□4
[ 6/10 ]
これからどうしよう。どうしたらいいんだろう。早く、早く帰りたい。フレンの懐に飛び込んで、今日はこんな変なことがあったんだよ、って話したい。そうしたらきっと、彼は目を丸くして聞き入ってくれて、大変だったね、って頭を撫でてくれるはずなのだ。

「ふれん……」

自然と零れ出た名前に、彼らが顔を見合わせた。

「……なんだい?」

相変わらず低温な返答に、首を振った。
違う。貴方じゃない。

「うぅ〜っ……」

熱い雫が、目から零れて頬を伝う。
元の世界なら、泣けば誰かが助けてくれた。フレンがいなくてもソディアが、エステリーゼが、小隊の皆、下町の皆が手を伸べてくれた。
ここで泣いても、恐らく助けは来ない。唯一の知り合いといえる二人はさっきから見ているだけだし、泣いても何も解決しない。分かっていても、泣かずにはいられなかった。
だって、とても寂しくて悲しいのだ。
無意味だと知りつつも、心の中で叫んだ。
誰か助けて――――――

「なぁにやってんだ!」

第三者の声と共に、ごす、と鈍い音が二発聞こえた。
驚いて顔を上げる。目の前の二人は頭を抱えて顔を歪めている。その二人の後ろに、壁のようにたたずんでいる人物がいた。
ユーリ、フレンと同じ色味の青い服、広い肩にがっしりとした肩当を付けている。肌は浅黒く、灰色の髪は無造作な角刈り、目は褐色で、額に皺が刻まれたおじさんだ。
呆然と彼を見上げると目が合い、ニカッと笑いかけられた。

「すまねぇな、ビックリさせて」

彼は二人を押しのけて私に近付くと、その大きな手で私を抱き上げる。煙草の匂いがした。

「女の子を寄ってたかっていじめるなんて、騎士の風上にも置けねえ奴らだな」

「いじめてねえよ!」

「そうか?」

「すみません。多分、僕の大声に怯えたのだと思います」

「ふむ」

おじさんは二人の言い分を聞くと、再び私の方を向いた。

「ごめんな。脅かしちまって。え〜っと」

「フィナです」

即座に答えたのはフレンだった。それにおじさんは頷き、

「フィナって言うのか。いい名前だ。俺はこいつらの上司やってる、ナイレン・フェドロックだ」

と、ワイルドな見た目と声質には合わない、優しい調子でそう言った。

「おうおう、目も鼻も真っ赤じゃねえか。シャスティル、鼻紙」

「はい!」

いつの間にか、さっきの双子も帰ってきていた。胸の大きいほうの女性がポケットからティッシュを取り出し、おじさんに差し出す。彼はそこから一枚抜き取って、私の鼻を拭ってくれた。

「折角の美人が台無しだ。こいつらが怖かったのか? ん?」

穏やかなブラウンの瞳が私の瞳を覗き込む。
――――この人は、信用しても大丈夫だ。
自然とそう思い、正直に首を振った。

「違うのか? なら、どうした?」

「……さみしかった」

双子が揃ってユーリとフレンを睨んだ。私を放置していたと思ったのだろう。

「親御さんがいないからか?」

「ううん」

これを言ったら、きっと変に思われる。けど、胸に溜まった気持ちが言葉を押し出した。

「フレンが、いないから」
[#次ページ]
[*前ページ] [もくじへ戻る] [しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -