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松陽先生に連れられてやって来たアイツは、休み時間に迷わず俺の前に座った。
『何を読んでるの?桂小太郎くん。』
あの時のアイツの笑顔はいつまで経っても忘れられない。
変に緊張してしまって、長々と読んでいた本の説明をしてしまった。
絶対、分かってないだろうと内心思っていたが、それでもアイツは楽しそうに話を聞いていた。
それまでバラバラだった俺たちを繋げてくれたのもアイツだった気がする。
ちょこちょこと俺たちの後ろを付いて回って、自分も剣術をすると言いだし、
何度止めても聞かず…
そしたらいつの間にか死神と恐れられる程の剣の使い手になってしまった。
戦の時は、銀時や高杉顔負けの表情をするくせに、それが終わればいつも笑っている。
アイツの人生は辛い事の連続だった。
親に捨てられ、育ての親を奪われ…それでも、アイツは立ち上がった。
あの強さはどこにあるのだろうと一度聞いてみたことがあった。
『ん〜だって、バカ兄貴の世話は私しかできないでしょ?
だから、兄貴たちが生きてる限り私は強くなきゃいけないの。』
バカ兄貴とは間違いなく俺たちのことだ。
たった1度、汚い大人から庇っただけで兄貴呼ばわりだ。
でも…それも悪い気はしなかった。
いつも俺たちの周りをくっついて回るアイツを俺たちも妹のように感じていたから。
辛いことがあると、いつも泣きにやってきていたアイツは大きくなってもそれは変わらず、銀時の前でだけ泣くのを堪えるようになっていた。
でも、元々泣き虫がそうそう堪えられるものでもなく、目にたっぷり涙を浮かべてそれに気が付いた銀時はいつも後から心配そうに様子を覗きに来ていたのを思い出す。
そして、大体銀時は後から高杉に怒られる。
そんなアイツの笑顔は次第に曇るようになった。
いつも輝くような笑顔を見せていたアイツは、困った顔をして笑うようになった。
それが俺たちの気持ちも曇らせた。
だから、アイツの笑顔だけはなんとしてでも取り戻したかった。
俺はアイツの笑顔が大好きだったから。
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