×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

死神だそうだ。





「…話した?」

「うん」

「全部?」

「自分が死神であるということと、それに付随して生じるであろう疑問を解決できる程度には」

「もっと簡潔に言え」

「つまり、尸魂界でのいざこざ以外は話したってこと。退と同じ」

「最初からそう言えねぇのか、お前らは」


定例会での大騒ぎから数日後。浦原邸にて鉄裁とハッチの診療を受けに来た銀時と縁側で和菓子を食べながら何ともなしに話をしていた。ちなみに定例会の一件は私の予想を遥かに超えた形で収まった。


『なんだ。そういうことだったのか』

『…どういう、』

『いやぁ、名前さ。お前あまりにも戦闘センスがずば抜けてるけど、特に経歴とか言ってくれなかったじゃねぇか』

『まぁ、どう言えばいいか分からなかったし…』

『な?だから、正直得体が知れないって言って何となく気味が悪かったんだよ、ぶっちゃけ』

『そりゃ、まぁ、ぶっちゃけてくれたこと』

『でも今分かった。そりゃあ何百年も戦闘訓練を積んだんだったら納得が行く。それに、死後の世界があるなら俺たちは救われる』

『…どういう意味?』

『死んで行った仲間達とずっと思いが繋がっていられる』


これを隊士達に話すと総悟と副長が言った時私は多少渋った顔をした。だって、今まで違和感を覚えていた彼らだからこそなんとか納得してくれたが、他の隊士は果たして納得してくれるのだろうかという懸念があったからだ。しかし、二人はそんなのは杞憂だと言っていた。それが、この時右之助の言葉で分かった。何故あそこまで断定出来たのか。二人も少なからず仲間を殉職で失っているのだ。その人達がまだ別の世界で生きている。それが彼らの、真選組隊士達の希望となり糧となる。真選組は非常に仲間の繋がりが強い組織だということを失念していたわけでは無いが、死者までも考えているとは思っていなかった。盲点を突かれた感じだったが、やたらと納得してしまった。と同時にそんな考え方もあるのかと感心してしまった。


「…で?何も変わらず、今まで通り、か?」

「うん。むしろ今までよりも、気楽になった」

「まぁ、そりゃあ隠し事によるお前の負荷がなくなったからだよ」

「…銀時移ってる」

「何がだよ」

「喋り方。なんか難しい言い回しが始まってるで」


お前の所為だ。と言って頭をぐしゃっとされた。なんだその理不尽な感じと不満げに言ったが、何故か笑みが零れた。だけど、その瞬間にふと着流しの袖から見えた包帯に笑みが引っ込んだ。


「……銀時さ、前から言おうと思ってたんだけど」

「なんだ…っ、!?」


コッチを向いて答えを返した銀時へ唐突に刀を突き出した。でも寸前で止めるなんて可愛いことはせず、そのまま刺すつもりで勢いを殺さずにいれば流石にまずいと思ったのか、脇に置いてあった木刀でそれを防いだ。合わせた刀越しに見える銀時の顔は訳が分からないと言っている。しかし、そんな彼に微笑むと斬魄刀に力を入れて思いっきり薙ぎ払った。すると当然銀時は吹っ飛ぶ訳で。屋敷側でなく中庭側へ飛ばしたのだが、そのまま何もせずに行けば池の淵の石とこんにちはする。さてどう出るかと見ていればあろうことが木刀をこっちに投げて来た。私がそれを飛んで避けると、銀時は木刀を投げた反動で若干態勢を立て直して器用に石の上へ着地していた。
その銀時に再び向かうと、右から払うように刀を薙ぐ。すると彼は後ろにしていた右手を前に出し、次の瞬間何故か響く金属音。良く見ればそれは先ほどまで白玉餡蜜に使っていたスプーンで、良くぞそんなの持っていたなと感心したが、スプーンを彼の手から払い背後へ回るとガラ空きの背中へ蹴りを入れた。すると再び縁側へ吹っ飛んで行き、なんとか上手い具合に着地して走り出し、木刀を掴みそれを地面から引き抜きながら、背後から迫り来る私に備える為に此方を振り返ろうとしている。けれども、顔を向けるより先に首筋に刀をピタリと当てた。と、同時に殺気をしまった。


