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お粗末な頭。





『名前さん?こんな所に呼び出しってどうした、っと、わっ!』

『涼、ちょっと肩貸して』

『え?…ぇえ!?ていうかフラフラじゃないですか!?肩、じゃなくて乗って下さい!』


という会話をして数時間後。医務室の一番奥のベッドで目が覚めると、何故か副長がいた。


「あら、取り調べは終わったんですか?」

「……今度は、間違えなかったな」

「…え?…ああ、あの時は何故か十四郎と間違えましたからね」


窓から見える空は真っ暗。時間帯は既に夜だ。昼間の誘拐人質事件はとっくに解決を迎え、取り調べもすっかりひと段落ついたというところか。基本的に浪士達の取り調べを行う副長がここにいるということは恐らくそういうことだろう。或いは総悟に任せたか。


「ご苦労だったな、誘拐事件の方は。アジトの方に五、六番隊を向けたのはお前だろ?」

「ええ、どうせなら検挙してしまった方が良いと思いましてね」


起き上がって正面の壁にある時計を見れば8時を指している。結構寝てしまったらしい。枕元に置いてあった隊服の上着に手を伸ばし、内ポケットから小さい漆塗りの箱を取り出すと、その蓋を開けた。


「…なんだ、それは」

「解熱剤です」

「は?お前熱あんのか?」

「多分、人間から見れば」


と言えばおでこに冷たい物が当たった。なんだと思えば副長の手で、自分の額と比べて驚いたような顔をしている。


「お前、コレ多分なんてレベルじゃねぇぞ」

「そうなんですか?でもまぁ、これ飲めば大抵治りますから大丈夫です」

「そう言ってなんでベッドから出ようとしてんだ。寝てろバカ」


コレは喜助から貰った薬小箱だ。科学者だというだけあってこういう類のこともやらせれば右に出る者はいない。これにはある程度の種類の解毒薬と普通の風邪薬、それに解熱剤や鎮痛剤など色々入っている。大抵はこの中の薬で対処出来る。さっきあの男から貰った毒がどんなモノか分からないが、取り敢えず発熱性の毒に効くと言われている解毒薬を口に放り込んだ。ちなみに効果は数秒後。だから、もう大丈夫だろうとベッドから出ようとしたのだが、副長に止められた。


「なんでですか。この薬は喜助に貰ったものですよ」

「だからなんだ。すぐ治るってか?」

「御名答っス」

「なに浦原っぽく言ってんだ。んなこと言ったって、治らねぇだろ」

「あら、もう下がりましたよ?触ってみて下さい」

「そんなんで下がったら医者は苦労しね………は?」

「ほら。言った通りでしょう?」


驚いている副長の腕をするりと抜け、ジャケットを羽織ると立て掛けてあった斬魄刀を手に取った。
それにしても涼は本当に良い子だ。彼におぶられて此処に来るまでの間に副長が言ったように私は五六番隊をアジトへ向かわせた。それが終わってから、診せなくて良いからベッドで放っておくようにと彼に言ったのだ。医者には単なる寝不足だとでも言っといてと言って。最初は渋っていたのでなんとも微妙だったが、その言いつけ通り医者には上手く言ってくれたみたいで、更にはジャケットと刀をきちんと整えて置いてくれた。そういう、人の踏み込んではいけない領域を弁えた上でフォローもするところが総悟が気に入っている部分なのだろう。
その点、副長はダメだ。自分の納得する理由がないと中々諦めてくれないので、こうして虚を突くしか方法がない。


「…オイ」

「なんでしょうか」


それでもこうすれば不満気な顔をしながらも諦めてくれるようになったのは進歩かと思う。溜息を吐いて立ち上がったと思ったのだが、病室の出口へ向かう足は急に止まり。少し後ろを歩いていた私もやや遅れて足を止めたら、そう呼び掛けられた。その声は嫌にゆっくりとして且つ低く、厄介な展開になりそうだと眉を潜めた。


「矢高に何を聞き出した」


…何故バレた。
矢高とはさっき私が半拷問をしていた男のことだ。涼ではない。彼にはキツく口止めをしてあるし、とぼけ方が上手いから絶対にバレない。何より矢高の牢屋は暗証番号制度であって、その番号を知る私と副長しか入れない。なので、その牢屋に近付こうとする輩はまずいない。それに矢高からは捕らえた当日から数日に渡って聴取をしたので、聴くことはもうなく、後は刑務所への収監を待つのみだ。と、副長は認識している筈だと私は思っていたのだが。
何故、彼は私が奴の牢屋へ行ったと思うに至ったのだろうか。


「何を仰いますか。私は一日自分の部屋と涼の部屋を行き来していただけですが」

「状況的にアジトかと思ったんだが、お前と山崎がいて掴んでない訳がねェよな」

「涼に確認をお取りになって下さい」

「人質連れて立て籠もってた場所…は別に知らなくたって向こうからアクション起こしてくれたからなァ」

「何なら、退にも。私は突入の指示をする前もしてからも、そんな暇は御座いませんでした」

「奴は何処か別の一派にでも属してたか」

「副長。いい加減にして下さい。謂れのない理由で殺気を飛ばされる意味が分かりません」


何なんだ。まさかあの部屋に監視カメラでもあったというのか。流石に副長が私に無断でそんなことをする訳がないと思って油断していたのだが、このまるで的確に答えに近付こうとしている様子からそれもなくはない。
だが、私が聞き出したことは、真選組には関係のないことだ。いや、関係はあるが、今の真選組にはいらない情報だ。私の、逃亡組に必要な情報で、喜助に確認をお願いされたモノだった。
しかし、参った。病室の入り口へ背を預けて腕を組み、私を見る彼の瞳孔は開いている。完全に問い詰める姿勢だ。


「シラを切るか」

「シラも何も。貴方に隠していることは何一つ御座いませんが」

「名前」

「……なんでしょうか」


ちょっと、驚いた。
彼は私のことを名字でしか呼ばない。養子に入ったというのもあるが、四大貴族の者を名字で呼び捨てにする人はそうそういなかったので、慣れるのに少し苦労した。四楓院なんて呼びにくいだろうに。なんでこの人は名字にこだわるのか良く分からなかったが、まぁいっかと放っておいた。が、ここでまさかの名前呼び。しかもこの状況下で。ホント、良く分からない。


「話せないか」


だから、話すことは何もない。
と、言おうと思ったのだが思わず口を噤んだ。




自分の腹を刀が貫いているのを見て。




「…ふ、副ちょ…う……」




あり得ない。
私は彼をずっと見ていた筈なのに、どうやって刀を抜きどうやって刀を刺したのかが全く認識出来なかった。それより何より、彼が私を刺すという行為が信じられなかった。しかも怪しげに微笑みながら。



「なら。死ね」




だが無残にも。
その言葉と同時に、腹に突き刺さった刀は容赦なく横に引かれた。

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