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〜2


「ラピード? ほんとにラピード?」

「わん」

答えた声は、私が知ってるものよりも高音だ。
ぼさぼさの太い眉毛(に見える毛)、胴体は紺色で、足先は白。そして尻尾はかみなりのようなジグザグ形。
ここまではどう見ても私の知ってるラピード。けれど、その大きさときたら……

「ちっちゃい」

「くーん」

私よりも小さい。私の知ってるラピードの半分、いや、三分の一、下手したら四分の一なんじゃないだろうか。
これなら、突進されても怖くない。
おもむろに手を伸ばして撫でようとすると、小さいラピードは身を竦ませて私の手をじっと見つめた。
そうか。このラピードも私を知らないのだ。
寂しく思ったものの、ここまで相手の姿が違うと別人のように思えて、かえって納得が出来た。殆ど姿の変わらないフレンに冷たい態度をとられるのは、割り切れなくて辛い。

「……噛まれるんじゃないか」

「乱暴に扱わなきゃ平気だって。心配か?」

「僕らには彼女の保護責任があるんだ」

「責任ねえ……」

後ろでフレンとユーリがなにやら揉めていたが、気にせずラピードの頭に手を乗せた。

昨晩の私の発言が、皆に理解されることは無かった。
けれど当事者のフレンは何かを感じ取ったようで、顔を不機嫌に歪めたと思うとシャスティルの制止も聞かず部屋を出て行ってしまった。
その夜は、双子姉妹の部屋に泊めてもらった。彼女達は明るくいい人だったが、ユーリとフレンの話になると愚痴が止まらず、その話が終わる前に私は眠りに落ちた。ユーリはともかく、フレンも問題児扱いされているのが意外だった。私の記憶の中には、小隊長として尊敬されている彼しかいないのに。

ラピードの毛は、記憶にあるものより柔らかくてふかふかだった。手で触っているだけではもったいなくて、両手を広げて思い切り抱きついた。思ったとおり、柔らかくて暖かくて、幸せな感触だ。

「スンスン」

ラピードは私の耳元でしきりに鼻を鳴らし、私を何者か確めようとしているらしかった。

「おっ、小さいのが二匹もいる」

知らない男の人の声だ。振り向くと、色黒で大柄な男性が、ゆったりとこちらに歩いて来る所だった。彼もユーリやフレンと同じ青い服を着ている。

「おはようございます」

「おはよう。……ユーリ、挨拶は先輩より先にするもんだ」

「……オハヨウゴザイマス」

「ったく」

彼はユーリの対応にため息をつき、そしてすぐに視線を私へ向けた。
もしかして、私も?
とっさに「おはようございます」と挨拶すると、彼はニカッと歯を見せて笑った。なんとなく、ナイレン隊長に似た笑い方だ。

「おはよう。ユーリと違って、ちゃんと挨拶が出来て偉いなあ」

言いながら、のっしのっしと私に歩み寄る。
でかい。フレンより、隊長より大きい。色の黒さも相まって、熊のようだ。怖い。
ラピードを抱く腕に力が篭る。私の恐怖心が伝わったのか、ラピードが「わんわん!」と威嚇するように吠えた。
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