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その日も夜まで晋助の稽古を受け、ボロボロになった身体を引きずってなんとか食事にありついていた。
松陽「毎日ご苦労様ですね。」
『でも、晋ちゃんが上手くなったって!』
松陽「そうですか。剣術は毎日の鍛錬が大切ですからね。
でも美佳、あなたは女の子なのですから、剣術の時以外は少しは女の子らしくしてくださいね。
近頃のあなたと言ったら、銀時たちと遊んでいるせいか男の子のようだ。」
言われてみれば、剣術稽古の後とはいえ髪の毛はボサボサ、着物は埃だらけ。
少しばかり反省し、きちんと正座をし直すと、ゆっくりと食事を進める。
銀時はそれを見て大笑いしてたけど、松陽先生がその姿を嬉しそうに見てくれるなら、
私はそれでよかった。
お風呂の後、何やら書き物をしていた先生の側に近寄ると、先生は机の中から櫛を取り出し、まだ濡れていた私の髪の毛を梳かしてくれた。
松陽「あなたの髪は本当に綺麗だ。
髪は女の武器と言います。大事にしないといけませんよ。」
『フフフ、先生、お母さんみたい。』
松陽「そうですね、私は男ですが、君と銀時の母でもあり父でもありたいと思っているのですよ。」
銀時「先生、女みてぇだもんな。髪の毛長いし。」
松陽「銀時、君はその口を閉じるということを覚えた方がいいですね。」
銀時「いってぇぇっっ!!なんでゲンコツすんだよ!!」
松陽「いつまでたっても君が成長しないからです。」
松陽先生は時に厳しく、いつもその大きな愛で私たちを護ってくれていた。
松陽先生が与えてくれたあの場所は、家族の居なかった私に初めてできた我が家と家族だった。
そんな幸せは無数の大人の手によってあっけなく奪われた。
私も銀時も既に熟睡していた夜遅く、寺子屋に大きな物音と怒号とともに大勢の大人たちが入って来た。
松陽「何事ですか!!」
「吉田松陽だな。罪人をひっとらえろ。」
大きな音に飛び起きた私たちは慌てて松陽先生の元へと走った。
そこで私たちが見たものは縄で縛られた松陽先生の姿だった。
『松陽先生っっ!!先生に何やってんだ!!離せ!!先生を離せ!!』
「いたっ!!なんだこのガキ!!」
松陽「美佳大丈夫ですよ。大丈夫だから、落ち着いてください。」
『松陽先生を離せ!!』
必死に先生の腕にしがみつき、なんとか先生を護ろうとした。
銀時「美佳!!」
銀時は木刀を私に投げ、私達は松陽先生を背中に護るように木刀を構えた。
銀時「松陽先生が何をしたって言うんだよ!」
「お前らガキには関係ないことだ。」
銀時「関係ないことあるか!この人は…」
『この人は私たちの親だ!子供から親奪って言い訳ねぇだろ!!』
その時、私の中で何かがはじけ、あの時と同じように周りの何も見えないような感覚に襲われた。
ただ必死に先生を護りたくて剣を振るった。
容赦なく斬りかかってくる大人たち。
なんとかその剣を交わしながら松陽先生を護る。
それでも、私の力も、銀時の力も及ばず私たちは倒れて動けなくなった。
松陽「美佳!!銀時!!もうやめなさい!!止めてください!!」
『なんで…松陽先生…いや!!先生っ!!…私をひとりにしないで!!松陽先生!!!』
松陽「美佳、銀時。すぐに戻ってきます。
それまでこの場所を護ってくださいね。」
最後まで松陽先生は穏やかな笑みを浮かべていた。
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