□2
[ 8/10 ]
「ん? どうした、ラピード」

「怖がられてるんじゃないすか」

「ああん? なんで俺が」

「なんとなく。エルヴィン先輩、小さい生き物に好かれるタイプには見えないな〜と」

「うるせえ!」

低音の大声に、体がびくりと揺れた。大声を出した本人は、ユーリに文句を言うのに夢中で私の態度には気付いていない。ただ、フレンだけがじっとこちらを見つめていた。
また、見ているだけで何もしてくれないのだろう。そう思っていたが、彼は不機嫌な表情のままズンズンとこちらに近づいてきた。
あっけにとられて彼を見上げる。金の髪が日の光にきらめいて綺麗だ。

「ラピードを離してくれ」

相変わらず冷たい声でそう言われ、急いでラピードを解放した。言うとおりにしないと、怒られる気がする。
自由になったラピードはくるりと私の方へ向き直り、足元へ寄るとすりすりと体をこすり付けた。私は無事、この子の友達になれたようだ。
嬉しくてまた手を伸ばそうとしたが、フレンによって阻止された。彼の手が、私を抱き上げたのだ。

「エルヴィン先輩。この子が昨日から保護している少女、フィナです」

「ん? ああ、やっぱり」

私を振り向いた彼は、茶色の瞳を輝かせてにっこりと笑った。

「俺はエルヴィン。こいつ等の大先輩だ。よろしくなー、フィナ」

不思議と、さっきのような恐怖心は湧かなかった。フレンに抱えられて、高所から見下ろされる形じゃなくなったからだろうか。
とりあえず頷き返すと、彼は嬉しそうに頬を紅潮させ、「ほれみろ! 別に怖がってないだろうが」とユーリに絡んだ。絡まれたユーリは迷惑そうだ。
……フレンにお礼を言うべきだろうか。
そう思ったが、この時代の彼と言葉を交わすのは、なんとなく怖い。
結局無言のまま私は下ろされ、フレンはさっさと馬屋の方へ歩いて行ってしまった。

「くーん」

ラピードが私のお腹の辺りに鼻をくっつけ、くんくんと鳴らしている。どこかで見たことのある仕草だ。以前見た動物番組のVTRを頭の中で再生していくと、答えは簡単に分かった。お乳を探す赤ちゃんの行動だ。

「お腹すいてるの?」

「わん!」



「ラピードの餌やりはユーリの仕事だから、彼に聞いてくれ」

勇気を出した質問も、けんもほろろな対応だった。
声をかけた私を振り向こうともせず、黙々と馬の飼い葉桶に藁を補充している。
厩舎の外、ユーリに目を向けてみるが、未だエルヴィンに捕まったままだ。勇気はフレンに声をかけるときに使い切ってしまったので、彼等の間に割って入る気になれない。
仕方なく、ラピードの相手をしてユーリの解放を待つ事にした。
試しにお手やおすわりをさせてみるが、差し出した手は舐めるし、座るどころか周囲を走り回った。まだ躾は全然みたいだ。
そうこうしているうちにユーリが解放された。駆け寄って餌の在り処を聞くと、馬屋の裏に犬小屋があって、そこに餌があるらしい。

「こっちだ」

ユーリの先導について行くと、ラピードも後を付いてきた。餌がもらえると分かっているのだろうか。ジグザグのしっぽが楽しそうに跳ねていた。
ふと視線を感じて厩舎を見ると、フレンと目が合った、ような気がした。
[#次ページ]
[*前ページ] [もくじへ戻る] [しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -