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巷でウワサのアレ。





「…何か…嫌な感じがするネ」


そう言って少女は口にくわえていた酢昆布を飲み込んだ。
歌舞伎町にある馴染みの駄菓子屋で酢昆布を買った少女は、近道をするために人気の少ない道を歩いていた。


「…銀ちゃんがストパーになったのとは違った嫌な感じネ」


そう例えられても、どんな感じなのかは全くわからないが少女の進む道には、不気味な感じが漂っている。


「……まるで、新八の顔にメガネが乗ってる時の感覚アルよ」


いや、それって寧ろ普通なんじゃ……という文句はさて置き、まぁ、良くわからない不気味な感じだということで話を進めたい。
時刻はもうすぐ午後3時という頃。
今日は雲一つない快晴だ。しかし、今少女がいる路地はそれを感じさせないようなひんやりとした空気が漂っている。


「………」


少女は無言のままゴクリと唾を飲み込むと、持っていた紫色の傘を握り締め足を進める。
すると。
突如少女の後ろで何かが落ちたような凄まじい音が響き渡った。


「な……」


その音と同時にその物体を見ようと十分に素早く距離を取りながら後ろを振り返る。が。地面が大きく凹んでいるだけでそこには何もいない。


「どこいったネ…」


少女に逃げるという選択肢はないらしく、その場で立ち止まりながら左右を見渡す。そして後ろを振り返った瞬間、


「!!…な、何で……」


なんと、その振り返った後ろからではなく少女の“前”から攻撃が来た。
そう、何もいない筈の場所から。
その拍子に吹き飛ばされて出血もしているのだが、有り得ない場所からの攻撃に混乱し痛みより驚きが勝っているようだ。怪我もそっちのけで目の前を凝視している。見えない敵の方を。


「…何かいるネ…何か、透明な《化け物》が…」


そう呟きながら構える少女の額を一筋の汗が伝う。幸い、その《化け物》は重さがだいぶあるようで地面の凹みで居場所が解る。少女もそれに気付いたらしい。ひたすら地面だけを凝視して傘を構える。そして、地面がひときわ凹んだのを目に捉えた瞬間、少女は傘を振りかぶり一気に跳躍をした。


「ホアチャーー!!」


狙いを定め…というか今までの戦歴から、あの《化け物》の重さと足の力の入れ具合を見て大体の居場所の予想をつけ思いっきり傘を振り下ろした。
…なんというか、素晴らしき闘いの勘。見事、少女は見えない《化け物》を地面に叩き付けた。
が、しかし。世の中そんなに上手くはいかない。今の少女の攻撃で完全に激高した《化け物》は素早く反撃に出た。


「…ぐっ……」


どこから来るかわからない攻撃。そんなのを避けられる筈もなく、再び吹き飛ばされる少女。次の攻撃が来るのを地面の凹みと音で理解した少女は逃げようとするも、吹き飛ばされた衝撃ですぐに起き上がれない。


「ぎ、銀ちゃ…」


最早、なすすべもなくそう呟いて目をギュッと瞑った。……そんな時だった。



「喜助ェ!その子はお願い!」

「りょーかい」


不意に聞こえた会話と同時に浮き上がる自分の体。


「な、何アルか!?」


突然のことに驚いて自分を抱えている男を見上げようとすると、離れた地面に下ろされた。



「落ち着いて下サイ。アタシらは怪しい者じゃありません。貴女を助けに来たんス」


地面に座り込んでいる…いや、座り込まされた少女はしゃがみ込みながら自分と目線を合わせてそう言って来る男を、ただ呆然と見詰めている。すると、刀を鞘に収めながらもう一人の女が近寄って来た。


「喜助、そんなに顔を近づけるな。その子不気味がってんじゃん」

「嫌だなぁ〜人聞きの悪いこと言わないで下さいよ」


その会話を聞いて少女は、はっとしたように口を開いた。


「ば、化け物が…そこにいるアル!!いきなり物凄い音がして…アタシに向かって来たネ!!早く逃げないとお姉さんも…」

「お嬢ちゃん。その《化け物》ならもういないよ。あたしが倒した」

「え…?」


そう言われて見てみれば先程の嫌な雰囲気は一切なく、平凡な路地に戻っていた。


「怖い思いさせちゃったみたいでゴメンね。でももう、」

「す…凄いアル!!あの透明な化け物、お姉さん倒したアルか!?」


女は申し訳ないような顔をして少女の前にしゃがみ込んだのだが、逆に少女は彼女の手を思い切り掴み目をキラキラさせて聞いて来た。


「え?う、うん。そうだけど…」


突然の変わりように驚かされた女は目を丸くして少女を見る。そしてそのまま少女はもう一度二人を驚かせてくれた。


「アタシは神楽!!助けてくれたお礼ネ!!二人とも、ウチ来るヨロシ!!」




「「……へ?」」

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