「…その闘い方、考え直した方が良いよ」

「…………っ、はぁ……名前ちゃん、お戯れにしてはちょーっとやり過ぎなんじゃねぇの?銀さん死んじゃうよ?」


額から流れる二筋の汗にやりすぎたかと思いながら刀を引いたが、これぐらいしないと彼には伝わらない。というか、気付け。


「なんや、ケンカか」


そうやって溜息を吐いていれば、恐らく今の一部始終は見ていたのだろう。いつの間にか縁側に胡座をかいて居た真子が横槍を入れてきた。ニヤニヤと何が嬉しいのか意地悪そうな笑みを浮かべている。


「違ェよ。名前からの一方的なラブコール。モテる男は辛いよ」

「やけどな、銀時。名前の言うことは当たっとるで」

「オイ無視か」

「俺も、その闘い方はオススメせぇへん」


殺気は送りっぱなしだったから一瞬でも死は見えただろうに、今は平然と真子に受け答えをする銀時にやはり溜息が漏れかけた。だけど、最後に付け加えられた真子の言葉に銀時は無表情となって彼を見つめる。


「なんや。気付いとるんか。でも、止められないって所か?」

「お前は関西弁を止められるか?」

「まぁ、無理やろな」

「それと同んなじだ」


無理なんだよ、染み付いちまって。
そう呟く彼は十数年前の攘夷戦争時代を思い出しているに違いない。戦場に於いて不測の事態は付き物。いつも自分の手元に最善の武器があるとは言えない。相手から武器を奪いそれで闘うこともしなければならない。あの戦場は私も実際に見ているからああいう身投げも覚悟、いやどちらかというと最初から身投げを計算に入れた戦闘方法は仕方のないことなのかもしれない。が、今はそんな危険地帯でもなかろう。確かにどんな最悪な状況にも対処出来る彼はいとも容易く打開策を練れるが、それを最悪な状況下でなくともやってしまうのは良くない。自分の首を締めるのも同然だ。今みたいに開始二秒で私相手に木刀を投げたのは全く評価される闘い方ではない。むしろ、そのまま殺してやりたいぐらいだ。


「銀時、それ癖の所為にしちゃいけない」

「だったら何なんだよ」

「死ぬのも厭わずって思ってる?」

「オイまた無視か。お前ら相手なら相討ちも無理だろ。なら奇襲が一番だ」

「それだよ、それ」

「…へ?なに?」

「銀、自分の武器を捨てることは奇襲って言わない。自殺行為って言うのよ」


漸く、何かに気付き始めただろうか。私を見る目が真剣になってきた銀時に手を差し伸べて立ち上がらせた。そして、木刀を彼に差し出した。


「貴方は何を思ってコレを握ってるの?」

「………」

「じゃあ言い方を変えてみましょうかね。何の為にソレを握ってるんスか?」


また声が増えた。私の後ろからひょっこりと現れた喜助はそう言って木刀を指差した。もう付き合いが長い銀時は急に現れる私達に最早リアクションすら取らなくなっているのがなんとも寂しいが、彼は今そんなモノを取っている場合ではないのだろう。喜助を見、私を見て、その手の先にある木刀をじっと見つめている。


「敵を斬るためではない」

「………弱き、己を斬るために」

「己を護るのではない」

「…己の魂を、護るために」


黙りになった彼に語りかけるように声をかければ案外すんなりと返って来た言葉。それは銀時が幼少期に吉田松陽から教わった言葉で、松陽は私を拾ってくれた吉田氷雨の子孫にあたる。その人柄か家訓は分からないが、私が教わったことと銀時が教わったことは偶に被る。


「武器を捨てたら弱き己も斬れないでしょう」

「……ああ」

「それに今は自分だけじゃない。その己の肩に乗るモノもあるでしょう」

「……ああ」

「だから、今一度考え直しなさい。闘い方を。…いや、」


護り方を。
今度こそ分かったらしい。私の言葉に頷くと、差し出していた木刀をしっかりと握り締めた。そして、それを見守る目はいつの間にか増えていた。














(…ていうかお前らなんでフル揃いしてんの?こんな音もなくやられるとさすがにビビるんだけど)
(あんたがこてんぱにやられる様子を見たかったんや)
(え?でもあん時は平子しか…)
(甘いで銀時、予めフォーメーションCで来とるからな)
(やめてくんない?人の無様な様子こっそり見守るフォーメーションとかやめてくんない?)

prev/next

68/129


▼list
▽main
▼Top