譜歌
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「ティア!キアラを頼む!」
「分かったわ!」
ルークの指示で、ティアがすかさずキアラのフォローに入った。
キアラの事は彼女に任せておけば大丈夫。これで彼女は再び浮上してくるはずだ。
ルークたちは安心して、再びジェイドとヴァンに注意を向けた。
「聞き捨てなりませんなカーティス大佐。キアラは我々貰い受ける」
「アッシュからキアラに乗り換えたんですか? 残念ながら、キアラは既に私の所有です」
「はっ、貴殿は人権という言葉をご存知か」
「ええ、存じておりますよ。彼女の意志など、後からどうとでもなります」
仲間内で小競り合いが起きていた。
「どうやら、彼らの結束は存外弱かったみたいだね」
「そ、そうですね」
フレンの冷静なコメントに、ルークは身内の恥を見られたような、なんとも恥ずかしい気持ちになった。
「と、とにかく今の隙にフィナを助け出そう! ティア! キアラ! 譜歌を頼む!」
「分かったわルーク! さ、キアラ」
「うん、がんばる」
ティアの手を借りて、キアラは立ち上がった。二人の音律士が大きく息を吸った。
《《〜♪トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ》》
ティアの主旋律に、キアラの対旋律が重なる。ローレライとの契約の証、大譜歌。その欠片である第一音素譜歌の効果は催眠だ。二人で歌う事によって、その効果はさらに強力になる。
『ぐおお、これは、ユリアの譜歌……ッ』
「くっ、メシュティアリカ……! お前も邪魔をするのか……」
「油断、しました……っ」
彼らが眠気でふらついた隙に、フィナは拘束から逃れた。彼女は安全な場所を求め、無意識にフレンへ向かって駆けていた。
「フレン!」
「フィナ!」
フレンはしっかりと彼女を抱きとめた。(剣を持っていたので、片手ではあったが)今度こそフィナを見つけることが出来たと、彼はホッと胸をなでおろした。
本人達に全くその気は無いのだが、その様子はどう見ても恋人達の再会シーンそのものだった。
「やっぱ、女の子の方がいいよな……」
「何がだよ? てゆーかガイ、お前女駄目じゃないか」
「だから言ってるだろ。女性自体は大好きなんだって!」
「大声で言う事ではありませんわよ」
ホッとした気持ちが先行していたフレンだったが、時間が経つごとに少しづつ自分の現状を把握していき、人前で(娘同然とはいえ)年頃の女性と抱き合っているという現実に行き当たって彼は頭から火を噴いた。
「……フレン?」
「あ、ああ、ごめんね。まさか、フィナがこんな綺麗に成長するとは思わなくて」
至近距離ではにかむ彼の顔を見て、フィナも顔を赤く染めた。