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一通り仕事を終えると、高杉は自室へと向かった。
高杉の部屋にはいまだ眠り続ける美佳の姿があった。
高杉は美佳の隣に腰を下ろすと、彼女の髪を撫でる。
昔と変わらず綺麗な髪をした女は、昔より幾分生意気になった気がする。
今目の前に居るこの女を一体どれだけの間想い続けて来たのだろう。
いくら身体を重ねようとも、美佳が自分を見る事はない…そんな事は分かっているのに、それでも忘れることが出来なかった。
『…晋助?』
高杉「起きたか。」
『…まだ眠たい。腕枕しろ、この野郎。』
ため息をついてその場を離れようとする高杉の腕を掴み、美佳は布団に引き込む。
高杉「…馬鹿力。」
『晋助はいい匂いすんね。加齢臭とか皆無だね。』
高杉「どこぞの銀髪と一緒にすんじゃねぇよ。」
『いやぁ、銀時だけじゃなくて、小太郎も辰馬もそれなりにおっさん臭するよ?
まぁ、銀時が1番おっさん臭いけどさ。』
高杉「…坂本のバカはどうしてる。」
『辰馬はね〜、キャバクラのお姉さんにご熱心。』
高杉「相変わらずだな。」
『相変わらずでしょ。まぁ、私から見たら皆相変わらずだけどさ。』
それから美佳はこの間銀時たちに話したように、自分が居なくなってからの事を高杉に話し、高杉は何を言うでもなく、黙って美佳の話しを聞いた。
泣き虫の美佳がたったひとりでそんな辛い思いをしていたのかと思うと、幕府への不信感はますます募る。
『まぁでも、こうして生きてまた晋助に会えてるんだから…』
高杉「なんでお前たちはそうのうのうと生きていられる?
俺たちから松陽先生を奪い、お前にこんなつらい思いをさせたのは他でもない幕府の連中だぞ。」
『先生を奪われたのは納得いかないよ、今でも。
先生の最期に立ち会えなかったのも、あんたたちにあんな辛い思いをさせたのも…
でも、過去ばかり見ててなんになるの?』
美佳は身体を起こした後、横になる高杉をまっすぐと見つめた。
『晋ちゃんがそんなんじゃ、銀時はどうすればいい?
一番重い罪を自ら背負ってくれた銀時は…
私はね、晋助…私は世界中の誰よりも松陽先生が大好きだった。
大好きで大切だった。
身寄りのない私を拾って育ててくれた。
先生を助けられなかった私に、ありがとうって…生きろって…』
美佳の瞳はまっすぐすぎて高杉には眩しく感じてしまう。
『私ね、何度も死のうとした。
皆が苦しんでるのに側に居ることが出来ない、泣きたい時に肩を貸してくれる仲間もいない。
松陽先生があんなことになったのに、なんで私は天人に手を貸すような事してるんだって…
でも、結局死ねなかった。気が付くと、いつもと同じ部屋でいつもと同じ布団の上に居るの。
それで、目が覚めた後必ず先生や皆が生きろ。って言ってくれた姿を思い出すの。
そうやってこの10年過ごして来た。
乗り越えられたとは言わない。
でも、目の前に晋助が居る、銀時も小太郎も辰馬も居る。
そんな日常はもう来ないと思ってたから…だから私今、楽しいよ。』
高杉は身体を起こし、美佳の瞳を見つめる。
『晋助には晋助の戦わなきゃいけないもんがあるんでしょ。
それは分かってるつもり。
でもそれは誰かを傷つけてまでやらなきゃいけない事なの?
それをやって1番傷つくのは晋助じゃない。』
そして美佳は困ったように笑う。
こんな顔をさせているのは自分だと思うと辛くなる。
それでもどうしても曲げられない思いがある…
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