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今思えば、あれが僕の初恋だった。
何の変哲も無い、いつも通りの昼下がり。青空には時折、思い出したように薄い雲が流れてくる程度で、とても見晴らしの良い日だったのを覚えている。だからこそ、すぐ気付いたのだろう。

「ユーリ!! 空から女の子が!!」

「バカ、空から降ってくるのなんて魔物に決まってるだろ、フレン」

「ここは結界の中だよ。ユーリこそバカなんじゃないか」

「んだとバーカ!」

「カーバ!」

なんて下らないやり取りをしばらく続けたが、「空から女の子が降ってくる」のは下町の子供にとっても非常識な事だった。ユーリは見間違いだと言って聞かず、意固地になった僕は一人でその現場に向かった。もし本当に女の子だったら、“救助”が必要かもしれない。それは騎士の息子である、僕の役目だと思っていた。

何故女の子だと思ったのか、今でも良く分からない。髪の長さは男女の性差にはなりえないし、服装だって良く見えなかったはずだ。けれども、僕の予想は当った。
庭を囲む塀しか残っていない空き地、芝と野草が茂るその中に、彼女はいた。地面に座り込み、頭だけをキョロキョロとめぐらせて。その動きはゆっくりで、ぼんやりとしているように見えた。
浮世離れしていた。日を反射して輝く黒髪は、友達のユーリとは比べ物にならない。綺麗な白い手足は生傷が絶えない下町の子供と全く違う。服装も、派手ではなかったが泥にまみれていたりはしなかった。

「君……誰?」

彼女はピクリと体を震わせて、ゆっくりと振り向いた。綺麗な黒い瞳が、僕を見てまあるくなる。なかなか返答が無いので「ねえ」と急かすと、小さな声で「フィナ」と言った。
フィナ。口の中で繰り返す。可愛いらしく、心地良い響きだった。

「どうして空から降ってきたんだい?」

歩み寄りながら質問すると、彼女は困った顔で立ち上がり、膝や服の汚れを払った。

「落ちた、から」

「落ちた? 君、空の上に住んでるの?」

「ちがう」

「じゃあ、何処から落ちたんだい」

「……私も、よくわかんない」

手を伸ばせば触れられる距離で立ち止まり、再び彼女を眺めた。何故だか分からないが気分が高揚する。ずっと彼女を見ていたい、そう思った。
しかし彼女は僕の態度が気に入らなかったらしい。少し視線を逸らすと、次は微かに睨むような目を向けた。
これはまずい。
子供だった僕も流石に勘付いて、慌てて自分の名を明かした。名前を聞いておいて自分は名乗らないだなんて、気分を害して当然だ。
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