迷子の子
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「フレン、知りませんか?」
小さい鈴のような声に、誰の声かと皆の視線が彷徨った。目の前の子供が、これほどきちんと話すとは誰も思わなかったのだ。いち早く声の主に気付いたイオンは、「フレン……ですか?」と訊き返した。
「はい。私、部屋でフレンを待っていたんです」
ジェイドの話とは繋がらない。ここは街から離れた僻地だ。部屋が存在するであろう家が、そもそも見当たらない。
「まさかとは思いますが……誘拐、なんてことはありませんわよね?」
ナタリアの一言で、蔑みの視線が一斉に緑青の軍服へ向かう。しかし標的にされた人物はうろたえるどころか肩をすくめて見せた。
「私が誘拐犯だとでも言うのですか? 心外ですねえ。娘の扱いに苦慮していた友人を見かねて、親切心から一時的に預かっただけというのに……」
「じゃあ、そのフレンってのがその子の父親か?」
「違う」
ルークの台詞を、フィナはやたらとハッキリ否定した。
「ああ、ごめん。じゃあ、友達の名前か?」
「保護者」
「……それを父親って言うんだよ」
「違うもん」
「ルーク。きっと複雑な家庭の事情があるのよ」
「あ、そっか。ごめんな」
ティアの助言を受け、赤毛の青年は頭を掻いた。
それを横で見ていたキアラは、はっと閃いた顔をした。
「つまり、その子のお母さんが再婚して、フレンって人は新しいお父さんなのかな?」
「新しいお父様を認められないのですわね……難しい問題ですわ」
「懐かない娘の扱いに困ったって事? ひどーい!なにも大佐に預けることないのに」
「ちがうー!!」
フィナが憤慨して叫んだ。その目は赤みを帯びて潤んでいる。
それを見たキアラは、慌てて彼女の傍にしゃがみこんだ。「ごめんね」と謝罪しながら頭を撫でるが、彼女の怒りは収まらない。
「フレンはいつも私を守ってくれるの!ひどくない!」
「はうあっ!あたしかぁ〜……ごめんね。預ける相手のチョイスが悪すぎでつい……」
「確かにな……」
「否定できませんわ……」
「皆さん、私を侮りすぎです。これでも一応、子供の扱いに関する資格を……」
「持ってるの?」
「小児科を」
「ジェイドすごい!」
「ハハハ」
ジェイドとキアラ。バカが付くかも知れないカップルの会話を聞いて、ルークとティアは溜息をついた。
「……あー……、子供の世話って言ったらガイだな。おいガイ!ガーイー!っかしいな」
ルークは金髪の使用人兼親友の姿を探して辺りを見回した。ルークの世話係である彼なら、ぐずった子供も簡単になだめることが出来るはずだ。しかし、辺りには緑の草原が広がるばかりで目的の金髪は見えない。
異変を察知して、ジェイドとフィナ以外の皆も首を巡らせる。それでも、目的の人物を見つけた者はいなかった。