再び音素の世界へ
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「い゛!?」

身の危険を感じて後じさるガイを、フレンが庇い立ち塞がった。

「待て。彼をどうする気だ」

「異界への道標となってもらう。この男が生贄に選ばれたのは、この世界に同位の存在が有ったから。恐らくは、お前」

「何言ってっかわかんねーよ」

ユーリも刀を携え、立ち上がった。男は微かな失望を湛えた瞳で彼を見やる。

「時は一刻を争う。お前達はあの娘より、得体の知れないこの男の方を重要視するのか」

「周囲を顧みないお前と違って、こっちは人並みの道徳持ち合わせた一般人なんだよ」

「道徳……笑わせる。人の多くは目的のために、それを蔑ろにする」

「じゃあ、お前はその『多くの人』なわけだ」

「……達者な口だ」

「そいつはどうも」

男は先程まで渦巻いていた感情が収まったようだった。瞼を閉じて黙り込んだと思うと、かっと開いた目でフレンを射抜いた。

「異界同位体であるお前なら、異界人をを送り返すのと同時にあちらへ飛ばせるかもしれない」

「僕も彼の世界へ行けるというのか!?」

答えは返ってこなかった。

「この方法では、娘の所在を掴むことができない。生贄を使うよりも不確実だが、娘の捜索はお前に任せる事としよう」

そう言うと、彼は返事も聞かずに剣を掲げた。小さな風が起こり、長い白髪がふわりと揺れた。

「帰りの道は用意していない。だが、娘は死んででも探し出せ」

「んな無茶苦茶な!」

有無を言わせぬ男の様子に、ガイが思わず不平を漏らしたが、フレンの心に迷いは無かった。
自分にはフィナを守る責任がある。彼女を守る為ならば、もとよりこの命、惜しくはない。

「必ず、フィナを連れて帰る」

姿勢を正し、右腕を胸の前で水平に構える。帝国騎士の敬礼を見て、男は微かに微笑んだように見えた。



***




突然の痛みに、ルークは頭を抱えて唸った。
いつものヤツだ。マルクトに誘拐されてから―――実際は違っていたのだが―――度々襲われる、原因不明の頭痛。
今ではフォンスロットの同調が原因ではないかと見当がついている。同位体からの通信があると、合図のように頭痛が襲ってくるのだ。
「大丈夫?」と気遣う声が聞こえ、ルークは「ああ」と返事を返した。
もうすぐ、声が聞こえてくるはず。そちらのほうに意識を集中させると、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。

『緊急事態だ。ホドの領主が、異界の騎士を連れて戻ってきた。このままでは、時の娘を奪われてしまう』

「ホド……って……ガイが? 娘を奪われるって、どういうことだよ……!」
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