上司?登場
[ 20/22 ]
フレンは唐突に理解した。
いくら外見が変わろうと、彼女はフィナだ。フレンから離れる事を怖がり、すぐ泣いてしまう。幼い少女だ。
彼は艶やかな黒髪をゆっくりと撫でた。
「大丈夫。泣かないで。預言なんて非科学的なもの……」
「預言は音素学に基づいた科学的現象よ」
ティアの場違いなツッコミに、フレンとフィナは絶句した。
「ティア!」
「え、あ、ごめんなさい……!」
ガイに注意され、ティアはハッと口を押さえた。
不安げに眉尻を下げるフィナに、イオンがトコトコと歩み寄った。
「心配する事はありません。預言は、数ある選択肢の一つです。貴方方には、そういう道もある、というだけのことですよ」
フィナの顔を覗き込んで、彼はあたたかな笑顔を見せた。
「そうなの?」
「はい」
「なら、僕はフィナと一緒にいられる道を選ぶよ。これからずっと。そうすれば、僕達に別れなんて訪れないだろう?」
フレンがふわりと微笑む。その笑顔を見て、少女はようやく心が楽になるのを感じた。
「けれど」
継がれた台詞に不安を感じ、フィナの心は小波立った。彼は少し悲しげに
「それでも別れが訪れるなら。それはきっと、僕達が苦慮の末に出した、最良と信じる選択なんだ。だから、別れを怖がる必要は無いよ」
たとえ君が元の世界へ帰ってしまったとしても、それは君の幸せのためになるのだから。
フレンの心の声は、空気を振るわせる事無く胸にしまいこまれた。
『ようやく見つけた』
鯨のような鳴き声と共に、聞き覚えの無い声が辺りに響いた。皆が聞こえるのだから大きな声であるはずだが、それはとても耳に優しい音だった。
「空飛ぶ金のシャチホコ!!?」
キアラの叫びで皆が空を見上げた。そこには、金色に輝く魚のような竜のような、はたまた鳥のような巨大生物が浮いていた。
「あ、神様」
フィナはその動物に見覚えがあった。テルカ・リュミレースへやって来る直前、遥か上空で彼に会ったのだ。その浮世場慣れした姿と話し振りに、彼女は勝手に神様だと思いこんだのだった。
『き、貴様は!!』
『ローレライと言ったか。勝手に我が風を連れ去ったのは』
巨大生物を見るなり、ローレライは目に見えて慌てた。炎のような実体は慌しく形を変え、小さくしぼんでしまった。
一体何ごとかと皆の視線が彼らに集まる。
『勝手をされては困る。彼女は、私が最初に目をつけてテルカ・リュミレースに誘い入れたのだ』
『し、しかし!そちらの時の娘の出現と同時に、こちらの同役はその力を急速に失った!おかしいではないか!!』
『何がおかしい。こちらは何もしていない。ついては、我が風とテルカ・リュミレースの住人、そしてこちらに来て使用した分の時間を要求する』