幸か不幸か
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『全くだ。大人しく時の止まった世界で、娘の帰りを待っていればよかったものを』

「この声……ローレライか!?」

「そうか。お前は知っているのだったな」

ヴァンはルークを見、嘲るように言った。オレンジ色の炎のようなものが、白い詠師衣にまとわりつくように揺れていた。第七音素意識集合体、ローレライだ。
炎は人の顔のようなものを形作り、ルークたちと対峙した。彼らの頭に、直接声が響く。

『時の娘を手に入れるため、我々は一時手を組んだ。早くお前達もこの娘の必要性に気付き、異界の騎士を元の世界へ叩き帰すのだ』

「そのような下劣な行為、できる訳がありませんわ!彼はフィナを探す為に、どんなところかも分からない異世界へ飛び込んできたのです!それをたたき帰すなど……!」

ナタリアは怒りに手を振るわせた。正義感の強い彼女には、ローレライの台詞は許しがたいものだった。

「ナタリアの言うとおりだよ!」

今度はキアラが前に進み出た。

「ジェイド。ヴァンさんも、なんで何にも知らない子を誘拐するなんて酷い事するの!?確かに時間が進まないと本の続刊が出なかったり、ご飯が中々炊き上がらなかったりして困るけど……」

「え、そこ?」

「しっ、アニス。今は黙っていましょう」

「でも、だからって他の世界から誘拐は駄目だよ!オールドラントみたいに、たくさんの人が生活している世界を犠牲にして、その子を大切に思っている人を悲しませてまですることじゃないよ!」

ルークたちが頷く。彼らと対立する二人は険しい顔で口を結んでいた。

「……物事には優先順位、というものがありまして」

唐突にジェイドが語りだした。キアラが彼を見つめると、その視線が真っ直ぐ返ってきた。眼鏡の奥の赤い瞳は、真剣な光を宿していた。

「私の場合、第一位にキアラ、貴方がいるんですよ」

「え……?」

いきなり何を言うのかと、キアラは目をぱちくりとさせた。

「正直、見ず知らずのどこか遠い国の人間に興味はありません。私にとって重要なのは、キアラ。貴方です。貴方と幸せな未来へ行く為なら、なんだってします。異世界人の誘拐でも」

「つまりぃ」

アニスがひょこっと手を上げた。

「ぜーんぶ原因はキアラって事だよね?この世界の時間が止まったのも、フィナが誘拐されたのも」
「えええええええ!!」

自分の何が悪かったのか。またまた落ち込んだキアラは端っこでしゃがみこんでしまった。
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