パラドックス
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「はれ? あれって、ガイじゃない?」
アニスが丘の向こうからやって来る金髪に気付き、指で指し示した。
確かにそのスッキリとしたシルエットは、見慣れた仲間のもの。
「まあ、本当ですわ!ガイ!」
ナタリアがヒラヒラと手を振る。キアラもつられてそちらを向き、目に入った二つの金の頭に目を見開いた。
「……ガイが細胞分裂した!!」
「そこでレプリカと言わない辺りが貴方ですね。多細胞生物である人間が細胞分裂したとしても、固体の増殖にはなりませんよ」
ジェイドが小ばかにした調子で言い聞かせる。彼女は悔しかったようで、少し考えてから言い返した。
「じゃあ、同じ時間に二人の人間がいる、タイムパラドックスだよ!」
「ガイが旅行したのは時間ではなく、異世界ですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい」
「ジェイド、なんでそんな事知ってるの?」
「さあ〜どうしてでしょうねぇ。まさにタイムパラドックスですねぇ」
「?」
「現在の私が、知らないはずの事をしっている。私はこれからガイに話を聞くわけですから、未来の私はガイが何処に行っていたか知ってるんですよ」
「う〜……うん?」
「未来の私の知識を何故知りえたか。いやあ、不思議ですねぇ」
「分かった!手品だね!」
「種も仕掛けもありませんよ〜」
「だから、ジェイドが犯人なんだろ!!!」
ルークが痺れを切らして叫んだ。それを聞いて、キアラは無言で数秒停止した後「そっか!」と叫んだ。
「ジェイドひどい!!」
「おや〜キアラに嫌われてしまいました。これは耐え難いほどの精神的苦痛です。ルーク。どう落とし前を付けてくれるのですか?」
微笑を崩さずに慰謝料を請求してくる大人気ない大人を無視し、ルークは先程から木陰に隠れてしまっている人物に目を向けた。
「なあ、平気だから出てこいよ」
「や」
「俺、こんな事になるとは思わなくてさ……ごめんな。でも、そんな隠れるほどの事じゃ……」
「私、ブスだから……こんな姿じゃ、フレンに会えない。きっと、私だって分かってもらえない」
「ブス? まあ、確かに絶世の美女ってわけじゃあないけど……」
「ほら!」
「うわ、違うって! 悪い意味じゃなくてその……」
二人がグズグズしている間に、金髪の二人が到着してしまった。フレンの紹介も早々に、ガイは本題を口にした。
「黒髪の女の子は何処にいるんだ? ジェイドが連れて来ただろう?」
「あの子なら、あっちの木陰にいるわ。あ、でも今は……」
「フィナ!!」
ティアに居場所を聞くなり、フレンは脇目も振らず駆け出した。彼の存在に気付いたルークが道を譲る。すらりと天に向かって伸びる一本の木の陰に、捜し求めていた流れるような黒髪が見えた。