのか、何の為にいたのかなどまるで分からな…


「じゃねぇよ!オイ夜一!浦原が名前を、」

「落ち着け土方。見れば分かるじゃろ。アレは名前の為じゃ」


何言ってんだ。
そう聞きたかった俺の言葉は直前で喉の奥へと消え、死神でもないので空に浮くことは出来ない俺は、無様にも夜一の脇に抱えられながら茫然と口を開けてしまった。


「…アレは、誰だ、?」


浦原が鬼道を投げ、突っ込んで行ったのは確かに名前の部屋だ。俺もあいつしか部屋にいないことは確認している。だが、今襖が蹴破られた音と共に飛び出して来た二人を見て目を疑った。一人は浦原だ。若干焦った様な顔をしてはいるが片手で帽子を抑え、刀を構える様は間違いなく浦原だ。そして、もう一人は雪の様に真っ白な髪をした女だった。名前の髪色は若干茶色みがかった黒だった筈だ。だが、顔は名前で。その視線の先には刀を構えた浦原がいるのだろうが虚ろなあいつの目は何も映していなかった。


「…やはり影響はあったのか」


俺が驚いている中、ふと夜一の口から零れた言葉。その意味が分からず見上げると、一瞬俺の方をチラリと見た夜一は再び視線を下へと戻しながら叫んだ。


「喜助!何を躊躇っておる!早く"うって"しまえ!」

「…分かってるっスよ」


うつ、だと?打、撃、討、射?一体どの字が当てはまるんだ。
そんな疑問は浦原が懐から取り出したあまり見慣れない形の注射器で直ぐに解決された。大きさは恐らく一般的なのだろうが、形が何処か中世の欧米を思わせるモノだ。あれをどうやって何処に刺すってんだ。
そして、夜一の忠告通りに右手に刀、左手に注射器を持って。あいつと距離を縮めて瞬歩をした浦原の左腕が向かった先は名前の心臓だった。


「…は?」


いや。ちょっと待て。
先程からこいつらの行動が予想外過ぎて俺の思考は限界寸前だ。それらが起こる度に目を口をただただ開けるという無様なリアクションしか取れない。冷静に考えれば全て人間ではなし得ないことなのだから理解がついて行かないのは当たり前なのだろうが、今3:1で死神:人間がいるこの空間では逆に俺の方が異端なのかもしれない。
だが、今のはあり得ないと判断して良いだろう。生きてる人の心臓に何かを刺して、無事なものか。しかも医師でもない奴が服の上から大体の位置で刺して、死なないという確信が出来るだろうか。ていうかそもそもアレは心臓を狙っていたのか?もしかしたら別の場所に打とうとして間違えたんじゃないのか?
漸くその思考に追いついた俺は夜一に怒鳴ろうとやや上を見上げようとした。
が、そこでまたあり得ないことが起きた。


「…髪色が…」


名前の真っ白だった髪が徐々に元の色へと変わっていた。夜一の殺気立った空気がここで収まり、同時に成功かと呟いたことでさっきの浦原の行動は間違えていなかったことが分かる。


「喜助」

「あ、大丈夫っス」


そんな会話が終わった時には俺の足は地面に着いていて。何の前触れもなく離された俺は若干よろめきながら態勢を整えると、前を見た。


「…オイ。説明はあるんだろうな」


顔を上げると名前を肩に担ぎ上げた浦原と何処から出したのか真っ白な刀を持っている夜一と目が合って。そう言って睨めば浦原が口を開いた。


「いえ。出来ません」

「…ふざけんなよ。こんだけ見せておいて説明は出来ませんだ?だったら最初から、っ!?」


急に手を広げて顔の前に突き出され言葉が止まったが、同時に何故か眠気に襲われた。まさか鬼道の類かと頭を過ぎった時にはもう遅く、堪らず膝を着く。

『私達は、悪い癖があるんです。都合が悪くなったら相手の記憶を操作するという悪い癖が』

少し前に#mame#が笑って言っていた事がまさか現実になるとは。何故だか山崎がバツの悪そうな顔をしていたのが印象的だった。恐らくやられたことがあるのだろう。


「出来ないんスよ、土方さん。こればっかりは」


落ちそうな瞼を必死に開けて頭を上げれば申し訳なさそうな顔をして浦原がそう言って来た。そんな顔すんなら最初から記憶飛ばせばいいじゃねぇか。そう呟けたのかどうか。はっきりとは分からなかったが、直後、浦原が呟いた言葉を最後に俺の意識も記憶も綺麗に飛んだ。









「我々の逃亡理由は自分の口から、という約束なんでね」

























(約束って言葉は簡単に使っていい言葉じゃない)
(柳生家からの帰りにそう呟いた名前の顔は何処か哀しそうだった)

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