約束。弍





「んー…じゃあ、此処かな」

「何でだよ。何で目なんだよ、しかも俺の」

「ハンムラビ法典」

「目には、ってか?そんなおっかない戒律に入った覚えはねぇぞ」


休暇だった私と副長、サボりの総悟、それに偶々柳生家の門で会った銀時と神楽も加わってたった30人程の雑魚に苦戦していた局長と新八に加勢。そして妙奪還作戦とは名ばかりの、所謂殴り込みということをやらかした私達は今柳生家が指定して来たゲームの真っ最中だ。何やら醤油皿ぐらいの小皿を体の一部に固定し、それを割られないように相手の皿を割る、柳生家に伝わる伝統修行法らしいが、何故誰もツッコまない。私ならそんな恥ずかしい修行はしたくない。柳生久兵衛のお澄まし台詞で流してしまったのか、それを聞いた彼らの反応は喧嘩上等だった。どこのヤンキーだ、お前らは。


「…お前、どこに着けようとしてんだよ」

「どこって、見れば分かるでしょ」


そしてやはりチームワークとは無縁のこのメンバーは好き勝手動き回り、副長も神楽の皿を変えに行ってしまったので私はなんか面白そうだなと銀時にくっついて行った訳だ。さっき上空から確認した限り、神楽と総悟と副長は四天王の三人と交戦、新八と局長は歩いて大将捜しをしていたので必然的にうちらは細目と九兵衛を捜すことになる。
ちなみに冒頭からの会話で分かると思うが、私は皿を着ける位置に困っていて漸くそれを決めた。場所は背中。心臓の真裏だ。


「いくらお前でもな、万一ってことがあんだろ」

「ないない」

「なんかムカつくんだけど。その自信」


ホントに死んじまえと文句を垂れながらも私の皿着けを手伝ってくれる銀時に笑いが零れる。銀時は胸に着けようとしていたので、頭に着けてやろうとしたがやめろと殴られた。痛かった。


「…なぁ」

「なに」

「柳生のガキが言ってた台詞覚えてっか?」


片手で頭を摩り、もう片方の手で浴衣の裾を整えてると不意に銀時がそんなことを言ってきて下を向いたまま思わず眉を潜めた。


「範囲が広すぎる」

「分かってんだろ」


彼の顔を睨む様に見上げると、銀時と目が合う。そんな彼の目がいつも通りのやる気のない目ではない事に、面倒だなと思いながら諦めたように口を開いた。


「七人」

「そうだ。あいつは最初確かに七人と言っていた。だが、あそこにいたのは四天王とガキで五人」

「大将は屋敷の中と言っていたから、それで六人」

「残りは誰だ?」


確かに言われてみれば残りの1人の情報はあの時貰わなかった。だが、有利になると思われる情報は小出しにせず自慢げに広げるという彼らの性質から、残りは人数合わせかと思って大して気にしていなかった。しかし、銀時は引っかかったようだ。ここで紹介する程強くない奴だったんだろうと彼を一蹴することも出来るが、銀時の勘と読みの鋭さは喜助を彷彿とさせる時がある。下手に無下にすることは出来ないと思い留まって立ち止まると、彼も足を止めた。


「何故、残りが気になる」

「なんで気になんねぇ。お前、自分が何なのか忘れたか?」

「…霊圧で探せ、と言いたいのか」

「違うだろ」

「…どういう意味」

「しらばっくれんな。お前、一回霊圧で捜したろ。でも見つかったのは六人のみ。残り一人は見つからなかったが、探せない程薄い霊圧だから取るに足らない奴だ、と判断して完全に相手にしなかった。だから、七人目の存在はお前の意識から消した」


