─────---- - - - - - -
結局、晋助はまだ傷も癒えないまま銀時には任せてられないと戦争に戻っていった。
毎日どこかしら怪我をして帰って来る志士たちの看病をしながら、結局私も銀時もその場を離れることは出来なかった。
辰馬がやって来たのはそんな時だった。
「桂浜の竜」と大層な名前を持った坂本辰馬。
一体どんな人なんだろうと、皆の帰りをいつもより少しだけ豪華な食事を作りながら待っていた。
しばらくして志士たちの声が聞こえ、急いで出迎えに向かうと、そこには背の高いなにやらボロボロになった男とゲロくさい銀時と晋助が居た。
『…とりあえず、銀時と晋助は風呂。ついでにそのもじゃもじゃも入れてきて。』
坂本「ん?女子の声がする!!」
さっきまで志士たちに抱えられてぐったりしていたその男は、私の声を聴くとすぐに顔を上げた。
坂本「お〜お〜こんなところにこんな別嬪さんが居るとは思わんかったぜよ!!
あっ、もしかして〜ワシが来るから女でも呼んでくれたがか??
ん〜でも、ワシはもっとこうおっぱいがバイ〜ンとして、尻も大きい女子が好みじゃ。
おまんはちっと細すぎるき〜。
他の子呼んでくれんかのぉ?」
『…銀時、晋助…コイツ、裏山にでも埋めてきて。』
「「御意。」」
坂本「ちょ、ちょっと待って〜!!
だってせっかく金払っとるんやき、好みの女子がえぇじゃろうが。」
『誰が女郎じゃ、このもじゃもじゃ!!』
綺麗に私の右ストレートが辰馬の顔面に入った。
他の志士たちは唖然としていたが、そんなものは気にしない。
この数年後には本当に女郎になるのに、この頃はまだ純粋だった…
坂本「アハハハハ!すまん、すまん!!
まさか戦場に女子が居るとは思わんかったぜよ。
にしても、なして女の身で戦争に来たんか?
危ないじゃろ。それに戦の場じゃ女は足でまといじゃ。」
辰馬は人の良さそうな顔で、それでもしっかりと私の顔を見て「女は邪魔だ。」と言った。
『あんたがどう思おうが、とやかく言われる筋合いはない。
例え死ぬ事になろうが、私はこいつらの側を離れるつもりはない。』
坂本「おまんが居ったら、こいつらは何よりも先におまんを守るんじゃろ。
こいつらは多くの兵を率いる将じゃ。
そんなこいつらが、多くの兵をほったらかしにおまんを助けに行ったら…
こんな戦況でそれがどれほど危険な事か分かっとるがか?
おまんのその安っぽい命だけじゃ足らん。」
高杉「黙れ。くそもじゃ。
それ以上、こいつの事を愚弄するならこの場でたたっ斬ってやる。」
坂本「おぉー怖い、怖い。
ワシはただ刀をもつ勇気も力もない奴はこの場から去れ言うとるんじゃ。
おまんらたった1人の女子の為に何百もの兵を無駄にする気か。
女子は家で黙って男の帰りを待っとる方がええじゃろ。」
高杉「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?」
『晋助、いいよ。言いたいやつには言わせておけばいい。
あんたらが分かってくれてるなら、私はそれでいい。』
それだけを告げ、私はその場を離れた。
部屋に戻ると悔しくて涙が出た。
どんなに剣術の練習をしてそんじょそこらの男より強くなろうが、女だからと言われてしまう。
そこにはどうしても超えられない壁がある。
こんな時、先生ならなんと言っただろうか。
先生ならきっとそれでも己が望む道ならどんなに遠回りしてでも突き進めと言うはずだ。
迷いを断ち切るように、木刀を握り庭の大木相手に木刀を振った。
銀時「脇が甘い。」
高杉「切り返しが遅い。」
桂「どうだ美佳、久しぶりに俺とやりあってはみらんか。」
励ましの言葉の代わりに、剣の稽古をつけてくれた3人。
彼らはいつもそうだ。
沢山の言葉はくれない。
それでも私の気持ちが晴れるまで側に居てくれる。
木刀を握った小太郎に私も真剣に剣を振る。
桂「どうした、遠慮は無用だ。」
高杉「ヅラくれぇ倒さなくてどうすんだ?
俺たちが居ない時は、自分の身は自分で守らなきゃいけねぇんだぞ。」
何度も何度も負かされ、転んで起き上がって…
頭の中のモヤモヤを振り払うべく剣を振った。
2時間ほど経った頃、小太郎はわざと私を勝たせてくれた。
桂「強くなったな。」
そう言って私の頭を撫でる。
『…わざと負けたくせに。』
桂「何を言う。俺はもう腕も上がらん。」
高杉「男でもそれだけぶっ続けで剣を振ることなんざ出来ねぇぞ。」
銀時「はぁ〜ったく、お前らはコイツに甘すぎんだろ。」
やっぱり…こいつらの側は居心地がいい。
どんな時でも私の気持ちを分かってくれるから…
『銀ちゃ〜ん…お腹空いた…』
桂「ハハハハ!では俺が握り飯を作ってきてやろう!」
『やだ、銀ちゃんがいい〜。』
銀時は面倒くさがりながらも握り飯を用意してくれた。
← →
9/10
←contents
←main
←top