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その頃、当の美佳はというと、舞台から降りて羽織を肩にかけると衣装もそのままに店から飛び出していた。
まだ遠くには行っていないはず。
子供の頃に培った脚力を存分に使い、居なくなった例の編み笠の男を探す。
一言でいい、それだけで…そう思いながら、必死に足を速めると、やっと男の姿を見つけ、美佳はためらうことなく男の背中に抱き付いた。
「やっと殴りに来たか。」
静かな声で男は呟くと路地裏に美佳を引き込む。
荒れた息を整えながら、美佳は笠で隠れた男の顔を見上げた。
そして、ゆっくりと笠を取り、男の頬に触れる。
『晋助…』
彼女がそう呼んだのは、銀時たちと攘夷戦争をともに戦った高杉晋助だった。
銀時や桂と寺子屋時代から一緒だった高杉は当然のごとく美佳とも旧知の仲。
高杉は少しばかり入ってくる街灯の光に照らされた美佳の頬を優しく撫でる。
そして、それに答えるように美佳も包帯を巻かれた彼の左目に手を当てた。
『ちょっと会わない間に、イイオトコになっちゃって…』
笑いながら言っているはずなのに、美佳の声は震えていた。
高杉「ククク…相変わらずだなぁ、俺のところに泣きにくる癖も。」
そう言って美佳の身体を引き寄せると、高杉は優しく抱きしめた。
高杉の声があまりにも優しくて、今まで我慢していた涙が零れ落ちた。
攘夷戦争の途中で仲間たちと離れ離れにならざるを得なかった美佳は彼らから遠く離れた場所で過酷な自分の状況に耐え、彼らの無事を祈り続けた。
そのうち攘夷戦争が終焉を迎えた話を人伝いに聞き、それからまたしばらくして、桂や高杉がいまだ攘夷活動をしているとの噂を耳にした。
彼らが無事であるという事に安堵したが、実際に自分の目で確かめない事には心から安心することは出来なかった。
それがやっと報われた気がした。
彼らの仲が以前とは違ってしまっているのは、高杉を見れば明らかで、手を挙げて喜べることではないのかもしれないが、それでも彼らが生きている、それが今の美佳にとっては何よりの喜びだった。
まるで子供の様に泣きじゃくる美佳を高杉は彼女が落ち着くまで慰め続けた。
やがて、彼女は泣き止み高杉に笑顔を見せる。
それは子供の頃、高杉が大好きだった可愛らしい笑顔だった。
高杉「いつでも来い。」
高杉は美佳の手に紙を握らせるとそっとその場を離れた。
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