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隊長はしゃがみ込んで、見せびらかすように視線をフレンに向けたまま私に抱きついた。やっぱりタバコの匂いがする。

「俺にはフィナと遊ぶっていう重大な任務ができた。偶然にもたった今」

「たいちょー、俺は?」

「ユーリにはラピードを任せてるからな。これ以上負担を増やしたら不公平だろうが」

「隊長……貴方という人は……」

フレンの拳が震えている。声からもひしひしと怒りが伝わってくる。これはマズイんじゃ、と心配する私に対して、隊長は何故か「おっ」と嬉しそうな声を上げた。期待通りの結果になりそうだー――そんな風に聞こえた。

「どうした? 嫌か?」

「っ、いいえ! ご命令とあらば従います」

「そうか、悪いな。早速だが、ユルギスから書類をもらってきてくれないか。持ってくるの忘れちまってなあ」

「……分かりました!」

フレンはさっと身を翻し、心なしか早足で歩いて行った。何故かユーリも加えて三人で、無言でその背中を見守った。彼の背中が見えなくなると、「さぁてと」と隊長が柵に腰掛けた。

「どうしたんだ、フレンは」

「どうって?」

ユーリが答える。

「フィナに対する態度がなー……なんていうかぁ……よくわからん」

隊長なのに、偉い人で渋いおじさんなのに、言葉遣いがまるで若者のようにゆるい。それがちょっと面白くて、ちょうど足元に寄ってきていたラピードに「なんてゆーかぁ」と真似して言ってみた。

「わん!」

ラピードの返事は語尾も伸ばさず明快だ。

「こんなに天使なのになぁ」

「そういや、あいつもフィナのことを天使だって言ってたぜ。昔の話だけど」

「昔?」

訝しむ隊長に、ユーリが「ええっと」と視線を逸らして迷う様子を見せた。
私と小さい頃に会っている、という話はまだ誰にも話していないようだ。にわかには信じられない話なのだから無理もない。
隊長が「んん?」と怖い顔で脅すと、ユーリは案外あっさりと口を割った。

「俺とフレンはガキの頃、フィナそっくりの女の子に会ったことがあんだよ。名前も同じ『フィナ』で……フレンはコイツが空からやってきたって言い張ってて、そんで」


『フィナは天使なんだよ。絶対そうなんだ。でも、これは僕達だけの秘密だよ。正体がバレたと知ったら、フィナはきっと空に帰ってしまう』


「って。お陰でフィナが行方不明になった時、散々疑われたぜ」

「行方不明になったのか?」

「ああ。魔物に襲われたんだろうって話だった。下町じゃあ珍しい事じゃない」

それからだったな。フレンが騎士を目指すようになったのは。
ユーリのつぶやきが遠く聞こえる。

私は、死んだことになっていたのか。
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