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巷でウワサのアレ。





「副長、おはようござ………います」

「よお、四楓院。漸く起きたか。早く飯行って来い。お前には覚えて貰わなきゃいけねぇことが山程ある」


皆さん、おはようございます。
昨日、晴れて真選組副長護衛兼補佐という役職に着きました。あ、晴れてだからね?そりゃあ、もう副長なんか刀抜いて暴れ回るほど祝福してくれて……って、取り敢えず今はその話は置いておこう。それより先に私が今確認すべき状況が2つある。

一つは、私の足元に転がって来たフライパンを平たくした様な形のモノは何なのかということ。いや、フライパンというより楕円形の手鏡だ。それをかなり大きくして、更にその鏡の部分には格子状の網が張ってある。名前は確か…ミント、バト、いや、バドミン?あーなんかどうでもいいや。そしてもう一つは、爽やかに朝の挨拶をして来た副長の足元に転がる黒い物体は何なのかということだ。


「副長、取り敢えずその物体を此方に寄越して下さい」

「あ?欲しいのか、こんなモノが」


そう言って蹴り出された黒いモノ。多分、数十分前迄は人間と呼ばれていたものだと思う。




















―巷でウワサの“アレ”―



























「た、助かりました!」

「いえいえ。流石にあんなの見たら見過ごす訳には行きませんので」


所変わって名前の部屋。ゴミを受け取った私は肩に担いで自室へと逆戻りした。ゴミだの物体だの散々言われたそれは、監察の山崎退で、喜助に要注意人物だと言われた人間だった。ちなみに山崎の打たれ強さは正直私も引いた。水差しに入っている水をコップ一杯ぶっかけただけで、蘇ったからだ。今度からはコックローチと心を込めて呼ばせて頂こう。


…『えーっと……あとは監察の山崎さんっスね。彼はバトミントンが大好きらしいっスよ』

『……は?』

『あ、後。カバディも』

『………』

『…でも、彼は監察としては物凄く優秀っス』

『珍しいね。喜助がそこまで言うなんて』

『まぁ、情報収集の能力は僕に匹敵しますからね。間違いなく彼は優しゅ……め、目が痛い…』

『当然でしょ。痛くしたんだから』


喜助の自慢はさて置き、彼の見解としては山崎もそれなりに“デキる”ということ。山崎が喜助に匹敵するのはまずあり得ないし、彼もそれを良く分かっている筈だ。なのに、そう言ったということは、注意しろと暗に私に伝えている。少しでも不審な動きをしたら、徹底的に調べられるということだろう。恐らく、敵味方関係なく。だから、山崎に取り入っても仕方のないことなのだが、まぁやらないに越したことはないと救いの手を差し伸べた。他意ありまくりの救済だ。


「それにしても、何故あんなことに?」

「目覚めの体操にミントンを取り入れてるんですよ、俺」

「……はァ…」

「でも、昨日、一昨日と仕事で徹夜で、出来なくて…いつもなら副長の気配に気付く前にはやめるんですけど、久々にやったら嬉しくてどうにもノリ過ぎてしまって……」

「それで副長の気配に気付かず、叩きのめされた、と」

「恥ずかしながら……」


馬鹿だ。正真正銘の馬鹿がここにいる。
何だか警戒するのが馬鹿らしくなって来た。思わず呆れとも困惑とも取れる笑いを零してしまった。


「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。俺は山崎退です。副長補佐という貴女にはお伝えしますが、一応、副長直属の部下という位置にいます監察です」

「ご丁寧にありがとうございます。私は昨日付けで副局長護衛兼補佐に就きました、四楓院名前と申します。恐らくご存知とは思いますが、」

「ええ、噂は兼ねがね。特別枠で入られたのなら、実力には申し分ないと副長が仰ってました。副長は剣の腕も立ち、自らも戦場に突っ込んで行く人です。それを護り切るには俺らには難しい。真選組はあの人を中心に回ってると言って過言ではない。是非ともあの人を、出来るだけ長く生かして欲しい。あの人無くして、真選組は成り立たない」


ああ、コレは。
十分前にはボコボコにされていたのをもう忘れているのだろうか。山崎の副長崇拝がここまでとは思っていなかった。だが、この言い方には私への信頼をお願いしている様に見えて。疑うと言うことは思ってはいないのだろうか。
いつの間にか真剣な空気が流れてしまった部屋に、見回りへ向かう隊士の声が嫌に遠くに聞こえる。


「……分かりました。そこまで仰る方なら、御守りしてみせましょう」

「あ、ありがとうございます!」

「ですが。副長が貴方の仰る様な方ではない、と判断した場合、遠慮なく抜かせて頂きます。私も命をかける身。捨てられるかどうかは此方で見極めさせて貰う」


これは、賭けだ。
今の言葉は恐らく副長の耳にも入る。敵視されれば二十四時間監視の目があると思って間違いはない。だが、緩い組織は存続しない。私が此処の組織に来たのは、日本の情勢をいち早く手に入れられ、且つ刀を引っさげられるからだ。すぐ潰れるような組織では困る。
山崎は私の言葉に警戒を示したが、直ぐにそれはなくなり穏やかな表情を浮かべた。


「当然ですね。貴女も命をかけるのですから。俺の考えを押し付けてしまって、申し訳ない」

「いえ。貴方が如何に副長を慕っておられるかが分かりました」


頭の回転も早く、考えが柔軟だ。これは喜助が高評価を付ける意味が分かる。
さてと俺はこれで失礼しますねと立ち上がった彼は障子へと手を伸ばしたが、不意に手を止めてそう言えばと言った。


「何でしょう」

「四楓院。この名字は偽名ですよね」


一瞬の間に何通りかの殺し方を考えてしまったが、刀に手を伸ばさなかったことを褒めて欲しい。
当の本人は私が一瞬止まっている間にじゃあまたと言って出て行ってしまった。


「……喜助が言うだけあるわ」


難儀なヤツや。
そう呟いて苦笑すると、副長の朝食を催促する声が聞こえた。

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