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目を閉じると美佳と出会った時の事が頭の中に浮かんだ。
銀時は孤児だった。
毎日空腹を癒す為だけに剣を振った。
寝るところも決まっていない。
風呂なんて汗で気持ち悪くなったら、川に行って水を浴びるだけ。
これから先の事なんて考えたこともない。
そんな時に出会ったのが銀時が恩師と呼ぶ吉田松陽だった。
松陽は彼を自宅に来るように促し、彼に人間としての生活を丁寧に教えた。
寺子屋で生計を立てる松陽は銀時にも他の子供たちと同じように勉学を教え、彼に剣術の心得を教えた。
桂や高杉と出会ったのもこの寺子屋だ。
松陽との生活にも慣れ、ある程度経った頃、2人で夕方の散歩に出かけると、1人の小さな女の子が大木の下で居眠りをしていた。
風に揺れる綺麗な髪の毛に銀時は惹かれ、彼女の近くへと歩み寄った。
銀時「先生、コイツ寝てる。」
松陽「そうですね…」
銀時はただ綺麗に揺れる髪の毛と、それに相応しい整った顔立ちをした彼女に見とれているだけだったが、松陽は彼女の高級そうに見える着物が薄汚れているのが気になった。
松陽は何も言わずに、女の子をおぶると「帰りましょう。」と銀時を促した。
銀時「先生、その子どこの子?」
松陽「…銀時、この子はうちの子ですよ。」
なんでこんなに綺麗な着物を着ているのに、寺子屋へ連れ帰るのか銀時には分からなかった。
寺子屋へ戻ると、彼女を和室に寝かせ、2人は3人分の食事を用意した。
そろそろ食事も出来上がろうかという時、台所へと続くふすまが開き、女の子が怯えた表情で立っていた。
松陽「しっかり眠れましたか?」
しゃがんで彼女の高さまで目線を落とした松陽が優しく問いかけると、女の子は急に泣き始めた。
それに松陽は驚くでもなく彼女を抱き上げ、赤ん坊をあやすように背中をトントンと叩いた。
彼女が落ち着いた頃を見計らって、松陽は銀時に食事を並べるように指示をだし、自分は彼女を連れ水場へと向かい、汗と埃と涙で汚れた彼女の顔を綺麗にした。
それが終わると、いつものように机の真ん中に松陽、左側に銀時が座る。
松陽はどうしていいのか分からず立ち尽くしていた彼女を見て、トントンと自分の右隣を叩くと彼女はいそいそとそこに座った。
松陽「では、いただきましょう。」
銀時「いただきます。」
『いただきます。』
食事を少しずつ上品に口に運ぶ彼女に銀時は釘付けになった。
自分の時は、確か手づかみで慌てて食べてのどに詰まらせ松陽を驚かせたはずだ。
静かに進む食事の中でやっと松陽が口を開く。
松陽「名前を聞いていませんでしたね。」
『…』
松陽「名前を教えてはくれませんか?今のままではなんと呼べばいいか分かりませんから。」
松陽の問いかけに女の子は困った顔を見せる。
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