相変わらず意表を突く読みだ。
確認するのではなく確信して言ってくることに、感心するというより最早腹が立ってくるレベルである。


「御名答、とでも言えば満足?」

「違ェよ。さっきの俺の質問忘れたか」

「お前、何だ?」

「バカ、戻り過ぎだ。さっきったってどこまで戻ってんだ」

「銀と最初に会った時だから…十二ヶ月ぐらい前?」

「お前と漫才するつもりはねぇぞ」

「ハイハイ。では可哀想に完全にスルーされてる七人目の話に戻しましょうか」


そう言って再び歩みを進めると銀時も着いて来た。


「その霊圧で見つからなかったってのと、私の切り捨て方はアンタの言った通り」

「その先、があるんだな」

「そう。ウチらは霊圧で位置を確認出来るけど、敵地にいる時にも察知されたら大変でしょ?だから人間の言う'気配を消す'ということと同じ事が出来る」

「…霊圧が消せる」

「御名答って言ってあげたいけど厳密には違う。鬼道で上手に霊圧を練り込んで姿を消す。区分は縛道で名は曲光」

「完璧に消せんのか、それ」

「鬼道に精通した人ならね。ハッチとか鉄裁とか。だけど正直、隊長クラスでも難しいと言われてるよ」


巨大過ぎる霊圧がその所以だ。
技術はあるが世間一般に作られた鬼道が尸魂界のほんの一握りに値する死神に合う方がどうにかしている。ならば霊圧が弱い死神なら可能かと言えば一概にそうとは言えず、やり方を知っても技術がついて行かないのと練り込むという行為に霊圧の潜在量が少な過ぎて、術は発動しない。
だが、銀時は私らがそのほんの一握りの更に一握りに入るだろうという事が分かったのだろう。霊圧が巨大でも見事隠し切る事が出来る、という事が。
だったら、と言って銀時は再び足を止めると私を見た。


「…その七人目、考えられねぇか?か…っ!##NAME1##!!」


か、と言いかけた銀時の目が途中で急に見開かれたかと思ったら突然名前を呼ばれた。だがその時にはもう遅く、凄い衝撃が背後から来て、次の瞬間には私の視界から銀時は消えて竹林が目一杯に広がった。

…であろう光景を私は少し離れた場所から見ていた。銀時も一緒に。その後、突然現れた刺客に無残にも斬り伏せられ、銀時も同様に斬られた所でソレは二枚の紙に変わった。


「…【隠密歩法四楓の参 空蝉】。随分と上手くなりましたねェ〜」


紙になった所でそこからの霊圧は消失。目を一瞬パチクリとさせてから刀を下ろすと参ったなという演技をしながら、私達のいる方に向き直って声を飛ばしてきた。
ていうかさっきら何やねんその下手くそな演技は。見てて吐き気がしてくるわ。


「演技が随分と上手くなりましたねェー」

「真逆のことを考えてたっスよね?」


足音が向かって来る音を聞いて、ちょっと速過ぎた移動に呆然としていた銀時の襟を引っつかんで立たせると、木刀を捨てて腰の斬魄刀を抜いた。その独特の金属音に銀時がはっとした様に我に返って私を見た。


「…さてと。聞きたいことはいっぱいあるんだけど」

「そんなにないでしょう。ご自分で殆ど予想は立ってる筈だ」

「殆ど、ね」

「嫌な言い方だ。一体誰に教わったんスか?」

「…貴方に決まってるでしょう」


喜助。
そう言って刀を向けると、刺客ー浦原喜助はニヤリと笑って帽子を放った。ああ、面倒だ。彼が帽子を脱ぐ時はチャンバラに本気を出すと暗に言われた様なもんだ。死覇装で来ていたのは不幸中の幸いか。


「…オイ、名前」

「聞かなくてもあんたも分かってるでしょう。神様が七人目だって。実際言いかけてた」

「そうだが…まさか真剣でやるのか」

「残念ながら、そのまさからしいよ。喜助、珍しくやる気満々だし」


喜助は殺気の飛ばし方が上手い。私には息が詰まりそうな程の殺気が向かって来るのだが、銀時には一切向いていない。だから、不思議に思っているのだろう。私が刀を抜いたことに。


「銀時さん。僕は貴方とやる気はないんス」

「…だったらなんだ。どけってか?」

「分かってるじゃないっスか。だったら」


ご退席、願いましょうかね。
その瞬間、私は銀時に空間転移の鬼道をかけて飛ばした。場所は厠近くだ。いくつか見知った霊圧があったからまぁ、敵陣に放り込んだ訳ではない。許せ、銀時。それより、此処に残した方が危なかった。


「…禁忌の鬼道を使うとはイケナイ子っスね」

「人間にそんな霊圧を向けた死神が言えることか」

「じゃないと本気でやれないじゃないっスか」

「こんなお遊びに本気を出すの?」

「だって、お好きでしょう?死神として暴れるのは」


『だって好きだろ?好き勝手暴れられる場所は』


デジャヴか。
だが、喜助が副長との会話を盗聴していたかどうかなんてよりも、つい数年前迄は日課であった"戯れ"のお誘いの方に思わずニヤリと笑ってしまった。

お互い皿を首の後ろに縛り直して斬魄刀を構える。
そして、一つ息を吐くと同時に口を開いた。









「【起きろ 紅姫】」

「【遊べ 風車】」





暫くは戻れそうにない。





























(職務放棄)

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