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これからどうしよう。どうしたらいいんだろう。早く、早く帰りたい。フレンの懐に飛び込んで、今日はこんな変なことがあったんだよ、って話したい。そうしたらきっと、彼は目を丸くして聞き入ってくれて、大変だったね、って頭を撫でてくれるはずなのだ。
「ふれん……」
自然と零れ出た名前に、彼らが顔を見合わせた。
「……なんだい?」
相変わらず低温な返答に、首を振った。
違う。貴方じゃない。
「うぅ〜っ……」
熱い雫が、目から零れて頬を伝う。
元の世界なら、泣けば誰かが助けてくれた。フレンがいなくてもソディアが、エステリーゼが、小隊の皆、下町の皆が手を伸べてくれた。
ここで泣いても、恐らく助けは来ない。唯一の知り合いといえる二人はさっきから見ているだけだし、泣いても何も解決しない。分かっていても、泣かずにはいられなかった。
だって、とても寂しくて悲しいのだ。
無意味だと知りつつも、心の中で叫んだ。
誰か助けて――――――
「なぁにやってんだ!」
第三者の声と共に、ごす、と鈍い音が二発聞こえた。
驚いて顔を上げる。目の前の二人は頭を抱えて顔を歪めている。その二人の後ろに、壁のようにたたずんでいる人物がいた。
ユーリ、フレンと同じ色味の青い服、広い肩にがっしりとした肩当を付けている。肌は浅黒く、灰色の髪は無造作な角刈り、目は褐色で、額に皺が刻まれたおじさんだ。
呆然と彼を見上げると目が合い、ニカッと笑いかけられた。
「すまねぇな、ビックリさせて」
彼は二人を押しのけて私に近付くと、その大きな手で私を抱き上げる。煙草の匂いがした。
「女の子を寄ってたかっていじめるなんて、騎士の風上にも置けねえ奴らだな」
「いじめてねえよ!」
「そうか?」
「すみません。多分、僕の大声に怯えたのだと思います」
「ふむ」
おじさんは二人の言い分を聞くと、再び私の方を向いた。
「ごめんな。脅かしちまって。え〜っと」
「フィナです」
即座に答えたのはフレンだった。それにおじさんは頷き、
「フィナって言うのか。いい名前だ。俺はこいつらの上司やってる、ナイレン・フェドロックだ」
と、ワイルドな見た目と声質には合わない、優しい調子でそう言った。
「おうおう、目も鼻も真っ赤じゃねえか。シャスティル、鼻紙」
「はい!」
いつの間にか、さっきの双子も帰ってきていた。胸の大きいほうの女性がポケットからティッシュを取り出し、おじさんに差し出す。彼はそこから一枚抜き取って、私の鼻を拭ってくれた。
「折角の美人が台無しだ。こいつらが怖かったのか? ん?」
穏やかなブラウンの瞳が私の瞳を覗き込む。
――――この人は、信用しても大丈夫だ。
自然とそう思い、正直に首を振った。
「違うのか? なら、どうした?」
「……さみしかった」
双子が揃ってユーリとフレンを睨んだ。私を放置していたと思ったのだろう。
「親御さんがいないからか?」
「ううん」
これを言ったら、きっと変に思われる。けど、胸に溜まった気持ちが言葉を押し出した。
「フレンが、いないから」