ローレライ
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『再びこちらの時が止まり、話が進まなくなるという事だ』
「だからどーゆーことだよそれは!!」
『お前では話にならん。死霊使いを出せ』
「だったら最初っから俺に繋ぐな!!」
「……誰と話しているんですか?」
ルークの様子を見ていたフィナが、イオンに尋ねた。
イオンは柔らかく微笑んで、「それはですね……」と優しく説明を始めた。
「……というわけで、ルークは離れた所にいるアッシュやローレライと、伝書鳩無しでお話ができるんです」
「すごい」
「ええ。すごいですね」
「なんだかのどかな風景ですわ……」
二人の様子を眺めていたナタリアが、ほうと溜息をついた。まるで、巨匠の絵画を見た後のようだった。
「イオン様と子供って、マイナスイオンの出る組み合わせだよね〜」
「可愛いわ……」
「ねー」
皆がのんびりと二人を傍観していると、いよいよルークの議論は白熱していき、最終的に通信相手に体を乗っ取られるという形で口論は収束した。
『我と同じ力、見せてみよ……!』
「んなっ!?また俺の体を勝手に……!」
ルークの腕は本人の意思とは関係無しに持ち上がり、手のひらにはオレンジ色の光が収束しつつあった。
血の気が引いた。以前、彼に体を操られた時、ルークはその時乗っていた船の一部を、跡形も無く消し去ってしまったのだ。
「何をする気だ!!やめろ!!」
ただ事ではない叫びを聞いて、皆の注意がルークに向かった。
「ルーク!?どうしましたの!?」
治癒術士であるナタリアが、真っ先にルークの元に駆け寄った。
「来るな!!」
「あの力は……まさか!」
ティアが彼の手にある、オレンジの光を見て息を呑んだ。
ルークの力は船の一部を消し去っただけではない。
以前、地核を支えていたパッセージリングを消滅させ、街一つを滅ぼしてしまった事があるのだ。
「皆さん、下がって!ルーク。どういうつもりです?」
「お前に言われたくねえ!」
さりげなくキアラを背に庇っているジェイドを見て、ルークは更に心がささくれ立つのを感じた。
なんでジェイドなんかに……!
しかし、今はそんな事を考えている場合ではない。
ルークは必死に自分を操ろうとする意志に抵抗し、力を散らそうとした。
だが、『緊急事態』と言うだけあって、今日のローレライは一味違った。
『邪魔をするな。主人公としてイマイチぱっとしないキアラをリストラし、新たなる男の夢、黒髪ロングの美少女をその位置に据えるのだ……!』
「何意味不明なこと言ってんだよ……!」
『そのためには、そこにいる幼女を本来の姿に戻さねばならぬ』
「幼女って……フィナの事か?」
『隙あり!!』
ルークがフィナを見ると同時に、彼の手のひらがグルリとフィナの方へ向いた。
「しまった!」