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翌日、美佳の姿は早速寺子屋にあった。
松陽「みなさん、今日は始めに新しくこの寺子屋で一緒に勉強する仲間を紹介します。
さぁ、挨拶を…」
『初めまして、朝日奈美佳と言います。よろしくお願いします。』
男ばかりの中に初めて現れた少女に子供たちは浮かれた。
そんな中で関係ないとばかりに本を読んでいたのが桂小太郎。
頬杖をついてぼーっとしていたのが高杉晋助。
美佳はチヤホヤしてくれる他の男の子たちよりもその2人に興味を持ち、休み時間には彼らの元に行った。
『何を読んでるの?桂小太郎くん?』
桂「これか?これは日本の歴史の本だ。
過去の偉人たちの話は実に興味深い。」
『例えば?』
美佳は人の話を聞くのが上手な子どもだった。
例え興味がないことでも、相手が楽しそうに話していれば、ニコニコと笑ってその話を聞いた。
『...』
高杉「なんだ。」
『高杉晋助くんは、いっつも何をぼーっと見てるの?』
いつもぼーっとしている高杉にわざわざ話しかけにいくのなんて美佳くらいなものだった。
最初は面倒そうにしていた桂や高杉も、いつもいつも自分たちに話しかけに来る彼女に親近感が湧いた。
そして次第に彼女が話しかけにくるのが楽しみになった。
それなりの名家の出である2人は勉強をして、名声を上げる事を強要され自分の話などろくに聞いて貰った事がなかった。
周りとは違う。子ども心にそう感じて周りの子どもとは距離を取った。
それでも美佳だけはそんな事を気にせずどんどんと自分の領域に入ってきた。
『ねぇ、桂小太郎くん、高杉晋助くん。』
高杉「お前、呼びづらくないのか?その呼び方…」
『だってなんて呼べばいいのか分からないし…』
高杉「別になんでもいいだろう。高杉でも晋助でも。」
桂「俺も別に何でも構わないぞ。」
『ん〜じゃぁ…晋助くんだから晋ちゃんで、小太郎くんだからコタくん。』
そう言って2人に満面の笑みを見せる美佳に小さいながらに2人の心はドキッっと音を立てた。
それから美佳は2人と過ごすことが増え、いつもひとりで昼寝している銀時も強引に誘って、よく4人で遊んだ。
松陽「さぁ、今日は久しぶりに剣術の稽古をしましょう。」
剣術の稽古という言葉に子供たちは湧きあがり、着物の上半身を脱ぐと一生懸命に剣を振り始めた。
『ほぉぉぉぉ!!!』
松陽「美佳は剣術の稽古を見たことがありませんか?」
『初めてです!すごいですね、皆。』
そう言ってソワソワし始めた美佳に松陽は嬉しそうに笑う。
松陽「あなたもやってみますか?」
松陽が訪ねると、美佳は目を輝かせ頷いた。
始めのうちはやはりぎこちなくて、男の子たちのように力強く剣を振ることは出来なかった。
それでも彼らに…とりわけ剣術の才能に秀でていた3人に追い付きたくて、毎日必死に練習をした。
最初は「女が剣を持つものではない。」と昔の頑固オヤジのようなことを言っていた3人も美佳の真剣な姿に負け、桂と高杉に至っては早起きして寺子屋にやって来ると、美佳の練習に付き合うようになっていた。
そうして彼らは友情を深め、まだ知り合って少ししか経っていないというのに兄妹のように仲良くなっていた。
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