inザーフィアス城
[ 1/22 ]
「フィナ、お待たせ……あれ?」

部屋の中はもぬけの殻だった。
フレンとフィナはこれから一緒に食堂に行くはずだった。先程、遠目にだが部屋に入っていく姿も目撃している。フィナは間違いなくこの部屋にいるはずだ。
かくれんぼでもしているのかと、ベッドの下やクローゼットの中、カーテンの陰、机の下も覗いた。しかし、そのいずれにもいなかった。

おかしいな、と頭を掻きながら立ち上がると、机の上に見覚えのない封筒があるのに気付いた。不思議に思って手に取ると、見たことのない文字で署名がしてある。
一瞬、フィナが書いたものかと思ったが、彼女の国の文字はもっと直線的だった。目の前の封筒にある文字は、線の強弱と螺旋を思わせる円の多さが特徴的だ。
何かのイタズラかと思ったが、封が閉じていなかったので中を見た。
出てきた便箋には、その見たことのない文字がずらりと並んでいた。フレンには読めないはずだが、何故か目を通すと意味が頭の中に入ってきた。
手紙には、こうあった。


『やあどうも初めまして。私、ジェイド・カーティスと申します。
突然ですが、そちらの可愛いお嬢様を頂きましたよ。
貴方方のお陰で、こちらの時間が止まったままなのですよ。
それはもう困って困って困りましたので、そちらの時間を動かしている原因、といいますか……“根源”となっているフィナちゃんを預からせて頂きますね。
大丈夫。じきにそちらの時間が止まりますので、すぐご息女が帰ってきたように感じるはずです。では、よいエイプリルフールを!
―――マルクト帝国軍第三師団師団長大佐ジェイド・カーティス』


なんだこれは。

怒りで手が震えた。
時間が止まるだの、マルクト帝国だの、意味の分からない事ばかり。そのくせ、やらかした事はフィナの誘拐という大事だ。
何処の愉快犯か知らないが、ふざけるにも程がある。

フレンは手紙をグシャリと握り締め、ゴミ箱に放り込もうとしたところでこれは重要な証拠物である事を思い出し、その手を止めた。
とりあえず皺を伸ばして再び読める状態にする。
冷静に眺めて見ると、どうして自分がこの文字を読めたのか分からない。それほど、テルカ・リュミレースの文字とはかけ離れた形をしていた。
この文字が、犯人を捜す手がかりになるかもしれない。
フレンは頭の中で捜査プランをさっと練り上げ、部下達に指示を出すべく踵を返した。
すると、突如として天候が変わり、台風の如き暴風が吹いた。空気が窓を叩き、激しい音を立てる。ついにはバンと破裂するような音を立てて窓ガラスが割れた。

「ってえ〜……」

割れたガラスと共に、何者かが床に落ちた。

「何者だ!」

[#次ページ]
[*] [もくじへ戻る] [しおりを挟む]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -